14 / 68
身勝手な暴君の純情。
しおりを挟む「…じゃ、何ですか…?
俺は、ラディス様の我儘で…勝手に婚約者にされたって、そういう事ですか…?」
自然、俯いてしまい 落ちてきた前髪で目の前が翳る。
「我儘…、だとは自覚している。すまない。」
神妙な声でクソ殿下が静かに謝罪を口にした。
権力をそんな事に使うなよなあ…。
「幼い雪の意思を無視して縛りつけたのは、申し訳無いと、思ってる…。」
向かいで殿下が頭を下げているのが見えるが、言葉が出て来ない。
つか…まあ、両親の立場からすりゃ、断りたいが、もしかして自分らのせいで国が揺らいだりする?とか考えたら…まあ、やだよなあ。
俺だってやだわ。息子1人差し出して解決するなら仕方ない、と思うかも。
それに、何も取って食おうって訳じゃなし、ゆくゆくは皇帝の伴侶になるって事だもんな。
同性婚が認められているとはいえ、過去に皇帝の側室になった男性はいるが、皇后にまでなった事は未だ無い。
それを考えれば、まあ…皇后出したら家の誉れにもなるし、、、?
仕方ないか!って考える…かもな。
それを考えると、親を恨む気にはなれない。
なれない、が…、
「ラディス様…。」
俺の声に殿下が反応して頭を上げる。
「何だ?」
「嫌いです。」
「…。」
「嫌いです。」
「……うん。」
お前さえ、我儘言わなきゃ。
俺は今頃、櫻子ちゃんと婚約してて、我が世の春を謳歌して生きてたかもしれないのに。
遡行前に、何が原因なのかもわからないまま皆の前で婚約破棄されて、それが原因で軽んじられて嫌がらせを受ける事も、殺される事も、なかったかもしれないのに。
いや、確実になかった未来だよな。
お前と、婚約さえ、させられてなきゃ。
思考が回ってくると、どんどん胸の辺りが苦しくなってきた。
ふつふつとした怒りで体が熱くなる。涙が溢れる。
悔しい。
何で、お前みたいな身勝手な奴の為に、俺が。
俺の、人生が。
「嫌いです。俺は、貴方が、憎い。」
言ってしまった。抑えられなかった。
泣きながら、息苦しくて肩で息をする。
何だか凄く息苦しくなってきた。
視界がグラつく。
なにこれ。
「…雪?……雪!!」
座ったまま前のめりに倒れそうになった俺の様子がおかしいのを察知してテーブルを飛び越えてきたクソ殿下に抱きとめられる。
こんな奴に支えられるとか嫌だ、と腕から抜け出そうと藻掻くが力が入らない。
息が、苦しい。胸が、苦しい。
目が霞んで、とうとう見えなくなった。
「雪、ごめん!」
声が聞こえたと思ったら、ふっと体が浮くような感覚がして、次には唇にあたたかい…熱い、柔らかいのに弾力のある何かが、何度も押し付けられて、その度に空気が送られてくる。
暫くして。
落ちついてきた俺が目を開くと 泣き出しそうな殿下の顔がドアップで見えた。
「雪…。」
そんな目で見るな。
「雪、良かった…雪、」
呼ぶな、俺を
「雪、ごめん。雪、好きなんだ。」
やめろよ、俺は好きじゃない
「雪……愛してるんだ…。」
…俺は愛してない
「雪、愛してるんだ…ずっと前から…。…頼む…雪…、」
…俺は…、
零れ落ちてきた殿下の涙が俺の頬に落ちて濡らす。ずっと、ずっと。絶え間なく。
泣いて歪んでも綺麗なその顔をずっと見ていると、唇を重ねられた。
まるで、この世で一番壊れやすいものに触れるかのような、優しい触れるだけのようなくちづけ。
あ、これ…。さっきのって、これか。
と、ぼんやり思った。
角度を変えて、何度も啄むように、愛しむように。
俺にだってわかる。
これが、凄く凄く色んな事を我慢して、大切に扱われている事くらい。
先刻と違って意識はちゃんとあるのに、拒否出来ない。
憎ったらしい男に唇を奪われている筈なのに、逃げだせない。
奪われっぱなしで、俺は、なんだか此奴に絆されてしまいそうになっている。
望めばどんな綺麗な人間だって、愛だって手に入るだろうに。
よりによって、こんな冴えない男の俺にここまで愛を乞うなんて。
手に入る見込みの無い愛を、こんなにも必死に切望する姿に、心を動かされない訳が無いじゃないか…。
アンタ、狡ぃよ…。
何故だかつられて、また涙が出た。
45
お気に入りに追加
1,931
あなたにおすすめの小説
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる