いや、ねぇわ(笑)

Q.➽

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お別れは計画的に。

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事の真相がわかった俺は、長ーい溜息を吐いた。


「優希。」
「…はい。」

顔を向けた優希の顔に平手をくれてやる。
グーパンにしなかったのは、最後あんな消え方をしてしまった自分にも、僅かに非があったなという詫びの気持ちの表れだ。
しかし圧倒的に悪いのは貴様である。
わかれ。


平手と言っても 一応並の成人男性の力である以上、それなりの威力ではある訳で、優希はソファに横に倒れ込んだ。
大丈夫だろ、床じゃねーから。


「お前、さっきからヘラヘラしてるけど、俺と大智に何か言う事は無いか?」


無表情キャラの本気の無表情は、見てる側にはどう見えるもんなんだろうか。
頬を押さえながら起き上がった優希は俺の顔を見るなり青褪めて、小さい声で

「…ごめんなさい。」

と、言った。

「お前、根本から思い違いしてるみたいだからこの際はっきり言うけどな、」

そこまで言って、俺は一呼吸置いた。

「俺は確かに浮気を許さない狭量ではあるけど、別に潔癖な人間って訳じゃねーよ。
浮気は全部同じで許せないって考えてる訳でもない。
お前のした事と、大智のコレは明らかに違うよな。
お前は好きで俺に当てつけたんだろうが、大智はお前に卑怯な手段で嵌められた訳だし。」

同じように扱えってのは無理があるわ~。

大智がホッと表情を弛めるのとは対照的に、優希の顔は固く強張っていく。

「お前が、そんな手段使わずに普通に大智を誘惑して浮気に漕ぎ着けたってんなら、乗った大智も同罪って事で同じ扱いになったんだけどな。」

とうとう優希は力無く項垂れた。

こんな姿はあの食堂事件(笑)での去り際以来である。

「俺は大智とは別れねーよ。」

優希の肩が、ピクリと揺れた。

大智はまたうるっと涙を溢れさせて、
ありがとう、と震え声で俺の手を握った

「そんなに、好きなの…?」

項垂れたまま優希が呟くように問う。

「そりゃ、好きだよ。好きじゃなきゃ結婚なんて考えないだろ。」
 
当たり前の事を聞くなよ…。

「散々痛い目見てきて、まあまあ人間不信の俺が、最後に信じてみようと思ったくらいには 好きだわ。」

俺の返答を聞いた優希は、ますます項垂れて、このまま順調にいけば近い将来頭がカーペットにこんにちはする勢い。
不本意ながらも付き合う事になった時、俺は過去の不毛な恋愛経験とその別れまでの経緯を話した。その上で、今後俺に使ったようなイケナイおクスリは絶対使わない事を約束させ、「何をしても良いけど浮気したら別れる。」とはっきり明言していたのである。
それを覚えているなら、俺の言葉はそれなりに刺さった筈だ。

今回、大智は完全に被害者である。
もし優希が勃ってたら、突っ込まれ予定だったのは大智だったってのを聞いちゃった今、余計に申し訳無いわ。運良く?反対になっただけで、紛う事なき一番の被害者だよ。

ぶっちゃけ望まぬ肉体関係を意思とは関係なく結ばされたんだから、レイプには違いないし傷ついているだろう。
しかも、誤解とはいえ一度は俺に別れを告げられたんだから、状況把握すらできず短時間の間に感情はジェットコースターだったに違いない。
ごめんな。
今後暫くは大智の心のケアに務めねば。


そんな事を考えてたら、項垂れてしゃくり上げ出した優希。
今度はお前か…泣きたいのはこっちなんだが。

一頻り泣いて落ち着いたのか、

「…ごめん。」

と 小さい声で発する優希。

おお…たった一言ではあるが、この男が、促されるでもなく自ら謝罪するとは。
どうやら本気で反省した模様。

いくら本人が悪いとは言え、そんなに殊勝にされると、こっちも多少の歩み寄りを、という気にもなってくる。
大智も優希の様子を見て、またしょんぼりしちゃって、優希と俺を交互に見てるし…。
明らかに同情しだしている。
ほんと…お人好しな男だよ、お前は。

