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32 鬼の霍乱
しおりを挟む真昼間の外なのに妙な雰囲気を醸し出すミズキ。
呆然とする俺。何時の間にか詰められていた距離。
猫のような大きな瞳に気を取られ、鼻先同士が触れ合ってしまいそうな程にミズキの顔が近づいた時...。
「ちょっと待った!!!」
あまりにもタイムリーに聞き覚えのある声がして、何処からともなく三田が現れた。白地に洒落たプリントのシャツをはためかせて、戦隊ヒーローばりに走って来る。
うわ、このクソ暑い中、どっから走って来たんだコイツ。息切れしてる。
走り寄ってきた三田は眉を吊り上げながら、俺とミズキを乱暴に引き剥がした。結構強い力で肩を掴まれたからか、ミズキは顔を顰めている。俺も痛い。
「...急に何だよ三田くん。」
「何だよじゃねーわ!!
お前、箕田に何しようとしてんだよ、白昼堂々油断ならない奴だな!!」
文句を言うミズキに、三田は荒い口調で怒鳴った。少し離れたベンチでお昼を食べていた社会人らしき若い女性2人が、びっくりしたようにこっちを見る。やばくない?喧嘩とかになったら通報されるかも。
そう考えた俺は三田を宥める。
「三田、やめろって。」
「箕田、今何されそうになったか気づいてねえのかよ?」
「...いや、それは...。」
「なんだよ、俺の時は突き飛ばして怒った癖に、コイツには良いのかよ?
コイツ、何時もお前に纏わりついてる地味メガネだろ?」
「地味メガネって、お前...。」
た、確かに普段のミズキはそう見せてるけど、と思う俺を他所に三田は忌々しそうに言い放った。
「おかしいと思ってたんだよ。コイツ、入学して最初の頃はこんな感じじゃなかったし。何時の間にかそんな野暮ったいカッコになってたんだよな。」
そうなのか。他人を注意して見る事が無いから全然知らなかった。ミズキって最初は顔隠してなかったのか。
そして尚もミズキに対して荒々しく言い放つ三田。
「箕田に近づく為に"普通"を装って同類アピったんだろうが!!卑怯者!!」
「いや、ミズキには事情が...。」
「くっ...!その通りです...。」
俺がフォローしてやろうとしたそばから台無しにするミズキに驚愕。お前もう喋んな!!
しかしそんな俺の心の叫びも虚しく、更にミズキは三田の逆上を誘う言葉を発した。
「確かに僕は卑怯者だよ...。警戒されないように同じカテゴリーを装って親しくなり、あわよくばって気持ちがあったのは認める。
でも...時に恋は...人を愚かにするものじゃないかな..!!」
「てめぇやっぱり...!!」
「ミズキ!お前もうお口チャック!!」
俺の言葉にミズキが黙った。
座っているミズキに殴り掛かろうとする三田を、羽交い締めにして必死に止める。華奢なミズキを、長身で体格で勝る三田が怒りに任せて殴ったりしたら、只では済まない。
「やめろってば三田!」
「何で止めるんだよ!箕田、コイツの事好きなのかよ!!」
「そういう事じゃねえよ!」
何だその理論?
な、なんかお前、意外と面倒臭いな三田。こんなキャラだったかなお前?
そんな気持ちでミズキから距離を離そうとするのに、やっぱり筋力差でそうもいかない。
三田はミズキの服の襟首を掴み、睨みつけているようだ。背後にいる俺には三田の顔は見えないけど、盛大に怯え出したミズキの表情でわかる。
「俺の方が先に告白したじゃん!!!これでもすげぇ勇気出したのに、俺のはまともに取り合ってくれなかった癖に、コイツはいーのかよ?!」
そう怒鳴った三田の声は、震えていた。怒りだけじゃない感情の混ざった声は、俺の心をダイレクトに刺してくる。
え...三田...、あの時、実は勇気振り絞ってたんかい...。
そう思った途端、どっと襲ってくる罪悪感。
確かに軽んじてしまってた。三田が俺なんかに本気だとは思ってなかったから、不意打ちにキスされたのも悪ふざけされたと思って、あの後はまともに顔も見なかった。それが三田を傷つけてたんだろうか。
「...良いなんて思ってねえよ。されたらお前の時と同じように怒ってたさ。」
「...どうだか。」
三田を宥める為とはいえ、何故か言い訳がましくなってしまった。別に彼氏でもないのに何故か気を使ってしまうのは、はなから三田の本気を疑ってしまっていたからだ。
モテるから、遊び人だから、軽く見えるから。
そんなのは俺が勝手に抱いたイメージに過ぎないのに、本当にその通りの人間なんだと決めつけてしまっていた事への自責だ。
「本当だ、三田。...ごめんな。」
ミズキの襟首を掴んでいた三田の手から力が抜けた。
解放されたミズキが立ち上がって後ろに退がる。それにホッとして、俺は羽交い締めを解き、三田の前に回った。
「三田、」
三田は泣いていた。
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