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16の誕生日 1 (※ややR18表現あり)

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世の中には同性同士のカップルも夫婦も、男女のそれと同じくらいにありふれている。
法で認められているし、それに異議を唱えるつもりは毛頭無い。
同性を愛するか異性を愛するかだけの違いなだけだから。


だが、それが自分の身に降りかかるとなると、話は別だ。

俺は異性愛者だし、残念ながら同性に性的興味は持てないからだ。

だからいくら相手に身分があっても、金があっても、美しくても、結婚相手にはならない。

皇太子殿下との婚約も、卒業する迄には穏便に破棄か解消して貰う。

今となってはその考えが如何に甘いものであったのか、如何に相手の気持ちを舐めていたのか、溜息が出る思いだ。







秋になり、木々が色づき始めた頃。俺は16になった。

それに合わせるかのように、視察という名目で、皇太子殿下が学園にいらっしゃった。

もしかしたら、という予感はあったので、覚悟はしていた。
というのは、俺は夏の休暇も実家へ帰省せず、クソ殿下の連絡も一切無視していたからだ。
そろそろ何かに託けて、顔くらいは見にくるかもな、とは予測していたのだ。

まさか、クソ殿下があれほどに拗らせているとは思いもせず。






「久しぶりだ、雪。」

「…お久しぶりでございます、殿下。」


半年以上振りに見るラディスラウス殿下は、また一段と男っぽくなり、美貌に磨きがかかったように思う。
少し痩せたのかな。だけど全く貧相には見えないのは何故だろう。
俺なら痩せた分だけ貧相になっていくが。


学園の案内などは卒業生であるラディスラウス殿下には必要無いものだが、学園側の要らん配慮で一応の婚約者である俺が案内役を仰せつかった。

別に本当に案内する訳では無い。
現に、全体集会での挨拶の後、流すように学内を回っただけで、殿下は既に俺の部屋のリビングのソファに鎮座なさって茶を飲んでいらっしゃるからだ。


俺とクソ殿下は向き合って座り、草鹿は茶と菓子を供すると少し離れて控えている。

窓辺と出入口付近には殿下の侍従が控えているから、この室内、でっかい男だらけで圧迫感ぱない。

「お前が草鹿か。見た顔だな。今は雪についてくれているのか。世話になっている。
先頃はよく雪を助けてくれた。礼を言う。」

「勿体ないお言葉でございます、敬愛なるラディスラウス皇太子殿下。」


そっか。殿下の在学中にも草鹿はいたんだもんな。殿下は自分の気心の知れた侍従を連れて学園に入っていただろうから、草鹿への認識は 他の他国の王族に付き従っていたを見掛けたな、程度なんだろう。


「16の誕生日おめでとう、雪。これをお前に。」

「ありがとうございます。」


小さな箱を手渡され 開けると、黒地に宝石の埋め込まれて皇室の紋章の入った……首輪…?と、指輪…。


一気にテンションが下がる。
だが、表情に出しちゃ駄目だよな。堪えて、精一杯薄い笑顔を貼り付ける。

マジで何これ?
16歳男子に贈る誕生日プレゼントには適さなくない?
センスを疑うぜ…。

箱から取り出す事もせず、眺めている俺を少し微笑んで見ていた殿下が、とんでもない事を言い出す。

「気に入ったか。装着けてやろう。」

「あ、あの…後でまたじっくり見せていただきますので…。」

箱を何処かに退けようとしたら殿下が立ち上がり、横に座って俺の肩を抱いた。ヒィ…
そして、箱から首輪を取り出し、手に取ると 室内の灯りに翳し、言う。

「良い出来だろう。特注品だ。」

でしょうね。

大人しく聞いてやり過ごそう。


「雪。」

「…はい」

「随分、教師の1人と親しいようだな。」

「…えっ?」


何の事だ、と訝しんだ瞬間、壁一面にパッと映し出される、クレイル先生に頬にキスされる俺。

「え…」

何時の、なんてわからない。
だって頼まれ事の度にされてるから。


「どういう事だ。俺からの連絡は取らず、他の男には体を許すとは。」

「いや許すって、そんな。これはタダの…」

「差し出がましいようですが、ラディスラウス皇太子殿下、あれは…」

「黙れ。」

草鹿が、何か言おうとするが殿下に制される。

そのまま俺はクソ殿下に抱き上げられ、寝室に連れ込まれ、ベッドに投げ出された。
目配せでもしたのか首輪の箱を侍従の1人が置きに来ていたが、直ぐに出ていき完全に2人きりになる。
おそらくロックも掛けられた。

草鹿が止めようと何かを言っていたのは聞こえていたが、殿下の侍従に止められたんだろう。

俺と殿下は公式な婚約者同士だ。
2人で寝室に入ったからと言って、咎め立て出来る者はいない。
許嫁同士の婚前交渉が犯罪な訳では無い。

そう考えて、ゾワッと肌が泡立った。


慌てて起き上がろうとして、直ぐに両手を絡められてベッドに縫い留められた。
両足も殿下の脚で広げられて押さえられている。圧倒的体格差。


「殿下、あれは、」

「ラディス」

「ラディス様、あれは只の風習だと…」

「知らぬ。」

「手伝いをしただけで…」

「雪」

静かに圧の篭った声に、押し黙る。

そのまま殿下の顔が近づいたと思ったら唇を押し付けられる。
舌で力づくで唇と歯を開かされ、文字通り咥内を蹂躙される。舐め回され、食まれ、噛まれ、吸われ。
前とは違う、荒っぽいキスだ。
呼吸さえ奪われて、酸欠になるような。

どうやら俺は、獅子の逆鱗に触れたのだ。




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