まあでも確かに今の優希は本気で気の毒なくらいしょげている。

「いや…俺も、あんな雲隠れみたいな真似をして悪かったよ。少しはお互い、言う事言った方がスッキリ別れられたかもしれないよな。」

そうしておいたなら、こんなにまで長く優希が俺に執着する事もなかったかもしれない。
しかし優希は頭を振った。

「いや、俺が悪い。ちょっとくらいの事で拗ねて、づみの負担とか考えられてなかった。俺がもっと大人になれてたら、あんな事しなかったのに。」

そうそう。そうだな。それはマジでそうだわ。


優希が続ける。
 
「毎日毎日何度もヤッてさ。バイトとか遅くなってキツイって時も、窶れたづみが色っぽくて朝までヤッちゃったりさ。」

…んー?

横の大智の眉がピクっと動いた。

やめろ。今彼の前でそういう事を赤裸々にすんな。デリカシーって、知ってる?

「それで寝不足でフラフラしてるから心配で講義抜けさせて連れ帰って休ませようとか思ったのに、弱ってるづみ可愛くて我慢出来なくなって、構内のトイレで無理やり突っ込んだり…」
「お…前っ!こんな儚げな穂積になんてことを!!」
「………。」

……やっぱコイツはダメだ。
とうとう大智も拳を握る。血管すご。
そして大智、お前には俺がどう見えているんだ。あ、だから毎回、1回こっきりなの?
それは正直、物足りないなって思ってた。
何事も、適度って…あるじゃん…。



そして蘇る、優希との生々しい性生活…。

精力魔神に抱き潰され続けて、体力の限界を超えながら暮らしていたあの数ヶ月を昨日の事のように思い出し、ゾワッと肌が粟立つ。
快楽が全く無かったとは言わないが、疲れ果てて気の乗らない状態でのおせっせのやり過ぎは殆ど拷問なのである。恋人としての義務だと思い込んで、耐えていた俺も俺だ。
もしかしたら疲弊した俺は、別れ時を探っていたのかもしれない。
だって俺は、元々淡白な質なのだ…。


そんな俺の思惑を知る由もない優希が自嘲するように呟く。


「俺が、あの時浮気なんかしなかったら、仲直りできて、今でも俺ら一緒にいたかな?」

頬が引き攣る。

「いや、…それは、どうかな…。」
「穂積を殺す気か?!」


ある意味浮気より質が悪い…。




「俺、こんな事言えた義理じゃないってのは、自分でもわかってんだけどさ…
もし、この先、づみがフリーになる事があったりしたらさ、」
「はあ?!ねーよ!!」

大智がキレた。
ついさっきまでの同情モードが完全に消えている。
そんな事はよそに、我が道全開の優希。
反省してもマイペースは変わらないようだ。
あっ、もしかしてこれが巷でいうロミオとかいうやつ…?

「その時は、俺に…ワンチャン、くれないかな…?」

俺、本気です!!
みたいに真剣な顔で真っ直ぐ俺に向き合ってくる。

ヒェ…ポジティブ…。

堪忍袋の緒が切れたらしい大智が優希の顔を殴りつけた。
うわ 俺が平手したのと同じ箇所~。

しかし流石は絶倫魔神、意外に体も丈夫である。すぐに座り直し、キラキラした瞳で俺を見る優希…。
そんなにダメージが無い様子を見てイライラしてクッションに当たりだす大智。

なんだコレ…。

それぞれの思惑が混迷を極めた状況の中、唇の端を引き攣らせながらも 俺は精一杯、答えたのだった。








「いや、ねぇわ…(苦笑)」





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