そのシンデレラストーリー、謹んでご辞退申し上げます

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15 急展開過ぎて流されるだけ流される

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サイラスが俺の尻を左手で(!!)抱え直し、右手で開けた扉の向こうは、ちらと予想した通りやはり寝室だった。部屋の奥の壁際の中央には、実家の俺の部屋にある物の何倍も大きく重厚な造りのベッドが鎮座。飾り付きの天蓋から流れるたっぷりのカーテンに囲われていて、贅沢極まりない。そして、凝った意匠の刺繍の施されたこれまた豪奢な掛け布団に、俺は目を見張るばかりだった。これほどの豪華なベッドは、今までどこの屋敷でもお目にかかった事が無い。サイラスに招かれてアクシアン本邸には何度も訪れたが、寝室を覗くような真似はしなかったからベッドを見た事は無かった。だが別邸でこれなら本邸はもっと凄いのを置いているんだろうな…。

俺の知ってるベッドと言えば、簡素な木組みの上に、藁や古い布切れや綿を詰め込んだ大きな袋を敷いたもの。そこに寝るのだ。だがそのままだとチクチクして寝辛いので、俺は贅沢かと思いつつ袋を二重にしてるし、更にその上に厚めの布を敷いて使っている。そこまでの工夫をしても到底寝心地が良いとは言えないが、それでも庶民よりは多少はマシなのだ。
なのに、この目の前に置かれているベッドときたら、藁や布切れなどとはまるで無縁の贅を尽くした代物だ。こういう部分にもまた、埋められない格差をまざまざと感じる。
そして、サイラスにその上にそっと降ろされてからがまた驚きだった。

何だ、この感触は?
尻が柔らかく押し返される…だと?

驚嘆に声を出すのも忘れて固まっていると、トンッと軽く肩を押されて後ろに倒され、馬乗りになられ両手をベッドに縫い付けられた。サイラスの端正な顔に間近に見下ろされる形だ。

しかし、こんな危機的状況の只中にあるというのに、俺の意識は背面のベッドに向いていた。
背中に感じる弾力がまた柔らかい。痛くない。ゴツゴツしない。背中が幸せだ。ずっとこうしていたい。

柔らかな布の波にたゆたいながら、俺は以前に父から聞いた話を思い出していた。
王族や高位貴族は水鳥の羽やふわふわした羊の毛などを詰めた布団に寝ているのだと。きっとこれがそうなのだろう。それにしても…。

(信じられん…)

俺は自分が貞操の危機に陥っている事も忘れて唸った。全身が柔らかに包まれるような心地良さ…素晴らしい。金のある貴族達は毎日こんなベッドで寝ているのか、と感心するやら羨ましいやら…。

しかし、事は俺が何を考えているかなどお構い無しに進んでいくものだ。
呑気にベッドを堪能している間に、サイラスの手は俺のシャツの中に滑り込んでいた。それに気づいてやっと自分の置かれた状況に気づいて焦り、サイラスの動向に意識が戻る。手首は解放されたが危機継続中だ。
確かにさっき体の関係を受容するというような事は言ったが、まさか言ったそばからこんな展開になるとは思わなかった。

「さ、サイラス?流石に急過ぎないだろうか?」

サイラスの手首を掴んで押さえながら、やや上擦った声で抵抗を試みるが、胸や腹を撫でる手は止まらない。それどころか胸の突起にわざと指先を当てたりされて、ビクッと反応してしまった。そんな俺の反応を見ながら、サイラスが口を開く。

「急?急だって?」

平坦な声から感じる怒り。

「君は私がどんなに言葉を尽くそうと素直に受け取ってはくれないだろう。きっとこの先だって、今日のように他の人間と番えと平気で言うに違いない。
私は君だけしか要らないと言っているのに…」

「そ…」

んな事は、と言いかけて、口を噤む。否定できない。
そんな俺を見つめながら、サイラスは、言葉を続けた。

「だから私は決めたよ」

「…何を?」

「君が私の愛を否定するような事を言う毎に、体と会話する事に。
言葉では通じなくても体にわかってもらえば良いんだよな」

「!!?!」

本日何度目かの血の気の引く感覚。不味い。サイラスの目が完全にその気だ。 

「あのっ…!」

「問答無用だ。悪いがここからは体に答えてもらう。君が私をそうさせたんだ」

「…!!」

後は、何を言う事も許されなかった。

サイラスは再び俺の唇を奪い、口内を暴きながら服を剥ぎ取っていった。初めて?嘘だ。手馴れ過ぎている。経験は無いと言っていたのを疑ってしまうほどの手際の良さだった。

「アル。君が好きだ」

名残惜しげに銀糸を引く唇で、サイラスは甘ったるい声で胸焼けしそうに甘い言葉を紡ぐ。その間も彼の熱い手は俺の体のあちこちをまさぐりながら動く。

「君の誠実な瞳が好きだ」

「やっ…ん、んっ…」

「形良い鼻筋が好きだ」

「…ふっ、う…」

剥き出しにされた腰を撫で上げ、背中を滑り尻を掴むサイラスの手。最初は悪寒に肌が粟立っていたというのに、だんだん怪しげな快感を呼び起こされていく。サイラスは俺の下唇を軽く舐めて言った。

「薄い唇が好きだ」

「あ、ああっ」

次には、耳介にカリッと歯を立てながら囁いた。

「耳の形が好きだ」

「ツッ…!」

それから頬をべろりと舐める。

「滑らかな肌が好きだ」

「や…はあっ、んっ」

「手指の形が好きだ」

「やだ…やっ、サイ…っ、やめ…う…」

手を取られ、中指の先をちゅっと吸い、手のひら側から爪先までを舐められて、口に含まれジュポジュポと音を立てて出し入れされる。何だ、その卑猥な行為は…。見ていて何故か堪らない気分になり、下半身が熱くなった。指の股に舌を這わされると、とうとうペニスが震えながら起き上がってしまい、それを見られて羞恥に絶望する。

「感じてくれているのか。良かった…」

「…勘弁してくれ…」

泣きが入る俺に構わず、サイラスは含み笑いをしながら手でソコをやんわり包み込む。

「思っていた以上に立派だ」

「そういうの、やめてくれ…」


恥ずかしくて死にそうだ。



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