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ラディスラウス殿下の憂鬱 (※ややR18表現あり)
しおりを挟むラディスラウスはこのところイライラしていた。
愛しの婚約者、雪長がいないからである。
やっと長年の想いを告げて距離が近くなったと思った途端に、首都から遠く離れた学園に行ってしまったつれない婚約者。
今迄なら気が向けば遠目からでも姿を見に行けたが、あの要塞の如き学園に入られてしまってはどうしようもない。
淋しさから やたらかけてしまったのがいけなかったのか、スマホは着拒されており、MINEも未読スルー。
SNSアカウントはわかってはいるが鍵がかかっていてフレンド申請にも音沙汰無し。
ここ迄されれば普通は完全に脈ナシなのがわかるものだが、ラディスラウスは違った。
何故なら婚約してから5年間、ずっとこんな感じだったので、雪長に関してはこれが通常運行だったからだ。
傍から見れば何だか切ない気もするが、ラディスラウスは気にしていなかった。
彼には雪長という存在さえ自分の手の内にあるならば、他の事はわりとどうでも良かったからだ。
その証拠に、欲を紛らわせる為に抱き散らかしていた男も女も、ラディスラウスは殆ど顔も名も覚えていなかった。
只ひとり、羽次という学校の後輩だった者を覚えていられたのは、単に彼が、自身の所属していた生徒会執行部の役員の1人であった事と、体型や指の形が雪長に似ていた、それだけの理由による。
だがそれも、リアルの雪長を只抱きしめただけで、あれは全く別物だったと今更ながらに気づく。
それだけ、初めてじっくりと味わった雪長の唇は甘美で 柔かった。
嫌われているからと戯れにまかせたような一瞬の接触だけに留めていた事を後悔するほどに。
婚約を破棄して雪長を一度手放してやる気があったのは本当だ。
だが、それはあまりに強情を張る雪長を追い込めば、最後は音を上げて自分を頼ってくるだろうとの目算があったから。
しかし、雪長を僅かでも味わってしまった今となっては、例え一時たりとも彼を手放したくはない。
本人にあれだけはっきりと、嫌いだの憎いだの婚約を破棄してくれだの言われたのにも関わらず、ラディスラウスはもうそれに応じる気は無いのだ。
身勝手なこの男は、自身の乱行は棚に上げ、破棄の話は聞かなかった事にするつもりだった。
重ねて言うが、彼にとっては雪長が自分の手中にあるという事が最も大事な事なのである。
自分の元を離れて他人の手を取る雪長など、ラディスラウスには耐え難い。
学園に入ってしまった雪長がどう過ごしているのか。出来るだけの事はしたつもりだが、不自由はしていないだろうか。
雪長が学園に行ってしまってまだ数日だと言うのに、ラディスラウスはそれにばかり気を取られ、公務も疎かになりがちだった。
それでなくとも近頃は、以前縁談を持ち込まれていた公爵家からの謁見の申し入れが執拗い。
ラディスラウスはその公爵家の令嬢が苦手だった。
苦手というか、嫌いだ。
彼女は美しいが、険があり、会う度に何故だか見下されている気分になる。
正妃にとの話が浮上した時は、全力で拒否した。
側妃であれ、御免蒙る。
はっきりと本人や公爵に対して告げた訳ではないが、態度には出している。
一度たりともダンスを申し込んだ事も無い。
察するには、それで十分だろう。
侍従にせっつかれ、何とか最低限の仕事をこなしたその日の夜、ゆっくりバスタブに浸かっていたラディスラウスはスマホで ある連絡を受け、早々に湯から上がった。
バスローブの腰紐を軽く結びながら、ある部屋へ入る。
ベッドに仰向けに沈むと、それを合図にしたかのように全ての壁に様々な雪長の姿が映し出された。
『本日の雪長様に関する御報告を致します。』
若そうだが落ち着いた男性の声が滔々とそれを語るのを聞き、次々に場面を変えながら、雪長の一瞬一瞬を捉えた画像が移り変わっていく。
「…今日も元気そうだ…。」
それを眺めながら 舌なめずりをすると、自身のバスローブの下を肌蹴け、右手を伸ばす。
既に熱と硬さを帯びた屹立を握ると、ゆるゆると上下させた。
「ああ…早く…お前を抱きたい…雪…。」
今日も皇国只一人の皇太子殿下は、婚約者に狂っている。
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