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他に褒めどころは…。
しおりを挟む誕生パーティーでメンタルが疲弊した俺は、殿下の注意が逸れた一瞬の隙をついて、そろそろとバルコニーへ出た。
わぁ~綺麗なお月様~。
同じように外の空気を吸いに出ていたらしい先客がいたが、男性だったので会釈だけして逆の端に寄った。
襟元を寛げて ふぅ、と息を吐くと、ずっと見ていたのか、声を掛けてきた。
「お疲れですね。」
「ええ、まあ…。」
…そう思うならほっといて欲しいんだなあ~。
会場から漏れた明かりで見えたその人物は、これまた見覚えがある…。
歳の頃は30前後、濃い金髪に凛々しい太眉、優しげな緑の瞳、逞しい体躯。
「あ、アンリ殿下。」
「え、あ…君、雪君か…?」
この美丈夫、現皇帝陛下の歳の離れた弟君である大公殿下。
つまり、クソ殿下の叔父君。
結構お若いせいか、ご身分の割りにはフラットというか、気さくにお声掛けされるお方だ。
俺に対する態度は昔から結構まともなお方でもある。
久々にお会いする大公殿下は、やはりというか、俺の頭から足の爪先までを興味深げに眺めて、仰った。
「良いね。君って、そうしてるとすごくそそられる。」
「…サヨウデスカ…コウエイデス…。」
何故同じような感想を述べるのか。
血筋?
というか、やっぱ何時もの俺スタイル、マジで評判悪かったんだな。
「こうして見ると、何だか…白い肌に黒髪に黒い瞳って、壮絶に色気があるもんなんだな。」
「……」
色気。またしても、色気。
イケメン、とかって褒め言葉は出て来てくれないんだな…。まあイケメンではないからな。仕方ないな。
顔の造作は頗るモブだもんな。
光の無い目、してるね~、とはよく言われるんだけど。
それにしても俺って何なの…。
15で童貞で、貰える褒め言葉の語彙が主に色気、って どうなんだ。
そんなの今日迄言われた事ありません。意味不。
大公殿下は悪くないし、褒めて貰ってんだろうけど、何だかウンザリしてしまう。
黒髪なんてそこ迄珍しいもんでもなかろうに。
「あ」
ふと大公殿下が何かに気づいた素振りでつかつかと近づいて来た。
何なに?と戸惑っていると、大公殿下の大きな手の人差し指が少し曲げられて、すい と俺の頬上辺りを掬うように触れた。
「?」
「睫毛が…。」
見ると、確かに殿下の右手の人差し指のそこには、睫毛らしきものが。
は、そんな短い睫毛を?め、めちゃくちゃ視力良い~!!
感心して見ていると、大公殿下はポケットチーフを取り出して、あろう事かその睫毛(短)を包み、また戻し…。
(…?!)
ずいっと体を寄せてきて頬同士が触れんばかりの位置で、
「今夜の素敵な君の思い出に…。」
と、耳元で囁いた。
コンヤノステキナキミノオモイデニ…
反芻して、時間差で鳥肌が立つ。
ヒェ…
反射で走り去りたくなるが両腕をガッチリ捕まれる。
またしてもこのパターン!!
後で捨てるだけのものを後生大事風に扱うの、それ御令嬢達にしか有効じゃないのでやめて欲しかったし、
「ラディスに飽きたら私のとこにおいで。」
出た。かませ犬的なやつ。
…そういう事を耳元で言うのも、鳥肌もんなのでやめていただきたい。
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