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27 俺の悩みを聞け…

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どんよりと曇った冬の空。だが冬だって、そんな天気の日ばかりではない。
シュラバーツ殿下の葬儀の後は暫く元気の無かったサイラスも、日が経つ毎に元の明るさを取り戻していった。

恐れていた脅威が無くなった事で、俺も婚約式までは実家に戻る事になり、再び家から学園に通う日々が始まった。すぐにテストが始まってしまったのだが、勿論サイラスのトップは揺らがず。俺も次点を死守する事に成功した。丸々1ヶ月休んでいたとはいえ、勉強をサボっていた訳では無いので当然といえば当然だ。

サイラスとの婚約式は冬季休暇中に済ませる予定。俺の希望で、あまり派手にはせず身内だけで行う事になっている。問題は卒業後を予定している結婚式だが…正直、それもあまり派手な事にはしたくないのが本音だ。サイラスとアクシアン公爵家には悪いが、やはり次期侯爵の伴侶が男の俺ではな、、、。
だって、考えてもみて欲しい。結婚式とは普通、花嫁になる女性の美しいドレス姿が見所になるものではないだろうか?重要だろう?
だが、俺とサイラスの結婚式となれば、花嫁ポジは俺になる。この、どっからどう見ても冴えない地味顔と、骨っぽい体の男。いや、男だとしても、もう少し華奢だったり美しいかったならば、凝った衣装で飾り立てたりなどして、花嫁程にはならずとも華やかさを演出する事は可能だろう。
だけど、俺ではなあ~~~。

超絶美形であるサイラスの美々しい花婿姿の隣に、衣装負けした地味な俺。その地獄の名は何と呼べば良いのか。

…という訳で、俺の心情的には婚約式と同じように地味婚希望なのだが、アクシアンの家格からしておそらくそれは許されないだろう。地獄の顔面格差派手婚確定である。サイラスと結婚するのは覚悟出来てるんだが、皆の前での派手婚、気が重い。
何ならサイラスの馬並みペニスを突っ込まれる日を思うよりも、気が重い。


冬休み前からそんな事ばかり考えていたら鬱屈した気分が顔に出ていたのか、今度はサイラスが俺を心配し始めた。



冬休みに入って2日目。
婚約式の最終打ち合わせと家族への賄賂(?)を持ってサイラスが我が家を訪れた。
本日は今街で評判の菓子工房の焼き菓子の3段セット。絶対特注だろう、それ。受け取った母上と妹があからさまに喜色満面で、父上や兄上まで美しい箱を見てソワソワしていた。ウチは皆、甘いものに目がないからな。特にサイラスが土産に持って来てくれる菓子は、卵や牛乳や砂糖がふんだんに使われて作られているものばかりだから、普段は小麦粉と水を混ぜて薄く焼いた生地に、ほんの少しの蜂蜜を垂らして甘味を味わっているだけのウチの家族には、物凄く楽しみなものなのだ。

例の如く、我が家で一番マシな部屋にサイラスを通し、座ってもらう。少しするとレイアードが茶と茶菓子を運んで来て、テーブルに並べた。茶菓子に出たのは先ほどサイラスが土産に持ってきてくれたらしき菓子。カスタードクリームの甘い香りが堪らないタルトや木の実やチョコのトッピングされたクッキー。美味そうだ。
それらをつまみながら茶を飲み、数日後に迫った式の衣装や時間の再確認をする。因みに衣装は、一昨日サイズの再調整をしたので明日の昼には仕立て屋から届く事になっているから問題無いと思われる。結婚式用ではないので、白基調でもそこまで華美ではないので地味顔の俺にも優しい仕様だった。
それから、アクシアンからの迎えの馬車が何時に到着するのかや、リモーヴ家からアクシアン公爵家への道順、所要時間。
ごく内輪で指輪交換を行うだけとはいえ、格式ある家との間の事なので、きちんとしておかねばならない。
それにしても、サイラスの父君であるアクシアン公爵や、母君の公妃様は俺との事をどう思われているんだろうか。修道院に駆け落ちしてやると脅した以来、反対はされたとは聞かないが…面白くは思っていないだろうなあ。
実は、アクシアン公爵のお顔を見た事はあっても、体が弱くて別荘で療養されているという公妃様には一度もお会いした事が無い。
当日顔を合わせて何を言われるものかと考えて、ふと溜息が漏れた。それを、サイラスは聞き逃さなかった。

「この間から顔色が優れないな。何か不安なのか?それとも、他に悩みが?」

父上が横に居るというのに、そんな言葉を口にしながら俺の手に触れてくるサイラス。それをニヤニヤしながら見ている父上。

「では、確認事項はこれで終わりましたかな~。では、後はごゆっくり」

とか言いながら席を外さないでくれ。全然さり気なくないですぞ。
父上が部屋を出ていったのを見届けてから、サイラスは俺に向き直って真剣な目をした。

「私との婚約、やはり気が進まないか?」

「いや、違う違う」

俺は慌てて否定する。

「そんな事ではないんだ。婚約も結婚も、こんな俺が君に望んでもらえたのは嬉しく思っているんだ、本当に」

「…本当に?」

「ああ、本当だ」

空気の読めるが取り柄である俺には、泣きそうな顔をするサイラスに対して『派手婚キツい』などとは言えなかった…。
しかし、ほんの少しだけ零すのを許して欲しい。

「まあただ…結婚式はやっぱり賑やかになるんだろーなー、と…」

これなら不満には聞こえまい、という言い方でそう言ってみると、サイラスは少しキョトンとした表情になった。何その顔。

「あれ…だってこないだ話しただろう?結婚式は東ネールの屋敷で親しい親族だけを呼んでやる事にしようかと」

「え?」

東ネールの屋敷って、あの屋敷だよな?こないだまで俺が軟禁生活(で良いのか?)送ってた…。

「初耳だと…思うんだが…」

本当に覚えが無く、俺は首を傾げながらそう返す。しかしサイラスも同じように首を傾げながら、サラリと衝撃的な返しをして来た。

「え、そうだっけ?ネールに居た時にベッドで何度か言ったんだけどな、そうしようかって。アルもあの屋敷を気に入っているし、良いかと思ってな」

「…」  

「アル、可愛くウンウン言っていたし、てっきりそれで決まりだと思っていたんだが…」

「……」

「あ、そうか。何時もその話をする時、アルは気をやった後だったかも。気持ち良さそうに蕩けた顔をしていたものな」

「………」


どうやら俺の地味婚の希望は、既に叶っていたようだ。
しかしその後の話し合いの結果、今後、重要な話は事に及ぶ前にする事と決まった。

サイラスの房中術、恐るべし。







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