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50 連絡

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再び庄田のスマホに思いがけない着信が入ったのは、斗真が再び姿を消した翌日の昼、12時きっかりの事だった。

プライベート用の携帯電話だ。連絡してくる者は限られている。和久田の調査に進展があったか、朝森の元に斗真から連絡でも入ったのか、とスマホを手にして目を剥いた。表示されたのは、菱田斗真の名。何よりも焦がれ待っていたその着信に、信じられない思いで通話をタップする。

「斗真っ?!とまくん?」  

待ちに待った連絡。
斗真が姿を消した動機を考えれば、きっと葛藤しながら庄田のナンバーのリダイヤルを押した筈だった。驚かせないようにと思うのに、性急に呼びかけるのを止められない。
けれど、自分が捲し立てると斗真が喋れないと気づいて、庄田は口を閉じた。聞きたい事は山ほどあるが、それは後で良い。今は只、早く斗真の声をこの耳に聞きたい。そして無事を確かめたかった。
 
だが、受話口から聴こえて来たのは、斗真からは聞いた事のない、押し殺したような笑い声だった。

「……誰だ?」

明らかに斗真ではない。そう確信して問いかけた声が尖る。所持者本人のスマホから本人以外が掛けてくるケースなんて、大概ロクなものではない。
斗真はどうしたのか。

緊迫した様子が伝わったのだろうか。相手の笑い声が止んだ。

『や。久々、庄田。』

「…?!お前…鳥谷、か?」

まさか、斗真のスマホから鳥谷が掛けてくるとは想像すら出来なかった。
斗真は鳥谷に傷つけられ、友人である朝森を頼り、何日も朝森のマンションに滞在していた。姿を消したのは昨日だ。書き置きから、本人意思で出て行ったのは明らか。しかも、最初に斗真が帰らなくなった日から今日まで、スマホの電源が落とされていたのは、GPSで位置情報が出ない事をずっと確認し続けていた庄田が一番良く知っている。

なのに鳥谷が、何故?

接触した日に斗真がスマホを落として、鳥谷がそれを拾っていた?いや、部屋で斗真が電源を落としたスマホの機体を見つめていたという事は朝森からも聞いている。
朝森宅を出て行った斗真が、わざわざ加害者である鳥谷と連絡を取ったとも考えにくい。なのに…。

(…何故、鳥谷が斗真の携帯を…。)

『ぶはっ!何その間。今ぐーるぐる考えてる感じ?
何で俺が、愛しの斗真君のスマホから連絡してきたのか。』

「……。」

相変わらず他人を茶化すような物言いをする男だ。庄田は苛立ちを覚えながら、それでも鳥谷の種明かしを待った。

『それはな、俺達が一緒に居るからだ』

「……何故、一緒に?」

『何故だろうなあ?…"運命"、かな?出会っちゃう"運命"…なんてね。ふはっ!』

運命。
この男の口から出る"運命"は、何故こうも忌々しく響くのだろうか。
庄田はギリッと唇を噛む。

「…冗談はよせ。」

低く絞り出した声に篭った怒りを感じ取ったのか、鳥谷は笑うのを止めたようだった。

『ま、そうだな。冗談はここまでにしよう。』

先程までとは違って、落ち着いた声色で、電話の向こうの男は話し始める。

『俺が斗真君と一緒にいる理由を知りたきゃ、今から指示する場所に来い。
話をしようぜ。…これからの俺達の、な。』

「これからの俺達の話?」

何を言っているのだ、とは言い返せなかった。本当に向こうに斗真がいるのなら、下手に刺激するのは良くない。だが、本当に?

「…本当に一緒にいるのか?」

『疑り深いなあ…。ね、斗真君。…ほら、庄田だよ。斗真君ってば。』

庄田の言葉に、鳥谷が呆れたように身動ぎするような衣擦れの音がする。斗真が電話に出るのかと耳を澄ませていると、ウッという小さな呻き声が聞こえた。

(斗真…!!)

ほんの僅かに聞こえただけのソレは斗真の声に違いなく、庄田は奥歯を噛み締めた。

間違いなく、斗真は鳥谷の元にいる。

「…お前、斗真に何かしてるんじゃないだろうな?」

今にも怒声が出そうなのを耐えて問うと、鳥谷はフッと笑って答えた。

『心配してんのか?あんまり心配性が過ぎると嫌われるぜ。大丈夫、今回は丁重に扱ってるさ。何せ、大事なお姫様だもんな。』

「…本当だろうな?」

『あ、ついさっきのは別だぞ。斗真君、お前を来させるのに反対みたいでさ。喋ってってお願いしてもそっぽ向いて声出してくれなかったから、仕方なく。 』

あの鳥谷が、丸一日斗真を拘束していて何もしていないというのが俄には信じられないが、今は信じるしかない。そうでなければ、斗真の心境を思って庄田自身が崩れてしまいそうだ。

『とにかく、斗真君は無事だ。今の所はな。会いたいだろ?』

「……何処へ、行けば良い?」

薄い金属板の向こうで鳥谷が唇を吊り上げたのが目に見えるようで、庄田はこぶしを強く握りしめた。



通話を切ると、斗真からメッセージが送られて来た。正確には斗真のスマホを勝手に操作している鳥谷からだ。
そこにはとある住所が打ち込まれている。庄田の自宅から車なら30~40分程の場所だった。庄田は少し考え、そのメッセージを和久田に転送した。
10秒も経たない内に既読が付き、直後に着信を伝えるコールが鳴った。




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