そのシンデレラストーリー、謹んでご辞退申し上げます

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18 着々と狭まりつつある包囲網

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東ネールの屋敷に到着し、激動の一夜が明けた。


結局昨日は、サイラスの超巨根に恐れをなした俺が失神するという、我ながら深窓の姫君ばりの初心っぷりを発揮してしまった。
いや、情けないと反省はしているが、俺の名誉の為に少しだけ言い訳させてくれないか。多少大きいくらいじゃ俺だって別に驚いたりはしない。第一、俺にだってソコソコのブツは付いている(サイラスお墨付き)。しかしサイラスのアレはだな…。
正直、アレが自分の尻に突っ込まれるのかと想像してしまったら、もう恐怖以外の何物でも無かったのだ…。あんなの凶悪過ぎて穴と内臓が破壊されてしまうわ。
サイラスも、そんなブツを隠し持っていたのを俺に見せろと言われるまで黙っていた事と、黙ったままで事を進めようとしていた事に対して反省したんだろうな。あの後はゆっくり休めと言われて至れり尽くせりだった。
いや本当に、あのまま続行されていたらと気が遠くなる。サイラスは紳士なので無茶な事はしないと信じたいし本人も俺を傷つけたりはしないと言ってはいるが、興奮状態になった人間の行動に絶対など無いではないか。
全く、あの時サイラスにブツを見せてみろと言った自分の判断を褒めてやりたい。切れ痔どころではないダメージを回避したぞ、と。

で、失神後に目を覚ましてからの事に戻るのだが、俺が気を失っていたのはほんの3分ほどだったらしい。驚いたサイラスが俺を寝かせ、リドリーを呼んで医師を連れて来るように指示してすぐに俺が目を覚ましたとの事。それゆえ意識が戻ってから暫くすると、慌ただしくリドリーと医師がやって来て、俺を診察した。実は急いで布団を被せられただけだったらしい俺は、それを捲られると何も着ておらず…それに気づいた時には少しばかり気不味い思いをした。脱ぎ散らかされた服、現場に残ったニオイやアレコレから、何をしていたのかは一目瞭然だろうと思ったからである。

柔和そうな老医師は一通り俺の体を診察して、失神は何かしらのショックによるもので大事無い、と言って帰って行った。
だろうな。その何かしらという原因もはっきりわかっているしな。
しかし、どうにも恥ずかしかったので俺がサイラスにブツクサ文句を言うと、

『小さい頃から世話になっている医師だから余計な気兼ねは要らないよ』

なんてあさってな返答が返って来たが、そうはいかんだろ…。
生まれながらに王家に連なる家柄で、多くの世話係に傅かれ、肌を見られるのに疑問すら抱かず育って来た高位貴族のご令息と違って、俺は平民に毛が生えたような生まれ。物心ついてからは自分の世話は基本的に自分でしてきたのだから、必要以上に他人に体を見せた事など無いのである。使用人の少ない没落貴族を舐めるなよ。
しかし、そんな意味の事をサイラスに言ったら、

『へ、へえ…そうなんだ?じ、じゃあアルのアソコやココを見たのも私だけ…?へえ…そうかぁ…ふぅん』

などと妙な笑顔を浮かべていたから少し薄気味悪かった。だから何だというのか。使用人の少ない没落貴族を(以下略)

その後、俺は客用の隣室へ移され、大事を取ってその日1日はベッドの住人として過ごした。夕方には俺の実家・リモーヴ家に向かった早馬も戻り、使者の持ち帰った父の手紙には『公子様のご随意に』というような事が書かれていて、我が父ながら予想を裏切らないなと感心した。いや褒めてる訳ではないからな?
学園からも休暇を許可(!)する旨の、学園長のサイン入りの書面が届き、アクシアン家の威光の絶大さを思い知る。権力怖い。その上、駄目押しの如く

「父上にも暫く此処に滞在する事は伝えてあるから」

などとにこやかに言うサイラス。アクシアン公の了承まで下りているのか。完全に外堀が埋められている事を肌で感じる。
良いのですかアクシアン公。息子さんを止めるなら今がギリギリですよ?!
しかし、出奔だとか修道院に行くだとか脅されてしまえばそうも出来ないんだろうか。お気の毒だ、よりによって唯一の跡取り息子が俺みたいな平凡低爵位家の次男坊なんかに引っかかるなんて。いや俺が引っ掛けた訳ではないが、何となく責任を感じる…ような気もする。

そんなこんなで夕食も部屋に運んでもらい、サイラスと一緒に食事を取りつつ、今後の話合いをした。

「何だか、すまなかった、色々」

綺麗な姿勢でスープを飲みながら、サイラスは申し訳なさげに謝罪してくれた。

「だが、ここに連れて来た事に対しては謝りたくない。先ほども言ったが、私達には触れ合う時間が足りなかった。だからここで共に過ごしながら私の事を知って欲しい。私の想いと同じほどには求めない。しかし、好きになってもらいたい。友情以上に。
私との未来を考えてみて欲しい。愛人や部下などではなく、伴侶としてのだ」 

目を伏せながらそう言った彼は、何時もの自信に満ちた様子とは違っていた。しかし愛人や部下はNG、のくだりをさり気なく強調している辺り、俺の放った愛人にしてくれて良いんだぞ発言がよほどショックだったようである。すまん。

で、ここからがまた少々面倒だったのだが、俺が彼に最終確認をすると、やはり軟禁を解く気は無いという。俺に嫌われるかもしれないリスクを考えつつも断行したというところに妙に固い意思を感じたので、そこは変に刺激せず、譲歩する事にした。

まあ、何と言うか。ほぼほぼ諦めの境地と言うか、寧ろ、ここまで想われたらもう仕方ないような気がしてきたと言うか…。
これだけ俺の事を好きになってくれる人がこの先の人生で現れるのか?なんて考えると、サイラスのような奇特な人間、他にいないだろうなという気もして…。

(…まあ、いっか…)

と思ってしまったのが運の尽きだった。


夜は平和に寝て、翌朝…つまり今朝起きてからも一緒に朝食を取った。それから、ゆっくり読書をしながら過ごしていると、午後になって屋敷にやって来たのはサイラスが呼んでいた宝石商だった。







 







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