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俺の名は
しおりを挟む茶を飲んでいたらチャイムが鳴り、どうやらあと5分で休憩が終了する模様。
「あ、私達も教室に戻らねば…。行こうエン。」
「そうだな。じゃあまた後でな、オコジョ殿。」
「はあ…どうも。」
…だよな?
やっぱクラス違うよな?
先輩だもんな?
あまりにもナチュラルにこの教室にいるから、不思議に思っていたが、やはり教室は別だった。
2人を見送り、草鹿が茶器を仕舞いながらテーブルを机に組み直していると 急に周りをクラスの方々がわらわら囲んできた。
「エンドレアス様達とお知り合いなのですか、オコジョ様。」
「私、火那国のシナラと申しますオコジョ様。」
「あっ、狡いぞ。私はナスリでございますオコジョ様!」
…なんだ。先輩達が怖くて近寄れなかったってか。
んで気安くオコジョオコジョ呼び過ぎな。
んで近くで見たらマジでお前らデカい。
そしてきらきらしい。
「…本日が初対面でございます。
あと、私の事は雪…」
「左様でございましたか!いやそれにしてもエンドレアス殿下は流石の貫禄でございましたね、雄々しくていらっしゃる。それにしてもオコジョ様は近くで見てもお可愛いらしい。」
「アドリア殿下のあの月の化身の如きお美しさ…。あれで頭脳明晰なんて憧れますね。
お二人に愛でられるオコジョ様の愛らしい事…。私も飼いた…ゲフンゲフン。」
「うわぁ…オコジョ様、ほっぺたもちすべですよね。少々触れても?」
「………。」
草鹿や従者の方々がハラハラした顔で見守っている中、ほっぺたと髪をわちゃわちゃ撫でられながら俺は思った。
嫌がらせよりマシ、嫌がらせよりマシ…。
でもな。
一言言わせてくれ。
やんごとなき方々はもう少し、口にするものとか手に触れるものとか、色々気をつけた方が良い。
じゃないとお付きの方々の気苦労が絶えん。
あと、俺の名前は雪長です…。
入学式後はクラスで1時間ばかり翌日からの授業の説明を受け、その後ちょっとしたパーティがあり、一方的に親睦を深められたクラスメート達に周りを囲まれながら本格的にドナドナのような様相で寮に帰って来た。既に時刻は18時30分。
しんど。
こんなに一気に同年代に囲まれた事無いから、しんど。
リビングのソファに倒れ込むと、草鹿が心配して駆け寄ってきた。
「お辛いですか?もうお休みになられますか?」
「や、少し疲れただけ。…フルーツゼリーとか、ある?」
あっさりした甘いものが食べたいなと思って聞いてみると、
「ございます。桃、葡萄、蜜柑、林檎とございますが、如何いたしますか?」
と有能執事らしい答えが返ってくる。流石。
俺の好物情報とか、入ってたんだろか。
「…桃かなあ。」
小さく呟くと、
「暫しお待ちを。」
と言って、キッチンに姿を消した。
ぼんやり見送って瞼を閉じる。
(はー…疲れた…。)
昨日今日だけで何度オコジョと呼ばれたのかわからん。
アドリア殿下の仕業には違い無いが、何をどうやったら昨日の今日でこんなにまで広まるのか。
草鹿がゼリーと紅茶を出してくれて、それをもそもそ食べながらテレビをつける。
壁一面だから見易いね。
『…の駅前や繁華街等では号外を受け取る人々が…』
??
号外だって。今日何かあったの?
もしかしてクソ殿下が○○でたり?ワラ
「ほう、もう流れているのですね。」
「え、草鹿、何があったのか知ってるの?」
「え、それは…」
その時アナウンサーが放った一言に俺のスプーンは止まった。
『皇太子殿下の婚約者様である雪長様の新たな愛称に、道行く人々はほっこりした笑顔で、ピッタリだ、似てると思っていました、などと…』
……。
『ご入学式でも、各国貴賓の御学友の方々に囲まれ、一際愛らしいお姿を…』
そして壁一面に大写しになる、クラスメート達に囲まれた俺。
そしてオコジョ様とでっかいテロップが下に付いた俺のアップ。
「………草鹿、俺やっぱもう今日は寝よっかな。」
「かしこまりました。
お着替えご用意いたします。」
「…。」
数時間振りにスマホを取り出す。
バブーニュースもSNSのトレンドにも、オコジョ様、オコジョ、入学式、婚約者様、、、。
俺の名は…。
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