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48 一ノ谷さんは紳士
しおりを挟む「さて、のぼせちゃう前に出よっか。」
そう言って俺を抱え、ザバッと水音をさせて立ち上がる一ノ谷さん。バスタブからは男2人分の体積が減って、水位は一気に低くなった。
「あっ、あの…、」
「ん?どうかした?」
「あの、そのギ……いえ…。」
そのギンギンのちんこはどうするんですか?なんて品の無い事を、俺はノーブル・一ノ谷さんには言えなかった。
それに、それを指摘したところで、じゃあどうしてあげられるというのかって話だ。同性どころか異性間のセックスすら知らない俺に、同性の猛りを慰められるスキルなんかある訳がない。そりゃ男なんだから発散の為に手淫はするけど、イく迄単調に擦るくらいだし、中学から全く技術向上が見られず稚拙なもんだ。モテモテ幅広王道人生歩いて来たような人に披露できるようなものじゃない。じゃあ…口?いや待てよ…そんな俺が口での御奉仕なんて上手く出来ると思うのか…?
何一つ言われた訳でもないのに俺の脳内ではそんな会議が繰り広げられていた。
そのギ…と言いかけていた一瞬の間にだ。そして、口を噤んだ。
本人がスルーしてくれてるのにわざわざ薮の蛇をつつくような真似をすべきじゃないと踏んだからだ。触らぬ神に祟りなし。
「何?変なユイ君。」
腕の中で急にスンッと口を閉ざした俺の顔を見て、にこりと穏やかに微笑む一ノ谷さんに思わず見蕩れる。めっちゃ貴公子。
究極に育ちの良い人は例えチンポがギンギンになってても涼しい顔で微笑む事が出来るのだろうか…。理性が服着て歩いてるようなお人だぜ。
バスルームを出て、バスマットの上に降ろしてもらえた。少しの間そこに立たされて大判のバスタオルで水滴を拭われ、真っ白なバスローブを着せられる。そして一ノ谷さんもササッとバスローブを着、濡れ髪を掻き上げる。で、俺はまた抱え上げられて、隣接するパウダールームのドレッサー前にある椅子に座らされ、髪をドライヤーで乾かされる。一ノ谷さんの指が俺の髪を手櫛で梳かしながら温い温風を入れる。
最初の頃の緊張は何処へやら、今ではこののんびり世話されている時間が結構好きだ。慣れって怖い。それとも王子業が身についてきたって事なのか。
目の前の鏡の中の自分の姿は、王子というよりは王子に飼われて世話されてる犬か猫って感じだが。
しばらく乾かされていたらドライヤーの音が止まった。代わりにブラシを通されて、髪が綺麗に撫でつけられる。ブラシで髪を梳かし終えた一ノ谷さんは、今度は青い容器を手に取り、その中身を少し出して手のひらを擦り合わせて伸ばし、毛先を重点的に塗り込んでくれた。トリートメントである。一ノ谷さんの髪からするのと同じラグジュアリーな香り。そして、ここ一年近く、俺自身もずっと纏っている香り。ぶっちゃけ、これも俺には分不相応な高級品である。一ノ谷さんに貰わなきゃ一生買う事も使う事も無かったと思われ。きっと、
『離れている時も、僕と同じ香りでいて欲しい。』
という意味で贈られたんだろうなと解釈してるから気分は微妙だが、物に罪は無いから気にしないで良いかとガンガン使ってる。
「はい、お疲れ様。」
塗布を終わり、今度は手櫛軽く髪を整えてくれた一ノ谷さんは、俺の両肩に手を置いて微笑んだ。
「ありがとう。」
「手を洗ってきたらソファに移動しようか。何か飲み物を入れよう。」
「うん。」
例の如くお姫様抱っこでテレビ前のソファに運ばれた。ちんまり座る俺にアイスカフェラテを入れてくれた後一の谷さんは、今度は自分の髪を乾かす為に再びパウダールームへ戻っていった。一ノ谷さんのバスローブの股間は鎮火したのだろうか、と視線で追いつつ、俺はカフェラテを飲みながら洋画の流れるテレビを眺め、一の谷さんを待った。数分も待てば素早く髪を乾かした一ノ谷さんが、自分の飲み物を用意してソファに戻って来た。その後は終了時間迄まったりと過ごすだけ…。とまあ、これが毎回風呂上がりの一連の流れだ。
そんな何時もと変わらない流れの中、それは不意に投げ込まれた。
「ユイ君、三田君って子と付き合ってるの?」
「ぶふっ!」
急に一ノ谷さんの口から三田の名前が出て来た事に面食らって、危うく飲んでいたカフェラテを吹きそうになった。咄嗟に手で押さえて広範囲の被害を免れたのは、我ながらファインプレーだと思う。でもローブの袖口は少し汚してしまった。白だから目立つと思って慌てる俺。
「うわ、やば…。」
「大丈夫、部屋着の替えはたくさんあるから。」
俺と違って慌てず騒がず、スッと立ち上がって寝室のクロゼットから衣類を持って来る一ノ谷さん。
袖口の汚れた俺のバスローブを脱がせてくれて、上下共丁寧に着替えさせてくれてから、彼は横に腰を下ろした。
俺好みの、肌触りの酔いコットン生地のルームウェア。
「ごめんなさい、汚しちゃって。」
「気にしないで。僕がびっくりさせちゃったんだよね。」
急に聞いちゃってごめんね、と逆に謝られる。本当にすまなそうな表情で、なんか俺の方が申し訳なくなった。
気を落ちつかせようとしてゆっくりとカフェラテを飲む。ふう。
見れば横の一ノ谷さんも、さっき入れてきていたホットコーヒーに口をつけている。
…さっきの話を避けるのは不自然だよな。
「…あの、どうして三田の事を…?」
意を決して質問してみると、一ノ谷さんは目線を俺に向けて答えた。
「昨日、総和会病院に来てたでしょう。」
「あ、はい。」
総和会は、三田の搬送された病院だ。でも救急だったし、一般の外来客とは入り口も違った。それに帰りは表玄関から帰ったけど、既に夕方だったから看護師や職員くらいしか見なかったのに。
一ノ谷さん、院内の何処で俺達を見てたんだろう?
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