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君は味方か

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ゾロゾロと学長理事長その他のオッサン達が礼をしながら退出して行くと、だだっ広い室内には俺と草鹿が2人、ぽつんと残された。

「主様、コートを。」

キョロキョロ室内を観察していると草鹿から声が掛かった。

「…主様…?」

聞き慣れねえ…。

邸では坊っちゃまだったし…。でも俺も、もう15。
何時までも子供じゃいられないよな…主様か…ふふ。悪くない。

貴重品はスマホに入ってるカードのみ、そのスマホも手持ち。
故に大して重くもないお飾りの鞄は車から誰かによって室内のシェルフの上に置かれている。
邸からの荷物は既に解かれて片付けられた様子。
コートを脱がせてもらってソファに腰を下ろすといい具合に体が沈む。

あ~、良いやつだわコレ。
ウチの実家のも良いと思ってたけど、世の中上には上があんのな。
巷で噂の人をダメにするやつだね。
俺はもうここで寝る。

慣れない大人達に囲まれて、知らずの内に少し緊張していたようだ。
ネクタイを外し第1ボタンを外して、ふぅ と息を吐く。

外したネクタイをすかさず片付けてくれる草鹿。

…俺、何気に人見知りだから、邸の者以外の知らない人がいるの、緊張します。


「お疲れ様でございました。
本日は寮でお休みになられるようにとの事です。明朝は7時に起床、9時より講堂にて出欠確認後、入学式となっております。
夕食はお部屋でお召し上がりになられますか?」

紅茶を出してくれながら大まかな予定を知らされる。

それに口をつけようとした時、ふっと遡行前の死に際を思い出した。

俺、部屋に置いてあった水容れの水を飲んだ直後から、苦しんだ。
そして死んだ。

あの頃俺の部屋は、一応 高位貴族という事で1人部屋ではあったが、度々侵入された形跡があったのでセキュリティとしては最悪だった。

勿論、学園側には訴えたが、舐められていた故に、満足な調査はして貰えなかった。
形だけは備えてある警備システムや高精度監視モニターなんか何の意味も無い。犯人が判明したって、それが学園側に都合の悪い人物であるならば、明かされないからだ。

そんな状態の中で誰が水容れに毒を仕込んだかなど、どうせ知る術は無かっただろう。

高位貴族とはいえ、皇族に見放された者に、貴族社会は冷たいものだから。





「草鹿。」

茶に口をつけない俺を訝しむように見ていた草鹿を呼ぶと、

「如何致しましたか。」

と草鹿は膝を折り俺と目線を合わせた。


「…俺は、命を狙われている可能性がある。」

静かに口にすると、草鹿は僅かに目を見張った。

「…君は、味方だろうか?」

真っ直ぐに草鹿を見ると、草鹿の笑顔が消えた。

「…命に変えましても。」


言うは、易いが。


「君は学園に雇われた者か?」

「左様でございます。」

「勤めてどれほどになるのかな。」

「丸6年でございます。」

「最初からここで?」

「いえ、実は…、」

仔細があるのか…。

「私は、元々はこの国の者ではございません。」

「…そうなの?」

草鹿は頷く。

「私の最初の主は、砂華国の王子殿下でございました。
14の歳から4つ歳下のそのお方にお仕えし、有難くもご信頼いただきましてこちらの学園にもただ1人随行を許されお仕え申し上げておりましたのですが、」

表情が曇る。

「あ、と、確か砂華国って何年か前に…、」

「はい。クーデターでございます。」

砂華国は広大な砂漠と、豊かな資源をも有した国だ。
王族はトップクラスの財力。
だが、数年前に軍事クーデターが起こり、王族は見せしめに次々殺されたとニュースで聞いたが…。

「その王子様は…」

「…騒動に紛れて単身国へお戻りになられましたが、その後は…。」

草鹿は哀しげに首を振る。

「何としても、お止めすべきでございました。」

寄せられた眉間の皺に、深い後悔が刻まれているように思えて、俺は聞いた事を後悔した。

「お戻りをお待ちすべく、此方に留まっていたのですが、、、。」

その後、砂華国のトップはクーデターの首謀者である軍人にすげ替わり、現在迄状況は変わっていない。
国際社会からの批判もものともしない図太さは流石叩き上げと言うべきか。

王子が生きているのかは…、ほぼ、絶望的なんだろう。


遠く離れた地で、変わっていく祖国を見ているのはどんな気持ちなんだろうか。


俺は何とも言えない気分で草鹿を見た。


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