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風に攫われる花婿(物理)。
しおりを挟むご都合主義らしくトントン拍子に話は進み、俺には挙式迄の1ヶ月、数人の貴族が教師につけられ、王族に相応しい作法や振る舞い等を学び毎日ヘトヘトだった。
それでも食事は良いし服も上等の絹が多く、ベッドも大きくてふかふか。羽根布団サイコー。
与えられた部屋の調度もゴージャス、持ち物は、ペン軸なんかの小物に至る迄高品質。
窓からの眺めも、王宮の庭園が見渡せる素晴らしさ…。
俺自身も、数人の世話役の侍女がついて、湯浴みから肌の手入れ髪の手入れとメンテナンスされ、1ヶ月も経たずすっかり色艶が良くなってしまった。
ちょっと…今ならイケメン枠に、ギリ入れるんじゃね?
くらいの仕上がり。
でも薄らキラキラしたパウダーはたかれるのは勘弁だな~。
数日に1度、王様と顔を合わせると、
「やはり貴族の血は争えぬな。」
と言われるんだけど、そういうものかね?
え…王族に婿入りってすごい…。
未だ愛は無いけど、すごい。
愛…愛と言えば、あれ以来姫様には全く会えないし姿も見かけないんだけど、こんなもんなんだろうか?
大体救国のなんちゃらって、ほんとに俺であってる?
時折そんな不安が過ぎるが、そうしている内にも時間は過ぎていく。
そして、予言された自分の使命の内容も知らされないまま、俺は挙式当日を迎えた。
王宮内にある聖堂で、式は粛々と執り行われている。
多くの貴族の参列者達。
その中には勿論、俺の家族もいた。
出で立ちからすると、どうやら本当に貴族に戻れたようである。
まあ、流石に王女様の婿が何の実績もない平民よりは、実は貴族だったって方が体裁良いだろうしな。
祖父ちゃん良かったね…。
王族の婚姻にしては急だったからなのか、他国からの来賓は少なかったが、お披露目については後日何か考えるそうだ。
平民みたいに1回で終了とはいかないのか。面倒くさそ…。
顔は澄ましているが、頭の中はぐーるぐるそんな雑事を考えていた。
俺は白に所々金糸で刺繍をあしらったタキシード。
隣には繊細なレースのベール越しであまり表情の見えない白いドレス姿のレナ姫様が、俺の腕に腕を絡ませて、ゆっくりとウエディングロードを歩いている。
その姫様の結い上げた髪と項を見た時、何故か
…俺、今日結婚するんだ…
と、今更ながら妙に実感が沸いた。
司祭の待つ祭壇迄はもう数メートル。
参列者達の視線を受け止めながら進む。
その時だった。
何処からか強風が吹いた。
参列者の座る長椅子が僅かに浮き、あちこちから悲鳴が聞こえ出す。
俺の体も浮き上がった。
風に髪が舞う。
た、竜巻?!
これはヤバい事になった、姫様は?と見ると既に祭壇前にいて、飛ばされないようにしっかり祭壇に捕まっているようだった。
大丈夫そうだ、良かった…と思ったら、姫様のベールが風に捲り上げられた。
え?
姫様は、にやりと笑って俺を見ていた。
いや花婿が飛ばされそうなのに?!
というか、俺だけ浮いてない?
参列者達が下から浮き上がった俺を見上げている。
周囲は色々なものが散っているが、竜巻に巻き込まれてるのはピンポイントに俺だけ…。
な、何故だ…。
何故よりによって、人生最良の日になる筈のこの日に…!??
俺の悲鳴は風に掻き消され、意識はそこで一旦途絶えた。
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