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草鹿も未体験 (雪side)
しおりを挟む砂華国は国の大半が砂漠の国だ。
夏は茹だるような暑さが長く続き、冬は…、和皇の人間からすれば、そちらの方がおそらく快適。
そして今は11月。
和皇出る時は少し寒かったけど、こっち着いたら寒くも暑くも無くてやっぱ快適。
ここ迄来るのに、実は1ヶ月以上間が開いてる。
実はこないだの電話の翌日、少し砂華に行ってくる。と兄に言ったら、「お前迄何を!!」
と、ちょいキレされてしまったのだ。
兄は殿下の下で補佐の一人として皇宮で働いていたんだけど、本人がほら、失踪しちゃったからさ。
直後は捜索だー目撃情報がーって、てんやわんやだったんだけど 最近はそっちより正妃様の業務フォローに就いて、前以上に忙しなくしている。
そんな中で、呑気に弟が
「先生の国におよばれしたからちょっと行ってきていい?砂華なんだけど。」
とか言い出したので、今かよ!!って感じだったらしい。
「本当に大丈夫なのか治安情勢と危険情報チェックするから少し待て。」
と言われて、2週間以上待たされたのだ。
時間かかり過ぎじゃない?
心配してくれてるのはわかるから文句は言わないけどさぁ…。
まあ、草鹿と先生への土産を買いに回ってたから別に良いんだけど。
草鹿、和皇に来てずっと学園内部のショッピングモールしか知らなかったらしくて、普通の街の景色が楽しかった模様。
何故かスイーツ材料もやたら買い込む…。
それは土産用ではない、最近草鹿はスイーツ作りに凝っているのだ。
そして今日、呼ばれた兄の執務室にてやっと渡航許可が。
「…まあ、現在特には渡航に問題無いようだし、良いだろう。
草鹿もついてるし…。
砂華の国王陛下にもよろしくお伝えしてくれ。」
兄は、連日の激務と心労からか目の下にクマを飼うようになってて、元々強面気味だったのが余計人相悪くなってる。
お世辞でも、少し怖いけど男前でステキ!って言ってもらえてたのに、少し怖いどころかこれでは目を合わせてくれもしなくなるのでは。
岩城家の存続は大丈夫なのか。
その後、今度はリモートスイーツ男子会(俺・草鹿・先生とで開催されしそれぞれのオヤツを食す会)で話した先生が、
『迎えやろっか?それともそっちのチャーターしとこうか?』
とか言い出したんだけど、既に予約した画面を見せてやんわりお断りする。
やんごとなき方々はこれだからな…。
気持ちは嬉しいけど、一応俺、色々あったから万が一記者とかに見つかったらまたある事無い事書かれて面倒なのだ。
バブーニュースに載ってしまう。
傷心旅行とか言われてしまう。
自分で行くんで。
ほら、ちゃんとファースト取ったんで、って言ってやっと諦めてもらった。
そう。今の俺はもう、皇族の許嫁でもない、只の貴族の次男坊なんよ。いくら知り合いったって、不相応の扱いは受けられない。
それに、小僧一人に大枚はたいてるような状況じゃないと思うし、そこ迄甘えるのは申し訳無い。
着いてから付けてくれると言っていた警護だって、人件費はタダな訳じゃないし。
もっと歓迎の意を表したい、と納得いかない風の先生、
草鹿が焼いたアップルパイに舌鼓を打つ俺、
明日はガトーショコラを焼きます、と宣言する草鹿。
そしてその会はその後4度ほど開催され、今日俺はとうとう砂華の地に降り立ったのだった。
王族のプライベートジェットしか乗った事の無いらしい草鹿と、幼児期以来、飛行機に乗ってなかった俺。
出かける時に、玄関に大集合して 世間知らず2人が…?って不安そうに見送ってくれた父と母と使用人達の顔が忘れられんわ…。
いい歳の男2人を捕まえて、失礼過ぎない?
先生が今居るって言う 砂華の都市のひとつの空港に着いたら、既に先生が警護らしき数人を従えて出迎えに来てくれてて、草鹿と交互にハグされた後 リムジンに押し込まれた。
離宮迄の道を走っていると、綺麗な摩天楼が見える。
この街は被害に遭ってないんだろうか?と、聞いてみると、
「この地域は建物の被害は比較的少なかったな。だけどライフラインが一時的に遮断されてて真っ暗だった。
こうして賑わいが戻ってきたのはつい一年前くらいからだ。」
「…へえ。やっぱり大変だったんですね…。」
「他地域は、のっぴきならない場所もあるけどな。被害が大きかった地域では家を失って仮設住宅で生活してる住民も多いんだ。
だから今急ピッチで集合住宅建設してる。」
「そうなんですね…不便だろうな。」
「まあ、皆頑張ってくれてるよ。」
先生はすごいな。
サラッと言ってるけど、それって結構大変な事なんだろうに。
「国民もそうだけど、復興作業や支援に入って来てくれてる外国人労働者も多くてな。結構な賑わいだよ。」
それから先生は窓の外の流れる景色を見つめながら、
「信じらんないだろ?
こんな国でさ、たくさんの人が殺されたんだ。巻き添えで国民もたくさん死んだし、傷つけられた。
親を失った子供達もいる。
俺の家族も、親類縁者も殆ど殺された。
理由は、富を独占した見せしめなんだってよ。
教育も医療も無償で生活も保証されたこの国でだぞ。」
と、憤りを込めた声で呟いた。
「一生働かなくても生きていける環境にいたって、いちゃもんつける奴はつけるんだよなあ。」
と、笑った。
「クーデターなんてもんじゃない。只のテロだよ。」
静かな寂しい目だった。
草鹿も唇を引き結んで俯いている。
そうだよな。
この人達は、この国の人達は、たくさん失くしたんだ。
俺なんかよりずっと、辛い思いしてるんだ。
「岩城に、この国が元気になっていくとこをリアルタイムで見て欲しくてな。」
「…はい。」
「傷ついてもさ、失くしてもさ。寂しくて苦しくて、もうダメだ、って踞っても、…前を向けさえしたら、人は意外と何とかなるもんだよ。」
「前を、向けたら…。」
そうだな、ほんとそうだ。
立ち止まって悲しむ時間も必要だけど、死ぬ訳じゃないなら、ずっと時間を止める訳にはいかないもんな。
…そう、時間は過ぎている。
今、この瞬間にも。
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