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16 スパダリは初めてでも匠の技を会得しているというセオリー(※ややR18)
しおりを挟む気づけば俺は、サイラスの左腕に腰を抱かれ、右手でペニスを弄ばれるという体勢になっていた。
羞恥に顔を隠しながら、俺は小さな声を絞り出してサイラスに聞く。
「…なあ、それ、何の真似なんだろうか…?すごく恥ずかしいんだが…」
すると彼が一瞬手の動きを止めて、俺の顔を見たような気配がした。そしてすぐにとんでもない答えが返ってくる。
「ん?いやね、君にはただ愛を告げるだけではピンと来ないようだから、納得してもらえるまで好きなところを羅列していこうかと」
そうすればより伝わり易いだろ?と、さも名案とでも言うように得意気だ。
いや、全然名案ではないからその顔はやめろ…。
そして、俺がそうしている間にもサイラスの手の動きは再開しており、残念ながら俺のペニスは順調に育てられていたようだった。
「く…ふっ、んん…っ」
甘えたような声が俺の鼻から抜けていく。それを聞いたサイラスが俺の耳元に囁く声も、甘い。
「私の手は悦いか?嬉しいな」
「やっ、あぅ…」
袋ごとやわやわと揉みしだくように動いていた手が、刺激されて硬くなったペニスをぎゅっと握り込んでくる。あたたかい手のひらの肉に圧迫されて、目がチカチカした。何なんだこれは。
大きな声では言えないが、俺だって年頃の男子なので、心ならずも催してしまう朝はある。別にいやらしい夢を見たりしていなくとも、健康な男子ならそんなものなのだと以前兄上が言っていた。放置していても時間経過や排尿で収まったりもするが、それがまどろっこしい時にはこっそりと自分で慰めてしまう事もある。他国では基本的に自慰は神に背く行為として禁じられてはいるのだが、エリス嬢のようなのが野放しにされていたり同性婚が容認されている事からもわかるように、我が国は色々な面で他より緩い。従って、若い男性の自慰行為如き、知られたところで処罰の対象になったりはしないのだ。大っぴらにするような事でもないから知られる事なんか殆ど無いのだがな。だから、勃起したら機械的に扱いてさっさと射精してしまう。だがサイラスに扱かれるのは、自分でする時とは全然違った。自分でこんな触り方なんかした事が無い。ソコを他人に触れられるのが自慰の何倍も気持ち良いなんて聞いてない。
「あっ、あっあっあっ、」
「可愛いな…なんて可愛いんだ、アル」
声を抑える事も出来ず唇の端から涎を垂れ流すようなだらしない姿の何が可愛いものかと思うが、サイラスには可愛く見えているらしい。俺を見る目はうっとりと細められ、その瞳の奥には彼に不似合いな欲望がチラついて見えるようだった。涎で汚れた俺の唇はサイラスの唇で塞がれ、口の中に溜まっていた唾液も全て彼に吸い上げられた。
そして、唇を好きにされながらサイラスの巧みな手淫に翻弄されて鳴かされるしかなくなった俺は、間も無く彼の手の中で果てた。
「…ぁ…っ」
サイラスは自分の手のひらや手首の内側に漏れ出た俺の白濁を、唇と舌で舐め取った。そして、再び俺の目を見て笑った。
なんて淫靡で妖艶な微笑みだろうか。
穏やかで気高く、時に聖騎士のように清廉な雰囲気すら放つ彼にそんな表情ができるなんて知らなかった。腹の奥がゾワッとする。何だ、全てが吸い込まれそうになるこの感覚は。
射精に導かれ、肩で息をしながら、俺はぼんやりと彼を見つめた。
「…頼む、十分わかった。わかったから、もうやめてくれ…これ以上は心臓がもたない。」
「えぇえ?私の愛はこんなものでは無いんだが?途中で中断するなんて不完全燃焼じゃないか」
不満そうに少し口を尖らせるサイラス。どうやら止める気は無い模様。
どうしてだ。何時もの大人びた君は何処へ行ってしまったんだ、と顔が強張る俺。
サイラスは開き直ってしまったのか、そのまま片手でするりと俺の太腿を撫で上げた。
「すらりと伸びた手足の形も好きだ」
「あ!」
反射的に声をあげてしまう。嫌だ。こんな媚びたように高くなった気持ちの悪い声、俺のものじゃない。
しかし、自己嫌悪に手で口を塞ぐ事は許されなかった。口元近くまで上げた手首がサイラスに捉えられてしまったからだ。
「柔らかく響くその声が好きだ」
「……っ」
自分の方がずっと魅惑的な声をしている癖に、何故ありふれたような俺の声なんか。
「他の者達とは違う、晴れた日の陽に温められた風のような清々しい匂いが好きだ」
「ふつう、だ…」
気恥しい。そりゃ曲りなりにも取り敢えずは貴族であるからして、ボロ屋といえど風呂はある。毎朝身支度をする為に風呂には入っているから不潔ではないつもりだが、それにしたって大袈裟だ。それを言うなら香料入りの質の良い石鹸や、香水を愛用しているサイラスの方がずっと良い匂いだと思う。俺のなんか質の悪い安石鹸で洗いっ放しの体臭だ、体臭。普通の若い男の体臭ってだけだ。(大事な事なので3回言いました)
…まあ…経済的事情故に菜食に甘んじるしかないので、肉も食えている他の同級生達より体臭が薄いという可能性はあるがな?
しかしとにかく、サイラスは俺を過大評価し過ぎだ。あらゆるところを褒め倒されるなんて、まるでやんごとなき貴人のような扱いではないか。俺は貴人でも女性でもないというのに。
俺は困ってしまって、困惑しながらサイラスを見つめた。底辺貴族にはその褒め殺しは重過ぎる。
しかし俺の顔を見たサイラスは、プッと小さく吹き出して俺を抱きしめた。
「何時もの飄々とした表情も、今の困ったような顔も好きだ」
ぎゃふん。
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