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丸投げ殿下

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(なんでだ。

綺麗なご令嬢と結婚出来て、可愛い子供迄出来て、誰が見たって理想的な皇太子御一家じゃん。

異物だった俺が抜けた事で、俺だけじゃなく、結局はアンタも順風満帆な人生になる筈だったろ。

何でわざわざ家を捨てるんだよ…。)


雪長は困惑した。

本当に、あの皇太子は何時も何を考えているのかわからない。








一方その頃、現在では皇宮に暮らすオディールも少しばかり困惑していた。


(確かに、後継である子供も出来て私が皇太子妃になったら、好きになさってとは言ったけど…。)

こんなにも突然に、手紙一通残して消えるとは。

公務の出先の帰路で消えたから、また気紛れを起こして何処かに寄り道しているのだろうと、呑気に構えてたらこのザマだ。
これが他の皇族ならば、テロや何かを疑い緊急配備でも敷かれたのだろうが、相手が普段からSP1人連れてウロウロするような皇太子だったものだから…。

SP達の誰一人も一緒ではないと判明した時には、流石にザワつき、執務室のデスクの中にポツンと置かれた手紙の存在に気づいた時にやっと失踪だとわかったのだ。

記されている文を読む限りは、覚悟の出奔である。

つまり、


自分に代わり、子供達を後継にするように。
子供達の養育権と後見はオディールに。
自分に代わり、現皇帝の政治及び公務の補佐を正妃オディールに任せる。
その実務経験をもって、現皇帝が子供達の何れかに譲位した場合、幼帝が成人する迄の摂政として、オディールは補佐につくように。


つまり、総括すると、後の事は正妃オディールに一任する…。

お、オディールの負担、多…。
(※本人希望です。)

一任とは聞こえが良いが、つまり丸投げ…と、2人の間の話し合いの事など何も知らない罪なき人々は思った。
それに、幼帝の摂政だなんて、単なる傀儡政治を行う女帝誕生なのでは…とも思ったが、まあぶっちゃけそれで合っている。


後に続く皇太子の記述(言い訳)によると、

自分は君主の器ではない事、
国家の父にはとてもなれそうにない事、政治に才能が無さそうな事、
でもどうやら嫁さんにその才覚もやる気もあるようだから、やりたい方がやるで良くない?と考えた事、
精神的に弱い所のある自分は重責にとてもじゃないが耐えられないので、後はよろしく…と言うような事が、つらつらと書き連ねられていた。

精神的に弱い? と、首を捻った者も多かったが、こういう部分は、まあ…本人が言うならそうなのかもな?
という事で納得せざるを得ない。


オディールとしては、予想していた時期より少し早かったとはいえ、自分の希望が通った形になるので万々歳だが、皇太子の父である皇帝と皇后は勿論、呆れて意気消沈した。

救いはしっかりした嫁と、跡継ぎの孫2人を残していってくれた事。

子供の頃から傍若無人な所はあったが、最近は親になったせいか落ち着いて来て、なりを潜めていると思っていたのに…。


「オディールよ、本当にすまんなあ…。
そなた達だけが頼りだ…。」
(パパ帝凹み)

「勿体無いお言葉ですわ。
不肖ながら、しっかり務めさせていただきます。義父上様、義母上様。」


大船に乗ったおつもりで!!

オディールは胸を叩いた。



(さて、これからだわ。)

オディールは思う。


想い人の安寧の為とは言え、皇太子はよく自分の計略に乗ってくれたものだ。
しかも、自分に多くのチャンスを残してくれた。

これ迄、先進国に名を連ねながらもこの国では女性の政治参画が遅遅として進まなかった。

全ては女性の社会的地位の低さ故。
高等教育機関も、女性には狭きどころか、狭過ぎる門なのだ。

貴族達でさえ、そうだったのだ。一般庶民と言われる国民達は、推して知るべしである。

平等とは程遠い現状を動かすには、女性がトップに立つ必要がある、と思っていた。
全てを覆していく事の出来る、バイタリティを持つ女性が。

ならば自分が最も適任なのではないか、と 成長と共にオディールは考えるようになったのだ。
政治など、やる気のある者がやれば良い。

未来を担う子供らの幼児教育を担うのも育むのも、主に女性な以上、その女性全体の教育水準から上げねばならない。

オディールが力を持ったなら、一気呵成にとはいかずとも、数段押し上げる事は出来る。


(貴方にお預りしたこの国を もっともっと豊かな国にしてみせますわ、殿下。)


内心では暗愚と罵っていても、皇太子の存在無しには、この成果は得られなかった。
感謝している。
かといって お互い、協力者以上の感情は生まれなかったけれど。

愛する人を失って、国を捨て、全てを置いて、彼は彼なりの生き方を探しに行ったのだろう。

願わくば、その道に速やかに光が射さん事を。





果たして、彼女は悪女か否か。

それは彼女がこの世を去る時に多くの国民達が判断する事だろう。





皇太子出奔から約一ヶ月ばかりで捜索は打ち切られた。
理由は、本人の意思によるものであった事が大きい。

ニュースでは連日取り上げられネットも騒いだが、その内沈静化した。

本当に、鮮やかな迄に ラディスラウスは和皇国から姿を消したのだ。









「雪長様、ユアン様からお電話が。」

「…?ユアン様って、誰?」

「…あ。」

「ん?」


夜、勤務を終了して、さて寝るか、という時にユアンからの電話を取った草鹿。

ユアンが再帰国して間もなく、砂華国ではクーデター鎮圧が成された。
その後の政情不安期も思いの外早く落ち着いてきて、現在では国内復興に忙しいと言う。

砂華はかなり古い歴史国家なので世界遺産も結構あったのに、クーデターに便乗した銃撃戦や小規模な内乱みたいなものもあったようで、貴重な建築物なども破壊されたり傷つけられたりしていたらしい。

そうか、次に帰った時には、街並みも変わっているのかも知れないんだな、と草鹿は寂しい気持ちになった。


そんなこんなを話していて、ユアンがふと言ったのだ。
雪長と、話せるかと。


「あの、ユアン様。実は皇太子殿下が失踪なさいまして、流石の雪長様も少し落ち込んでおられますようで…。」

と、草鹿は言ったのだが、

「知ってる知ってる。
まあ、だからこそ話したい。」

と、聞かない。

何か掛ける言葉があるのだろうと、電話を代わる事にしたのだが。



「ユアン様って、誰?」



(そうか、雪長様は、ユアン様がクレイル先生だと言う事を知らないのだった…。)


草鹿は、そこから説明しなければならない事に、今初めて気づいたのだった。







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