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再会 (雪side)

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「あ、アンタ何やってんだ、こんなとこで!!?」

駆け寄ろうとしたら凄い瞬発力で逃げようとする。
でもサンドを投げ出さず置いたの、育ちが隠せてない。

「捕らえろ!!」

俺が叫ぶと護衛の人達が即座に動いて黒髪の男を捕らえた。後ろ手を拘束され、俯く。観念したようだ。
護衛はプロだもんな。


「アンタな、国がどんだけの騒ぎになったと…」

俺が ぜぇはぁしながら追いついて捲し立てたがまだ奴は俯いている。

草鹿と先生も走って来て、

「ラディスラウス殿下…?」 

「あちゃー、今ってここの現場だったんだ…。」

と言った。


…ん?え、ん?
聞き捨てならない言葉が聞こえたな…?


バッ、と先生を振り向いて見ると、慌てて口を押さえてる。

「…先生?知ってました?」

「…あー…んーと、…うん。ごめん。」

「…どういう事だ。」

意図せず低い声が出た。

「ゆ、雪様、落ち着かれて…、」

草鹿が俺の顔を見て、宥めようとオロオロしてしている。


俯いているラディスラウス殿下の前に立って、両手で顔を上げさせる。

肌は日に灼けて黒髪になってるけど、確かにラディスラウス殿下だ。
瞳の色を変えなかったのは詰めが甘い。それが変わってたら気づくのにもう少し時間がかかったかもしれないのに。


「…ダンマリ決め込んでないでちゃんと答えろ。
何で、アンタは、此処にいる?」

今度は 殿下はじいっと俺を見た。

見て、その瞳からみるみる内に涙が溢れてきて、ギョッとする。

「え、ちょ…」

「…たかっ、た…、」


ん?何?


「ぁぃ、たかったぁ…」


そのまま静かにまた下を向き、しゃくり上げ出す殿下…。

…ええ…。


草鹿が護衛の人達に目配せをして殿下の拘束を解かせた。
そしてその1人に何かを耳打ちすると、その護衛はすぐ側のホテルに足早に入って行く。
そうして直ぐに中年の紳士と共に出てきた。
紳士は先生に向かって深々お辞儀をするとホテルの中にと誘導した。
そのまま全員エレベーターに乗せられ、ノンストップで最上階の部屋に直通で通された。

どうやら身分を明かして部屋を用意させたらしい。

というか、高すぎる場所怖いんですが。(2回目)

作業服姿のラディスラウス殿下の服に草鹿が簡易に浄化魔法をかける。
ソファに座るよう促すと、ノロノロと腰掛けた。

そして未だ小さくしゃくりあげている。

えええ…何時もみたいにドカッと偉そげに座んないのか…。
アンタほんとにラディスラウス殿下だよね…?
まじまじ見てしまう。

シャツの袖を捲り上げてて見えてる腕が記憶にあるものより、だいぶ逞しくなってない?

Tシャツ、ネイビーのワークパンツ、黒のワークブーツで、スタイルが良いからなかなかスタイリッシュに見えるのに、頭にはタオル。
…まあ、暑そうだもんね。
働くって、大変そうだもんね。
タオルは必需品なんだろね。

その頭のタオルに手を伸ばして解くと、ぱらっと黒い髪が散って、肩くらい迄長くなっている。

「…染められたのですか。」

言っちゃなんだが、似合ってる。顔が良いって得だよね。

「…雪は…黒髪が、好きだと…。」

「…ン?」

んん?なんて?

「褐色の肌の、黒髪の男が、好きなんだろう…。」

「は…?」

草鹿と先生が目を丸くした後、小刻みに震え出した。
いやアンタらな…。

そんな俺達の様子を見る余裕は無いらしいラディスラウス殿下は、更に言い募る。

「…だって雪は、ユアン殿を、好きだったじゃないか…。だからせっかく変装するなら黒髪にしようと思って…。」

「……えーと…。」


そうか。この人、そう思って嫉妬したんだもんな。
いや、違うとは言わないけど、確かに先生に憧れの気持ちはあったけど、別に黒髪や肌の色がどうのって訳では…。


「誤解です。別に俺は黒髪とかが好きって訳じゃないですし。」

困惑しかないんだけど。
ビックリした顔で見られてもこっちがビックリだよ。涙引っ込んだな。

「…違うのか?」

「違いますね…。」

たまたまカッコイイ大人の男に憧れて、その人がたまたま褐色黒髪碧い瞳だったってだけである。
しかしそこは敢えて言うまい。

「…そうなんだ…なんだ…。」

ショボンされてもだな…。

「…で、何故ここに居られるのですか。恐ろしい騒ぎになっていた事はご存知ですか?」

抑えた声で質問すると、

「あー…えと…復興作業…。」

「…復興作業…。」


その後聞き出した所によると。


ラディスラウス殿下は失踪する少し前から、ユアン先生(便宜上こう呼ぶ。)と度々連絡を取るようになっていたらしい。
最初はユアン先生がアンリ大公を介してラディスラウス殿下に連絡をして、誤解を与えてしまった旨の謝罪をしたらしいのだが、そこから話をするようになっていたと。
そうする内に、俺と婚約解消をしていよいよ無気力になり、鬱っぽくなった。

心配になったユアン先生は、少し公務から離れてみてはと提案したらしい。
国から一旦離れるならプライベート機出すよ!って俺の時と同じように、気軽に。

そしたらホントにその提案にのった殿下は、あの日公務の出先から行方をくらまして、実は空港に向かった。そして、ジェットに乗った。迅速過ぎる脱出…。
皆が不在に気づいて騒ぎ出した頃には、既に機上の人だったのだ。

「…え、でも出国名簿には…。」

と、俺が困惑すると、

「そんなのどうにでもなる。」

ってユアン先生が言う。


でも全てを捨てて来たと聞いた時には流石に本気かコイツとは思ったし、説得は試みたんだけど、帰るくらいなら死ぬとゴネられた。
そして、あろう事か、
「皇族の身分は捨てたので、皇族の待遇で世話になる訳にはいかない。だが、国外に脱出出来た事には非常に感謝している。ユアン殿を見習って、微力ながらこの国の復興をお手伝いしながら働きたい。」と、頼まれた…。
国はどうするんだと言ったら、やる気満々の人に全てを任せて来た、と。

「正妃の名を聞いたらオディール嬢だと聞いてね。納得した。」

ユアン先生は正妃様とお知り合いだったらしい。




というか、オディール様…一体どういう人なんだ。



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