そのシンデレラストーリー、謹んでご辞退申し上げます

Q.➽

文字の大きさ
上 下
38 / 54

38 奥歯に物が挟まったような言い方に突っ込みを入れたい

しおりを挟む


 登校途中にサイラスに拉致されて東ネールの屋敷で軟禁・懐柔→塔から脱走したシュラバーツ殿下の奇襲に備えて自宅に戻る予定を変更・一旦アクシアン本邸預かり→やっと帰宅→婚約式後、今度は正式な婚約者としてアクシアン公爵家に…という、短期間であまりにあまりな急展開に見舞われた俺は、すっかりトラブル耐性がついてしまった。
アクシアン公爵家も、入居初日にちょっとしたいざこざはあったものの、その後は取り立てて問題が起きる事も無く、俺は日毎にその環境に慣れていった。

これは、元より馴染んだ家だったというところも大きいが、(もう少々の事じゃ驚かないな…)と、メンタルが鍛えられたお陰だと思う。

かといって、全く違うレベルの貴族家に入るという事を甘く考えていた訳ではないぞ。屋敷内の事は別にしても、もっとサイラスのシンパみたいな連中やご令嬢方から横槍が入ったり、妬み嫉みイビりみたいな事があるかもと想定していたのだが、どうやらそんな事も全く無く。
 まあ、考えてみれば…婚約後、すぐに婚家に入ってるって実質もう嫁…という感じで変に手を出せないのかもしれないな。
 俺が女性なら、社交の場に顔を出して女同士のつき合いの中で嫌味くらいは言われるのかもしれないが、男だし。
サイラスの事だから、同性でも懸想してる人間はいそうだが…俺に手を出して公爵家の怒りを買いたい馬鹿はいないだろう。

とはいえ、気は抜かずアクシアン公爵家に相応しい品格を身につける努力をしなければならない事には変わりない。公妃様のように、将来は公爵を継ぐサイラスを支えられるくらいの器量を身につけねば。

途中までは確かに、『どうしたら婚約を回避できるだろうか』とか、『サイラスの為にもどうにか彼の求愛から逃げなければ』と考えていた筈なのに、いつしか真剣に向き合っている自分がいる。
まだ気持ちの内訳は 友情7、最近芽生え始めたなんとなく甘酸っぱい何か3なんだが、最初が友情10だったものがそう変化したのは、俺の中では凄い変化だ。これはひとえにサイラスの俺に対する努力によるものだと思うし、驕るわけではなく、サイラスのような完全無欠の男が俺なんぞにそこまで頑張ってくれてる事が素直に嬉しい。

…ま、やっぱり未だに、俺が女だったらもっと良かったんだろうけどな、と思う事もあるが…まあ、男で良いって本人が言ってんだから良いんだろう。




冬休みが明け、再び学園への登校が始まった。

婚約後、同じ屋敷からの初めての登校だ。教室に到着しサイラスと並んで席に着いた途端、2人揃ってたくさんの生徒達に取り囲まれた。

「ご婚約おめでとうございます!」

「サイラス様、良かったですね!長かったですもんね!」

「清貧の君、めちゃくちゃ鈍感でしたもんね!!」

「全然お膳立てにも気づいてくれませんでしたもんね!」

「ありがとう、君達のさり気ないサポートのお陰だ」

「おい待て」

次々に俺とサイラスに祝いの言葉を口にする生徒達と、それに礼を述べるサイラス、そして聞き捨てならない事を聞き突っ込む俺。
清貧の君呼ばわりの事はこないだサイラスに聞いたとして、鈍感って?何をお膳立てされてたの?そして、礼を言ってるって事はサイラスも了解済みだったの???

「どういう事だ、君」

見覚えのある顔だなとその中の1人を捕まえてそう質問すると、その生徒は何故か俺が捕まえている腕と俺の顔とを見比べながら真っ赤になった。

「あっ、いや、えっと…!」

「サポートとは?」

「あのっ、そのですね…、お2人でいらっしゃる場所から他の生徒達を退出させるよう誘導したり、清…アルテシオ様のお身の回りを彷徨く不逞の輩を人知れず更生させたり…」

「更生」

「せ…アルテシオ様を想う気持ちが本物ならば、サイラス様の恋…ご友情を応援して差し上げて、幸せを願うのが筋ではないかと洗の…教育を、少々」

「…」  

いや、お気遣いなのかわからないが、もうそこまで言いかけるなら普通に清貧の君とか洗脳とか言ってしまえばどうだろうか。
それに、サイラス様の恋…ご友情、はあまりに苦しい。もう今この状況なのに、何故今更そこ気を使う?
というか、君はもしかして例の"清貧の君を愛でる会"の会員とやらじゃないだろうな?

俺は胡乱な目でサイラスを見たが、サイラスは俺ではなく俺が腕を掴んでいる生徒をじっとりとした笑顔で威嚇していた。俺より先にそれに気づいていたらしい生徒は、真っ赤だった顔が青ざめている。
それに気づいた俺はそっと生徒の腕を離し、解放。
サイラスは微笑みながら怒っていた。

この程度で嫉妬するなんて、君は何て面倒な男になってしまったんだ、サイラス。

「サイラス、君も知っていたのか?」

「ああ、まあね。皆、応援してくれていたしありがたく協力を仰いでいたんだけど、アルは純粋だから全く気づいてなくて手強かったなあ。そんなもどかしいところも良かったけれどね」

「…ほう、、、」

「とはいえ、私もまだあの彼女との婚約継続中だったからね…。想いを告げたいような、まだ気づかれたくはないような…ジレンマだったよ。だから逆にアルが鈍くて良かったかもしれない」

「…なるほど」

確かに1ミリも気づいていなかったが、好きな筈の俺をここまでハッキリ鈍感呼ばわりするのか君。
何とも言えない気持ちになる俺に、別の生徒がフォローの言葉を掛けてくれた。

「清ひ…アルテシオ様は真面目な方ですからね!」

「いいからもうハッキリ清貧って言いなよ」


とうとう突っ込んでしまった俺は悪くないと思う。









しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...