ノーマルの俺を勝手に婚約者に据えた皇子の婚約破棄イベントを全力で回避する話。

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ラディス殿下、婚約者を見舞う。1

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翌日、目は覚めても何だか頭が重くて、これは昨日頭を使いすぎるという慣れない事をしたせいだな、と、早々に寝て過ごす事に決めた。

じいちゃん執事の案じるような視線が痛い。
昨夜、過呼吸を起こした事がク…、ラディス殿下から家に伝わったようで、俺が起き上がれないとじいちゃん執事から聞いたのか、両親と兄がかわりばんこで、顔を見に来る。

医師を呼ぼうか?って言われたけど、大丈夫、疲れが出ただけだから~とお断り。

気持ちは嬉しいけど、静かに寝てたい。休ませて…。



そんな感じで、昼もそんなに食欲無くて果物だけ剥いてもらって食べてたら、ラディス殿下が見舞いに来てしまった。げ。

昨日の事に責任を感じているのか、浮かない顔だ。



「具合い、良くなさそうだな。」

「ありがとうございます。…大丈夫です。殿下のお気にされるような事では。」


他人行儀過ぎたのか、途端にしょんぼりされてしまう。
…なんか哀れになってきた。


「……。」

「……。」


ち、沈黙が気不味い…。

「雪が、好きかと。」

ぽん、と布団のかかった膝の上に小さな箱が置かれる。

「ありがとうございます。」


礼を言いながら開けてみると、ドライフルーツが詰め合わされていた。
あ~、確かに大好物。
食欲無くても果物なら食えるから、俺。

「よくご存知でしたね。」

と言うと、

「創一郎に、以前聞いて…。」

と返ってきた。

そっか。前に聞いた事とか、覚えてるんだ。

ふーん。

「ありがとうございます。ほんとに好きです。」

重ねて礼を言うと、何故か赤くなる殿下。
あ、違うぞ。ドライフルーツがな。果物がな。

じっと見つめると、更に赤くなる。

…アンタ、そんなキャラだっけ…?


なんかおかしくなってきて、ふふっと笑いが漏れる。

そうだ、今なら…。

「雪…?」

「殿下、お伺いしてもよろしいですか?」

少し緊張したような面持ちで殿下が俺を見た。

「何だ。」

「殿下は、俺を愛していると、仰いましたが…、
では何故、ずっと俺に冷たくなされてらっしゃったのでしょうか。」

口にしてみれば意外にスッと出た。

殿下は少し口ごもっていたが、答えてくれた。


「俺を、嫌っているのだと思って。」

「…は?」

「その…、無理矢理 あの娘との縁を…切らせただろう。
それ故、お前はあの娘に未練があるように見えた。俺が贈ったものは、何一つ身に付けてはくれず、あの娘の好むという妙な服ばかり身につけて。」

「…殿下の、贈り物、ですか?」


……あ!ああ、あー!!

あったわ!

最初に贈られた時に櫻子ちゃんとの事が絶望的になったと知った俺は、殿下をめっちゃくちゃに恨んで、泣き喚いて贈られてきた物を裏の焼却炉で焼いたのだ。
それを不味いと思った両親や召使い達が、その後は贈られた物を全て、気を利かせて俺の目の触れない所に保管するようになったと、幾分落ち着いてきた2年前くらいに聞いた…。
そしてそのまま同じようにされていたんだな…。

「…申し訳ございません…。」

いやそれは、ほんとに申し訳ございません。

「俺の気持ちを受け入れてくれるつもりは無いのだと、やけっぱちな気持ちだった。すまない。」

「あー…あー、なるほど…あはは…は…。こちらこそ申し訳ございません。」

確かに受け入れるつもりは今でも…
今でも…うーん…。

「だが俺は諦めの悪い男だから…。
昨日のパーティーでの揃いの衣装を受け入れて貰えなかったら、もうお前を諦めて解放してやるべきなのかも知れないと、覚悟もしていたんだ。」

「あ…あ~、なるほど…!」

なるほどなるほど!!

もしかして前回の婚約破棄って、衣装を着れなかったのが原因か…?
いやでも、衣装はウチに届かなかったんだよな。アレはちゃんと、家族も俺も、待ってたんだ。殿下の思惑は知らなかったけど、大切なものだってのはわかってたから。


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