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43 恋すると好きな人の好みに合わせたくなるタイプらしい
しおりを挟む大事を取ってもう一日休んでいたらどうかと言った俺に、
「大丈夫。絶対行く。一緒に行く。」
そう言いながら着替えを始める三田。
確かに肉巻きおにぎりもしっかり4個食べてたし、体調は戻っていそうだ。
「ならまあ…。マメに水分補給な。」
「大丈夫。ちょっと待ってて。」
そう言って三田は、2階の自室に行く為に階段を上がっていった。
「ああ。」
俺は三田の姿を見送ってから、汚れた食器を食洗機にセットした。偶然にも黒川さんちにある型と同じだから、操作はわかる。そして、その作業をしながら考えた。
三限目は講義も被ってるけど4限は違うから様子も見てやれない。
月、水の出勤日なら、一度帰ってさっと身支度してから家の近所で送迎車に拾って貰うんだけど、金曜日は大学の近くに迎えに来てもらって、車に積んであるジャケットを羽織り、パッと見の身なりを整えただけで行く。ホテルのフロントやロビーを通過するのに不自然じゃない程度の服装だ。何故なら、どうせ高確率で1時間以内に着替える事になるから。その際、着替える前にシャワーを使わせてもらう事もあるし、そのまま着替えだけをする事もあるが、とにかく行けばクリーニング済みのスーツも何着か置いてあるし、新しい服が届いている事もある。で、それらに着替えて外に食事に出かけるか、部屋着に着替えて部屋に運ばれてくる食事を一緒に食べるかのどちらかだ。一の谷さんの日は借り切りで時間に余裕があるからこそ出来る事である。
セレブすげー。
一の谷さんの豪気な遊び方は置いといて、つまり何が言いたいかと言うと、昨日みたいに一緒に付き添って帰ってやれないという事だ。自己責任で巻き返しの出来る授業とは違って、お客さん相手である仕事はすっぽかせないから…。
……と、そこ迄考えてハッとした。
いや俺、何でこんなに三田の事気にしてんだろ。
三田=あっくんで、昔も今も俺の事がすごく大好きなのはわかったけど、俺は別に…。三田だって、あの頃みたいに子供じゃない。体に異常を感じたら、酷くなる前に自分で対処するだろう。第一あいつの周りには取り巻きだってたくさん居る。俺が気にしてやらなくたって、その中の誰かが放っとかないよな…。
作業を終えて手を濯いでいたら、三田が下りてきた。胸の辺りに英語でロゴの入った、ゆるっとした白Tシャツにカーキのカーゴパンツ。ブランドの黒いキャンパストートを肩から掛けて、それでも何時もよりユルめに気を抜いたようなカジュアルなスタイルだ。髪もノーセット。前髪下りたままだと元々の髪の艶がわかるんだな、と見ていると、どうしたの?と三田に聞かれた。
「いや、髪、良いのか。」
「髪?」
「何時もみたいにセットしないの?」
俺の言葉に、三田は前髪を一筋指で摘んで何か考えている様子。暫くそうしてて、おもむろに口を開いた。
「ゆっくんはどっちが好き?」
「え、何で俺?」
突然よくわからない選択肢を突きつけられ、戸惑う俺。しかし三田の下睫毛…じゃない、視線の圧が強いので、答えない訳にはいかない。
「…まあ、たまには前髪サラッとしてるのも良いんじゃない?」
「マジ?」
「うん。」
「ならこれで行こ。」
玄関手前にある姿見の前で髪を手櫛でチョイチョイと直す三田。良いのか、俺なんかの意見で適当に決めちゃって。
俺は地味な普通顔だから常日頃の前髪下りたスーパーナチュラルヘアでも、バイト時にスーツに合うようにワックス使ってやや流したスタイルでもそう変わり映えはしないが、顔面偏差値激高な三田は違う。
下りてりゃ下りてるで、軽めにカットされた前髪の隙間から覗く形の良い目の綺麗さが際立って、雰囲気も一気に少年ぽくなる。
歳上のお姉様達が放置しておけないタイプの美少年が爆誕してしまってる。このまま行ったら取り巻き達による争奪戦が始まったりして…。
リビングのソファに置いていたリュックを右手で持ち上げながら妙な想像をして、はは、とぬるい笑いを漏らす俺に、三田は言った。
「ゆっくんが好きな方にしたいんだ。俺が気を惹きたいのは、ゆっくんだけだから。」
「…。」
「アイツ…刈谷なんかに、負けねーから。」
「かり…え、お前、ミズキに対抗心を?」
「だって昨日、アイツゆっくんに告白してたじゃん!」
あ、そうだった、と思い出した。それで乱入して来ようとしてぶっ倒れたんだよな。すっかり忘れてた。そして、ミズキにも三田がどうなったのかを連絡してない事も思い出した。
…まあ、いっか。ミズキは三田を敬遠してるっぽいし、それに三田がこんな調子だから、これからも接触しない方が良い気がする。でも一応、ミズキのアレは告白とは言いきれない事は三田に伝えとかなきゃならないだろうと、俺は口を開いた。
「あのな、ミズキのアレは別に告白って事じゃないと思うぞ。」
「え、ゆっくん本気で言ってる?」
「え?」
「男がタダの友達にあんなに面と向かって好きとか普通言わないからね?」
「……そうなのか?」
そんなの、まともな経緯で友達が出来た事が無い俺には、よくわからないんだけど…。
…あれ?まさか、それでコイツ…。
「とにかく、あのヤローは油断ならねえ。絶対2人になんかさせねえ。」
「…あ、そ…。」
取り敢えず、三田がすごく元気になったって事は、良くわかった。
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