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【最終回】悪役同士だって幸せだ
しおりを挟む翌日からのストロベリー…いや、マクリルはすさまじかった。
ポンコツ王太子は予想以上に自分をかまい倒してくれるマクリルに、目に見えて傾倒していくのがわかった。
王道すごい。
平民出身だから作法も礼儀も身についてはいないけれど、天真爛漫で情に厚く優しく、親しい者の為には時に激しい一面を見せる。
求心力あるよな~。
自分が傷付いてたりする時にそんな奴が現れたら、そりゃがっつり嵌るよね~。
特にポンコツ王太子みたいな奴は。
この世界で古の昔からまことしやかに言い伝えられている、"王道"という存在。
それは平和な日常に、突然現れるのだという。
光属性と闇属性があるらしい。(笑)
そしてそれは時に、人々を導く光になり、時に混沌の闇に陥れる嵐にもなると言われている。
あまりにも周囲の人間を惹き付ける魅了が過ぎる故に、王道を巡った争いが絶えなくなるかららしいが…。
そして、幸いな事にマクリルは光の王道の方だったようだ。
闇王道じゃなくて良かった。良かった。
「こら、熱いもの持ってんだから余所見しちゃダメだろアレス。」
「わ、すまないマクリル。」
「もー、仕方ねぇなあ。
美人に見蕩れるのは仕方ねぇけど、ぼーっとすんなよ。ほら、拭いてやるからこっち向け。」
「…マクリル…。」
「余所見ばっかだな、お前。そんなにあちこち見てたら注意力散漫で転けるぞ。」
マクリルと一緒にいても綺麗な生徒が目につくと目が行ってしまうのか、ポンコツは持っていたカップをうっかり零した。
それを、やんわり注意しながら自分のハンカチで拭いてやるマクリル。
マクリルは純粋に友人として世話を焼いている様子だけれど、ポンコツ王太子の方は世話を焼かれる度にマクリルを見る目がどんどん怪しくなっている。
秒速で惹かれてるな、アレは…。
さっさと、余所見をするな俺だけ見てろ、とかマクリルが言ってくれたら一発なのに…。
まあ…どうせくっつくのは時間の問題だから心配なさそうだけどな、と俺とエリオはカルボナーラを食しながら遠くから2人の席を観察していた。
王太子達の席に同席する者は他に無く、遠巻きにされ完全に二人の世界だが2人はそれに気づいている様子がない。
やっぱマクリル大物である。
「このままくっついてくれて、ついでに番になって婚約すっ飛ばして結婚してくれたら良いのに。」
「だよね。全てが解決するよね。」
俺達はコソコソと小声で話しながら、多分そうなるだろうなと予感していた。
王太子の性格を考えれば、気に入ればゴリ押し、愛してしまえば泣き落としで国王陛下に縋るだろう事は、俺達2人がよく知っている。
「王太子殿下にも、ようやくほんとの恋が訪れたのかな。」
俺もエリオに出会う迄、人を恋い慕う事の意味を知らなかったから偉そうに言える事でもないけどさ。
「今にも恋に落ちそうな顔してるよね、殿下。」
俺が言おうとした事をエリオに先に言われた。
「立場とか見た目とか、そんなもの関係無く優しくしてるんだって、わかるんだろ、殿下にも。」
ポンコツには多分、それは初めての新鮮な出来事なんだろうと思う。
満足な敬語も無く、なんなら少し雑な位荒い、普通の友人のような言葉遣いをマクリルに許している事に、殿下は気づいているんだろうか。
「早く気づけば良いな。」
「だね。」
来年の、俺とエリオの結婚式迄には、是非ともそうなってて欲しい。
そうすりゃ手網を持つマクリルの手前、ポンコツが嫌がらせしてくるんじゃ、なんて憂いも無くなるだろう。
俺はエリオの唇の横についたソースを指で拭い取って舐めた。
それを見て顔を赤くする我がαどのは、まだまだウブである。ふふ。
「俺、この国に来てほんと良かったなあ。」
母国で散々やらかして逃げるように飛び出して来たけど、自分が幸せになって初めて、自分のしてきた事の罪深さがわかる。
人の心は弄んじゃいけないものなんだな。
別に性格が良くなった訳じゃないけど、恋を知って初めて、それがわかった。
俺のしてきた事は、父や兄達に刷り込まれた反動でα嫌いになったが故の、α達への八つ当たりだ。
俺が誑かした野郎共に対しては、相手がいる癖に俺なんかにフラフラしやがって と やっぱ未だに俺だけが悪いとは思わない。
けれど、そいつらのお相手達にはほんとに悪かったと思ってる。
だから性悪はもう一生、封印だ。
「エリオ、αになってくれてありがとね。」
「?うん。」
よくわかってないけど、俺が笑えば嬉しくて笑ってくれる可愛い俺の番(α)は今日も絵画の大天使のように美しい。
αらしくないα。
この世界で唯一の、美しい俺のα。
「悪役同士でも、幸せってなれるもんなんだなあ。」
アリスティール王国は本日も晴れである。
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