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あの鳥…何ていうんだっけ…
しおりを挟む学園に来て2ヶ月。
それなりに空気に馴染めてきたように思う。
クラスメート達は概ね親切で、よく俺に構いたがるので少し疲れる事もあるが、嫌な思いをさせられる事は無い。
皆様飛び抜けてお育ちが良いからなのか、何処か余裕があって、ギスギスしてないんだよな…。
皆様、俺と違って生粋の王族や皇族ばかりだし、たまに公爵家の出身の者もいるが 公国の公子なので、同じ公爵家と言っても俺とは生まれながらの立ち位置が違う。
たまたま皇太子の許嫁という立場にいるだけでこの中に紛れ込んでいる俺は、分不相応の扱いを受けているようで、最初はどうにも居心地が悪かった。
けれど、慣れとは恐ろしいもので、大事に扱われていればそういうものかと馴染んでしまうんだな~。
狡いようだが今はこの立場に乗っかっているしか自分の身を守る術は無いような気がするのだ。
以前と同じ轍は踏みたくない。
死を回避して、卒業後には婚約を破棄して貰える手段を、ここに在学している内に考えなければ。
皇太子の伴侶になってしまえば、今よりも各方面から命を狙われる事が増えるかも知れない。
正直、皇宮よりもこの学園のVIP寮の方が俺的には安心出来るのだ。
貴賓の留学を受け入れているだけある、鉄壁のセキュリティシステム。
それになんたって、ここには俺の貞操を狙う変態もいない。
距離感がバグってる同級生や先輩は多いが、子供やペットを愛でるようなもので 性的な雰囲気で触れて来る者は今の所いない。
環境もあるのか、生徒同士のカップルはそれなりにいるが、俺は自分に害さえなければそれで良いので他人のセクシュアリティは気にならない。
好奇の目に紛れて時折妙な視線を感じる以外は、平穏な生活。
当初気になっていたクソ殿下のセフレーズの羽なんちゃらいう伯爵家の美少年先輩も、活動エリアが違うせいか全く顔見る事も無いし、アドリア殿下によれば、最終学年は執行部も引退しているよ、との事。
という事は、誰かを介しても俺との接触を図られる事は無さそう。
ひゃふ~平和。
このまま無事に、4年間が過ぎて卒業出来ると良いよなぁ~、と呑気に考えていた。
「この度○○先生の長期入院に伴い、後を引き継ぎましたクレイル・アシナです。」
語学を受け持っていた老教師の持病が悪化したとの事で、その若い教師が壇上に立った時、一瞬 水を打ったように静かになった。
その理由はその容姿があまりにも…、
あまりにも美し過ぎたからだ。
クソ殿下や先輩達、同級生の美形に囲まれ、見慣れ過ぎた俺ですら、唸ってしまう。
褐色の肌に蒼穹を嵌め込んだような双眸。整った目鼻立ち。シャープな頬。
襟足を綺麗に短く整えた烏の濡れ羽色の髪は艶めいて片側の目に少しだけかかっている。
長身の程良く筋肉が乗っていそうな体躯にダークネイビーのスーツが品良く似合う、若そうなのに変に大人の男の色香があった。
同性には興味0の俺でさえ、数秒見蕩れてしまうほどの美貌なので、当然周囲にいる生徒達は ほけっと見蕩れた後、盛大に真っ赤になり、中には過呼吸を起こしそうな奴もいる。
しかしそこは、貴族家ご令息共。
ザワつきはしても、ワーキャーとはしたない雄叫びなどはあげたりはしないのである。流石。
とはいえ、だ。
幾ら顔は綺麗ったって、所詮男の顔である。女っぽさなんか1ミリも無い。そこだけで言えばウチの草鹿の方が柔和でクセが無い分、見てる分には癒されるよな~、なんて考えていたら、壇上の本人と、はた と目が合った気がした。
ニコッと微笑みを作る褐色イケティーチャー。
それを見て、あ、やっぱ気の所為だったわと確信する。
多分俺の周囲にいる誰かに顔見知りがいるんだな。
直ぐにそう思い至り、はぁ退屈だわ…と下を向きながら、ふわぁと小さく欠伸を噛み殺す。
ヤヴァイ、今誰も見てないよな。
大丈夫か。皆、あのエキゾチックイケメンに夢中か。
ある意味助かったわ、と壇上に目を戻すと、イケティーチャーはぽかぁんと此方の方向を見ている。
…?何?
周囲を見回すが、皆一様に壇上に夢中って事以外は特に変わった事も無い。俺は首を傾げた。
…まさか欠伸を見られてたって事は……無いよな。
再び壇上を見れば、件のイケメンは何処か微妙な表情で壇を降りるところだった。
はー、ヤレヤレ。
講堂の天窓を見上げると青空に鳥が1羽、飛んでいるのが見えた。
全体朝礼、早く終わらねーかなー。
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