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女神の恵みの威力とは (雪side)
しおりを挟む翌日は前日の移動の疲労が抜けず、夜中に起きてた事もあり、1日部屋で過ごした。
体力面で不安のある俺には想定内の事だったので、草鹿も慌てない。
庭を眺めながらまったり寝て過ごす。
先生も1日忙しかったらしくて、夜になってから俺の部屋に来た。
「明日は時間が出来たから案内くらいはしよう。」
「ご無理なさらなくても、草鹿がいれば大丈夫ですよ?」
「寂しい事を言うな。」
そう言って頭を撫でられたが、俺はもうそんなに小さくはない筈なのですが。
「岩城は相変わらず小さくて可愛いなあ。」
ぎゃふん。
どうせ貴方に比べたらチビでしょうけど!
それから先生は草鹿に、
「明日の事で少し話があるから後で部屋に来てくれ。」
と言った。
草鹿は何故か少し間が空いてから、
「承知致しました。」
と答えた。
何、今の間。いつも機敏に返事を返す草鹿が。
しかし顔を見ると、何となく嬉しげなので、気の所為だったのかもしれない。
そんで俺は2人が出て行った部屋でスマホゲームをしていたら、何時の間にかまた寝ていた。
翌々日、朝食をとった後、俺は先生と草鹿に挟まれ、市内観光へ向かった。
助手席に一人の護衛、先導車にも、2人、後続車にも2人の護衛。
…王様の護衛って、通常どれくらいが妥当なんだろ?
まああんま多くても…目立ち過ぎるのかな。
明るい日の下で見ると、道沿いは本当に砂漠。
見渡す限り、砂漠と…何か、たまに砂漠の中に建物が見える。
砂地にも建つんだねー。
どうやってんだろ。
暫く走ると近代的な高層ビル群が見えてきた。
和皇の首都と張る…いや、インフラの甘さを別にしたらもっと凄いかも。
都市部に入ると一気に人が増えて、思ったより買い物客や観光客の姿もある。
草鹿はこころなしか嬉しそうに
街並みを見ている。
「この街ってな、こう見えて、人口の殆どはブルーワーカーの市民や外国人労働者なんだよ。」
「え、そうなんですか?!」
豊かな国の、豊かな都市ってイメージがあったから意外だ。
貴族とか豪商とか、移住したセレブだらけだと思ってた。
でも考えたら、そういう人間達がいれば、その10倍は使用人とかがいるもんだし、そう考えたら納得できるな。
「今は、特に多い。
この街にも、他の地域にはもっと入ってくれている。」
そっか。言ってたもんね、復興作業に外国人労働者がたくさんいるって。
こんなに華やかな街にも、抱えてる闇や哀しみがあるんだな。
しんみりしてると、先生が空気を切り替えるように軽い口調で言った。
「昼、何が食べたい?」
「お昼ですか…。魚介かなあ。」
それからは雰囲気も和んで、船で移動する離れ小島にあるレストランを押さえようかとかホテルの最上階のレストランにするかとかそんな話をしていた。
「あのホテルなら以前王宮にいた良いシェフがいる。」
と先生が指差したホテルを車窓から見上げて、へえ…と感心する。
景色は良いんだろうけど、あんまり高いとこはヤダな。
そんな事を思いながら街中に目を戻す。
そんな場所より、街歩きをしたいけど、…目立つだろうなあ。
護衛の人、少し離れて着いてきてくれないかな…。
「お昼の前に、少し歩いてみたいです。」
ダメ元で我儘を言ってみると、
「なるほど…それも良いか…。」
…あっさりお許しが出た。
良いのか…。
「俺がいる時ならシールド張れるからだぞ。草鹿と護衛だけの時は絶対ダメだぞ。」
そっか、なるほど。そういう理由か。了解。
「先生ってこうして街中歩く事ってあるんですか?」
先生が最寄りの大きなホテルの前で停車するように運転手に告げて、俺達は車を降りた。
助手席にいた護衛が1人俺達の後ろにつき、後続の車からも1人降りた。
歩き出してからふと疑問に思って聞いた。先生は、ふ と笑って、
「あるよ。」
と答えた。
「王族の方々はあまり歩かれないのかと思ってました。」
貴族もそういう人が多いけど、王族や皇族はドアtoドアで生きてる人が多い。
「俺は和皇に行く前は結構自由に遊んでたもん。な、草鹿?」
ニヤッと草鹿を見て笑う先生。
「昔からユアン様はやんちゃで…。護衛の車を撒いたり…。」
苦労させられました、と草鹿は微笑む。
「草鹿、大変だったんだね。」
草鹿を慰めると、先生がムッとした顔をした。子供か。
「それに、今はそんな悠長な事言ってられないから、何処にでも状況確認に行くしな。」
忙しそうだもんね。
ビルとビルの間の建設現場の横を通る。
外国人作業員達がお昼を食べている。
昨夜通った時に観光客が食べてたカフェの食べ物が美味しそうだったから良いな、と思ったんだけど、早く見て回って何食べるか決めなきゃな。
作業員のおじさん達は何食べてるんだろ、とみると、何となく見覚えのあるサンドみたいなものを食べていた。
美味しそう。もうちょい野菜とか入ってたらもっと良いなぁ。
肉々し過ぎない?
肉々し…
…ん?
何だかこの感じ、既視感が…。
コンクリの土管に腰掛けて食事をしている、日焼けした若い黒髪のお兄さん。
…やっぱり既視感が。
あ、これって
「昨夜の夢…」
呟いた瞬間、ふとそのお兄さんが顔を上げ此方を見て、視線が合った。
頭に巻かれたタオル、その下に綺麗な翠緑の瞳。
「…殿下?」
「…!!!」
いやおま、ラディスラウスじゃん。皇太子殿下じゃん!!
何してんのこんなとこで?!
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