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あの頃の話をしようか…。

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夜風が冷たくなってきたので取り敢えずはバルコニーからは移動しようか、という事になった。


「なら俺の部屋に…、」

と、俺を抱き上げて(屈辱)移動魔法を使おうとするクソ殿下を制し、

「いえ、執務室の方で。」

と希望する。

殿下の部屋は今頃きちんと女官達が片付けて情事の痕跡なんか残ってはいないだろうが、なんかこう…話してる途中で思い出しちゃうのも、嫌じゃん…?

「…わかった。」

「じゃ、執務室にれりごー!」

「大公殿下は御遠慮願います。」

「あ、はい…。」


ちゃっかりついて来る気だった大公殿下は何なんだ。


「では、お願いします。」

「…わかった。」

「じゃあまたね~。」

転移直前に大公殿下に小さく手を振ると、満面の笑顔で振り返される。

完全に面白がってるな…。





ややあって。

クソ殿下の執務室に着いた俺達は、殿下の腕から降ろしてもらい、取り敢えずローテーブルを挟んで 向かい合わせにソファに座った。


「…先程の話について、御説明願えますか。」

最早俺は能面である。
顔には出さないようにしてやるから、とりま洗いざらい話せ…という、せめてもの配慮だ。

殿下はじっ、と俺を見ると、観念したように話し出した。


つまり、こうだ。


あの頃、元々親同士で親交のあったウチ(岩城家)と佐陀川家の同い年の俺と櫻子嬢は、幼い頃から度々顔を会わせる機会も多く、よく一緒に遊んでいた。

そんな風だったので、両家の親も、もう婚約させとく?ってノリだったんだが、いくら何でもまだ幼過ぎるからもう少し成長して本人達の気持ちを確認してから、って事で話は纏まりかけていたらしい。

そこに、何故か俺に、ラディス皇子からの婚約の申し入れが来た。
幼い頃からラディス皇子と兄は親しかった。
その関係でウチは皇帝陛下の覚えもめでたく、俺が産まれた時には皇宮に顔見せにいく前にラディス殿下はウチに俺を見に来ていたし、その後、多忙になってきてからもよく遠目から俺の様子は見ていたと言う…。
最初は親友の弟だから可愛く思っているだけだと思っていたが、他の婚約話がある事を兄伝てに聞き、急がねばならないと行動を起こした、と。

…10歳男児を見初める15歳。ヤヴァイ。

その頃、皇子には既に幾人もの婚約者候補の御令嬢方がいた。
勿論、家格、容姿、教養等、皇子に釣り合う相手ばかり。
それなのに、それを全て蹴り、何故に俺、と両親は戦慄いた。

勿論、皇子周辺の家臣団は猛反対した。
そりゃそうだ。
いくつもの力のある貴族の娘達を伴侶に迎えさせる事で政治のバランスは取れるもの。
それを、1人も迎えないとなると…。
しかも、ラディス殿下はこの国で現皇帝の唯一の皇子。勿論皇太子に立ち、先は皇帝に即位しなければならない身。
男を王妃に迎えるなど…。

そりゃそうだわ。俺だってそう言うわ。

ところがラディス殿下は、あっさりと答えた。

「世継ぎなんか叔父上達が作るだろ。」


えええ~…。

「どの令嬢も娶らなきゃ、小競り合いも起きないだろ。」

ええええ……

「雪長と結婚出来ないならもう継がない。」

………。

家臣団は沈黙した。

かくして、皇国を担う皇子のそんな覚悟(?)を聞かされた両親や兄が拒否できる訳も無く…。僅か10歳の俺は、人身御供の如く、差し出されたのだった…。


こんな我儘、聞いて良いのか…?
やっぱこの国駄目だわ。お先真っ暗だわ。



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