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54 謎国ホーンからの留学生には、羨ましい制服がある
しおりを挟む「そうか、あれが......」
白亜の廊下を静かに進んでいく2人組の後ろ姿を凝視しながら呟く。すると、隣で同じように彼らを目で追っていたらしきサイラスが答えた。
「ホーンの留学生達は皆、黒に近い藍の長衣で揃えていると聞くから、間違いないと思うよ」
「へえ、あの長衣で」
先ほども言ったように、アカデミーの中では多国籍な学生達が、様々な異文化の匂いを感じさせる衣服で闊歩している。その中には同国であろう数人のグループもちらほらあり、装束に同じテイストを感じこそはしても、そっくり同じいでたちの者達というのは、まだ見た覚えがない。
「どうしてまた、揃いの衣装を? 何か意味があるんだろうか? ホーンって、やっぱり変わった国だよな」
そう言うと、横でサイラスも頷く。
「それは、確かにね。けれど識別し易いし、それに......秩序的で美しいじゃないか」
「秩序的?」
学園に通っていた頃は、暗黙の了解のように、生徒達は皆、白シャツに黒や茶のジレなどの似たような服装をしていた。けれど制服という訳ではないから、色や素材なんかにバラつきはあった。特に服地などには、家の経済状況も反映されるから、その辺の細かい部分は仕方ない。
だが、ホーンの学生達の衣装は、色といい布地といいデザインといい、完全に同一のもののようだ。しかもよく見ると、その布地は地味なようでいて、質の良い控え目な光沢があるのだ。波打ちはしても、皺のひとつも無いその黒藍は、どこか神秘的だ。
他国に比べてアクのない大人しめな顔立ちのホーン人達が何人も集まって、その布で統一した衣装を着ていれば、サイラスの言うような秩序的な美しさも生まれそうに思える。
(なるほどな......)
脳内でそんな想像をしてみた俺は、頷きながらサイラスに同意した。
「なんか、わかる気はする」
「だろう?」
俺の返事に、嬉しそうに笑顔を浮かべるサイラス。
やたらホーン贔屓なのは、俺がホーン人っぽいからか、ホーン印の怪しい薬や魔道具をお気に入りだからか、どっちだ?
そんな疑念が頭を過ぎり、思わず薄目になってサイラスを見る。しかしそんな俺の疑惑の眼差しには露ほども気づかない能天気な美男子は、また言葉を続けた。
「知ってるかい、アル。噂ではあの衣装って、耐水・耐火・防刃・防弾の仕様になっているらしいぞ。」
「えっ、嘘だろ?」
驚きの情報に、首がもげそうな速度でサイラスに向き、興奮を隠さず勢いよく質問をぶつける。
「それって噂に聞く付与魔法とかっていうやつ? 何たって、魔術大国ホーンだもんな?」
だがそんな俺に、サイラスは首を捻りながら答えた。
「うーん、どうだろう。ここだけの話、ホーンは近年、魔術だけじゃなく技術分野も発達してるらしい。だから、魔術だけかはわからないな」
「......色々想定外すぎないか、ホーン」
魔術だけではないとな。まあそう言われてみれば、かのフオル。あの素材だって、別に魔術で作り出したものではなく、長年の研究の末に造り上げたって話だったものな。
ふわふわで肌触りが良くて、水分を含んで湿ってもあっという間に乾いて、そしてまたふわふわになった。フオルで作られたガウンも暖かかった。あれはつまり繊維を開発したという事だろうか。
魔術では生み出せないものも開発して作ってしまうホーン、侮りがたし。
「国は小さくとも、最も敵に回したくない国ではあるな」
唸るように言うと、サイラスがクックッと喉で笑う。
「それは言えてる。柔和に見えて、存外気難しい。そういう性質も、誰かさんを思い起こさせる」
「俺は気難しくはないだろう」
「芯があるって事だよ。それにしてもあの衣装、アルにも似合いそうだなあ」
長い廊下を遠ざかっていく黒藍を見つめながらサイラスが言うので、俺もちゃんと答えてやる。
「まあそりゃ、俺もあちらと似たような地味な顔立ちだし、似合うだろう」
「アル。君の顔は、地味とは言わない。可憐と言うんだよ」
「......そうか」
否定するだけ無駄だと学んでいる俺は、ただ一言、
そう返しながら思った。やっぱりこの大天使の目、タダの飾りだ。
だから気づかなかった。
廊下の遥か向こう、突き当たりを曲がったホーン人の学生2人が、ひっそりと此方を窺っていた事に――。
『あれが、白鹿の方様の?』
『思ったより似ておりませぬな』
『そうだな。しかし確かに、我が君のお好みではないな。白鹿の方様の方が、すんなりとなよやかで美しい』
『......相変わらずすけべだなあ。不敬ですぞ』
『貴様、告げ口するなよ』
そんな、おそらくは聞いてもよくわからない会話が繰り広げられていた事も、俺達は全然知らなかったのだ。
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ご感想ありがとうございます!
そうなんですよ...あのお方は、あちらでそういう扱いでおられます
おちり大切に、ガンバレヨ...😌
今後も2人を見守ってやってください〜🙏
久しぶりの更新ありがとうございます。どんなアカデミー生活が繰り広げられるのか楽しみです。
な、長らくお待たせいたし面目次第もござらん🤦♀️
楽しみにしてくださってありがとうございまーす!
更新ありがとうございます!!
待っておりましたーーー!!
しかし私、何故か記憶喪失になっておりまして、最初から読み直している最中です……😭
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そして相変わらず流れ流される才能✨を感じますアルくん。。。
楽しみにしております!!!
もくれんさん、こちらこそ長くお待ちいただきましてありがとうございます
2人は新しい環境にも相変わらずニコイチで動いておりますよ。仲良し…😌