おれとかれぴとかれぴのセフレ

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 少しの沈黙のあと。

 クックックッ

 まるで漫画に出てくる悪役が笑う時の擬音みたいな押し殺した笑い方で、みさかが笑った。おれ、ちょっとビックリ。リアルでこんな笑い方するヤツ居るんだ…。

「やっとわかったんだ?灰田の事だから、全部が終わっても気づかないと思ってたのにな」

 一頻り笑って気が済んだらしいみさかは、ひとりごとみたいにそんな事を呟いた。と言っても、全然小声じゃないから普通に聞こえるんだけどな?
 それにしても、言い方に棘を感じるのは気の所為か?訝しみつつ、まだ話がよく見えないおれは流れを見守る事に。

「じゃあ、マジで…?」

「当たり前だろ。客観的に考えてみなよ。俺みたいなエリート種が、何の理由も無く君のような頭が悪くてむさ苦しい大型犬を相手に言い寄ると思うのか?有り得ないだろう、普通に」

 やっぱりさっきの棘はジャブだったか…。堰を切ったように話し始めたみさかの口から、流れるような大翔へのdisり。
 みさかの脇の下から大翔の方を覗くと、大翔はポカンとした顔をしてみさかを見てる。あれは純粋にポカンだな。まだ脳内で情報処理ができないのかも。大翔、そういうの苦手だもんね。

「大体な、君は俺のタイプじゃない。全然、ない」

 大翔の脳がまだ仕事出来てないってのに、早くも第二波を放つみさか。その容赦の無さに慄くおれ。
 しかも大翔はみさかのタイプじゃないとな。じゃ、マジで何の為に誘惑したの?
これは流石に黙って聞いてるだけじゃダメだ。
 
「あっ、あのさぁ…」
 
「俺のタイプは、この弥勒くんのような小さくて愛らしい天使だ」

 何がしたかったのか質問しようとしたおれの言葉に被せて、とんでもない言葉を放つみさか。今度はおれもポカン。そんなおれの気配を察知したのか、みさかは体ごと振り向いて、おれと視線を合わせた。そして、にっこりと笑う。さっきまでのいけ好かない笑い方とは違う、すごく上品で穏やかな笑顔。

(うわ…)

 白くて少し長めの髪は。頭のカーブに沿って垂れた耳。毛という毛に光沢があって、よく手入れしてるのがわかる。そして、優しそうな濃いヘイゼルの瞳。スっと通った高い鼻筋、羨ましい。
 至近距離で見るみさかは本当に綺麗な男だ。
 しばらくボーッとみさかの笑顔に見蕩れていたおれは、頭と耳を撫でられる感触にハッと我に返り、思い出したように声を絞り出した。

「…え?お、おれ?」

 自分の顔を人差し指で指しながら言うと、みさかがコクリと頷いた。ちら、と大翔の方を見ると、ヤツはまだ情報処理が終わってないのか、そもそも処理能力が無いのか、未だにポカン顔のままだった。いくら何でも遅過ぎだろが。
 そんな大翔を待つ気が無いらしいみさかは、ごく自然な仕草でおれをエスコートして、さっきまで座ってたソファに座らせた。勿論、当然のようにみさかも横に座った。
 大翔がバイトして買った2人掛けの青いソファに大翔だけが座れずに立ったままポカン。罰ゲーム?

「弥勒くん、俺はね。こんなにもいたいけで純粋な君が、あんな粗暴で図体がデカい猛犬に蹂躙されるなんて、見ていられなかったんだ」

「そ、そぼう…」  

「ちょっ、弥勒に何を…」
 
「うるさい黙れ駄犬」

 聞き捨てならない事を言われて、やっと浮上したらしい大翔が慌てて口を挟もうとした。だけど、みさかの切れ味鋭い冷たい言葉にあえなく撃沈。駄犬のレッテルをバシバシ貼られて言葉を失った大翔が少しだけ哀れだ。なのに、呆然と単語の反芻しかできないおれには、みさかは神父様みたいな慈愛に満ちた表情と優しい声色で、ものすごい事を言った。

「知ってるかい?アイツはね、本当にセックスが下手クソだ。前戯は雑だしテクも無い。ただただ悪戯に巨大で凶悪なブツを対象に突っ込んで、自分勝手に欲を満たすだけなんだ。
この5ヶ月、ずっとずーーーっと、そうだった。
 最初の頃はね、万全に備えていたにも関わらず、肛門科にも通ったものだよ。まあ、俺もボトムは高校の頃以来だったから、勘を取り戻すのに時間がね…」

