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6 成就 (靫side) ※R18描写あり

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「…川村、君…。」

訝しげに首を捻り、少し考えて。それからみるみる顔色を失っていく目の前の男。

面白い程に顔を引き攣らせて。


「はい、川村 靫です。」

俺は今、きっと過去最高の笑顔を繰り出せているんじゃないだろうか。

それとは裏腹に目の前の男は、今度は細かく震えだした。


「順序が違ってしまった事はお詫びします。もっと早くご挨拶に伺うべきでした。

ですが僕は真剣です。」

俺がちらりと横に座っている彼に目をやると、彼は不安そうに俺を見た。
小さく頷いてやる。
大丈夫、俺は上手くやる。


「昨日、波緒君とは番の契約も交わしました。
出会った瞬間から運命だとわかりました。」


目の前の男の目が驚愕に見開かれた。







俺は昨日、波緒を抱いた。
2度目の再会から2週間。
毎日のように呼び出して会って、少しづつ接触を重ねた。
1日毎に波緒の体は解れ、開いていった。

気構えは十分出来ていた筈だ。
そして、昨日。
波緒に待ち望んでいたヒートが来た。


薄暗いホテルの一室で、俺のペニスを受け入れさせようとした時、波緒は僅かに俺の腕を押し留めようとした。

「…駄目だ、ソレをしたらもう戻れなくなる…。」

口ではそう言いながらも、抵抗は弱かった。
体も心も、とっくに俺を受け入れている癖に。


「戻る?どこに?」

波緒の両足を抱え上げ、柔らかく俺を誘う粘膜に亀頭を押し込む。
ゴムなんか着けていないから、刺激が直に来る。

「…だって、僕ら…」

泣きそうに潤んでいる大きな瞳。俺は波緒が何を言いたいか、知っている。


「兄弟だから?」

俺は腰を押し進めながら事も無げに言った。
実際、俺にはそんなの大した問題じゃない。俺にとって大事なのは、早く波緒の全てを手に入れる事だ。

俺の言葉に波緒はびくりと肩を震わせて、綺麗な目を見開いた。

「…知ってたの?」

「うん。でもそれ、重要?」

もうとっくの昔に、俺にとってはどうでも良い話になっていた。

「当たり前、じゃん…だって、兄弟、だよ…ほんとはこんな事…アッ…」

「俺とセックスするより重要な事?」

抵抗を見せるくせに締め付けてくる、狭くて熱い肉壁に擦り付けてやると波緒は悶えて嬌声を上げた。
さっき迄弄り倒していた前立腺のお陰で、波緒の体は十分に熟して蕩けている。

俺は迷わなかった。
一気に突き入れて、揺さぶって、波緒の理性を奪った。
そして腰に絡み付いて来た波緒の脚に強請られるようにして中に射精した。

そのままひっくり返して後ろから突き上げて、白いうなじに歯を立てた。

そして、波緒が理性を取り戻す前に 俺達の番は成立した。
俺はその後も何度も波緒の中で果てた。勿論、孕ませるつもりだ。   



全てが終わり、自我を取り戻した波緒の顔は青褪めていた。


「…何時から知ってたの?」  

そう聞かれて、俺は素直に答えた。

「中学の時、母さんが死んだ後。ずっと父親は死んだって聞いてたんだけどな。」

俺の返答に、波緒は唇を噛んだ。

「…そうなんだ…僕が知ったのも、その辺り…。」

「俺は波緒が知ってたって事が意外だったよ。
誰に聞いたの?」

まさかあの父親がわざわざ多感な年頃の息子に自分の悪事を告白するとは思えないけど…。そう考えていたら、波緒は俯いて答えた。

「…父さんと、父さんの友達が話してたのが、たまたま聞こえて…。」

「あー、なる。」

やっぱりな、と思った。

「父さんが…靫のお母さんにした仕打ちもその時知った。」

「そっか。」



それから波緒はぽつぽつと語り出した。

兄がいると知り、聞こえた名前を頼りに母さんの事を調べた事。
川村の家を知った事。
一度だけ、川村の家を見に来て俺を見かけた事。

俺に対して、ずっと罪悪感を抱いていた事。


やらかした当人達はそんな事も気にせず、何なら普段は全く忘れてのうのうと暮らしていただろうに、子供である波緒だけが、中学の時から何年もずっと悩んでいたのだ。
もしかしたら初めて見たあの時には既に?

そう思った瞬間、俺の中に 父に対する怒りが湧いた。
母に対する仕打ち、その後も、拒否されたからという理由で経済的支援も、俺の様子を気に掛ける事も無く。
母が亡くなった時でさえ、あの男からは何一つの悔やみも、香典すら来なかった。

僅かなりとも罪悪感や責任感が残っていたのなら出来ない事じゃないだろうか。
母が亡くなっても、自分の息子である俺は生きて存在しているのだ。
残された未だ中学生の息子に対して、何か出来る事は無いかと訪ねてきたりするもんじゃないだろうか。罵倒される事を覚悟で。

しかし実際には父はそんなリアクションは起こさなかったし、俺は祖父母に経済的負担をかけない為に返済不要の奨学金を受けて高校、大学と進学した。
父のαの血のお陰か、実はかなり知能指数の高かった母譲りなのか、俺は世間一般のαよりも優秀だった。その遺伝子を与えてくれた事と、俺の番の波緒をこの世に生み出してくれたのは屑なりにファインプレーだったなと感謝すらしたいところだ。



実の兄と番になってしまった事の罪深さに震える波緒を優しく抱き締める。

「波緒。その罪悪感は、俺達が持つべきものじゃないよ。」

「…え?」

「だから、それを返しに行こうか。本人達にさ。」


俺がそう言って微笑むと、俺を見上げた波緒の瞳に昏い光が灯ったように見えた。
俺は確信した。

波緒は親を憎んでいる。


「波緒。俺達、どんな番よりも深い絆で結ばれてるんだよ。
血の絆だ。
誰より、何より濃い。

だから何者にも、俺達を引き離す事なんか出来ないし、俺達はもう何があっても離れられないんだ。」

耳元にそう囁くと、波緒は吹っ切れたように深く頷いた。
迷いは消えたのだろうか。



俺はスマホのカレンダーを繰った。


「明日、挨拶に行くよ。」



俺達の父親に。



波緒は俺の首に腕を回して、頷いた。


明日、俺はあの家族から、父から最愛の息子を、波緒を奪う。

あの男は、あの男の番の女…波緒の母親は、どんな顔をするのだろうか。

目の前で自分の血を分けた息子に息子を奪われる2人の顔を想像すると面白くて、俺は波緒を抱き締めてククッと嗤った。


もう直ぐ日付けが変わる。










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