「こうもんか…ぼと?」

 こうもんかは肛門科だよな。でもボトムとは…。話のニュアンス的に、突っ込まれる側って事だろうか?肛門科の世話になったって言ってるし…、と推察に忙しいおれの脳内。大翔は真っ赤になったり青ざめたり忙しく顔色を変えながら、口をパクパクしているだけだった。本格的に哀れ。そうだよな、自分のセックスが下手クソだなんて暴露された日にゃ…。
 だがしかし。おれの肩を抱き、沈痛な面持ちで小さく首を振りながら語るみさかの言葉には、生々しくもとてつもない説得力があった。これが経験者の言葉の重み…。
 じゃなくて、お前ら5ヶ月も前からセフレだったんかい。被ってない期間、1ヶ月しかないやろがい。
 開示された事実に、思わず能面になるおれ。交際開始早々から裏切られてたってどうなんだ。流石に凹むわ。
 そんなおれを痛々しそうに見つめて、みさかはまた言葉を続けた。

「でもね、弥勒くん。だからこそ俺は、君の盾になれて良かったと思ってるんだ。
 あんな巨チンテク無し暴走駄犬の暴力的な性欲が、こんな華奢な弥勒くんにぶつけられていたらと思うと…」

 途中で言葉を切り、ぶるっと体を震わせるみさか。つられてぶるっとなるおれ。あくびと同じで、ぶるっも伝染るよね。 え、そうでもない?おれは伝染るが。
 …じゃなくて、えっーと、つまり…?

「つまりみさかは、おれの為に大翔のセフレになったって言いたいのか?」

 首を傾げながら聞くと、みさかは頷いた。まじか。でもそれなら余計に疑問が湧いてくる。

「…なんで?なんでそこまで?おれ達、会うの今日が初めてだよな?」

 そう。おれはつい30分前までみさかを知らなかった。それどころか、大翔が浮気してるのすら気づいてなかった。大翔から、

『急遽代理でバイトに出なきゃならなくなった。前に代理頼んだ事があるスタッフだから断れない。今日のデートの予定をズラして欲しい』

って連絡が来て、予定がぽっかり空いた事で手持ち無沙汰になって。なら、部屋で帰りを待っててやったら喜ぶかなとノコノコここに来なければ、この先もみさかの存在を知らないままだったのかも。そんで、みさかとセフレ続行中の大翔と、何も知らないままつき合っていってたのかも。

 そう思ったら、ゾッとした。
 大翔め。普段脳筋の癖に、よく5ヶ月もボロを出さなかったな。いや、おれが鈍かっただけか?
 とにかく、気持ち悪い。他のヤツとキスした唇で、おれともキスしてたんだって思ったら、ちょっと吐き気がしてきたし。

 吐き気を堪える為に右手で口を押さえてると、みさかが背中をさすってくれる。いや、お前もこの状態の主な要因なんだけどな?と思ったけど、吐き気を我慢してて言葉が出なかった。そんなおれの耳に、またしても驚きの事実を告げてくるみさか。

「そうだね。確かに、君と俺は直前対面した事は無い。でも俺は、弥勒くんを何度も見てたよ」

「…え?どーゆー…」

 ストーカー、という単語が脳裏を過ぎったおれは、すすっ、とみさかから体を離す。すると、みさかは慌てたように首と手を振りながら弁解した。

「あ、違う違う。俺、灰田のバイトしてる店の本社の人間。仕事で店舗に寄る事もあれば、店長と友人だから晩飯に誘うのに寄る事もある」

「あ、あぁ…本社の社員さん…」

「弥勒くん、灰田のバイト上がり待つのに店に来てただろ?」

「確かに…」

 頷いて、よくよく話を聞いてみると。
 どうやらみさかは、大翔とつき合い始めてすぐの頃、店に来ていたおれに一目惚れしたとの事だった。
 怖い事に、その時のおれの服装の上から下(履いてたスニーカー)まで一つも間違い無く覚えてるみたいだから、多分本当なんだろう。(手持ちのアイテムを口頭で答え合わせ済み)
 その後からは、店舗に寄る度におれの姿を探すようになって、間も無くおれがバイトスタッフの大翔とつき合っているという事を突き止めたんだって。

 ……なあ、それを世間ではストーカーって呼ぶのでは??
 
  
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