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哀れな男は神に祈る(エリアスの泣き言)
しおりを挟む神様、もう二度とあいつを傷つけないと誓います。
だからもう一度、あいつを俺に返してください。
今度は上手くやります。ずっと優しくするし、大切にします。
だから、どうか、どうか。
恋人関係を了承していながらあいつをわざと遠ざけたのは、ハマるのが怖いからなんてしょうもない理由だ。
それほど良すぎたんだ、あいつの体は。
オメガの証である認証入りチョーカーを首に巻いたあいつとつき合ったのは、最初はただの好奇心だった。まあ単純に、連日の好き好き攻撃に押し負けたってとこもある。
あいつが俺に告白を始めた当初、それまで女しか相手にしてこなかった俺にとって、男のあいつは性的には対象外だった。想像してみて欲しい。いくらタイプの顔をしていても、その相手には自分と同じ性器がついてるんだ。…萎えるだろう?
という訳で、にべもなく突っぱねたよ、最初はな。
でも、ある日。
俺んとこに来なくて姿が見えないと思ってたら、たまたま入った先のコンビニにあいつが居た。あいつは入口からすぐ見える店の奥のリーチインショーケースのところに居て、背の高い男と一緒にドリンクを何本もカゴに入れてた。俺は何故か、咄嗟に屈んで身を隠しながらあいつの動向を目で追っていたよ。何となく、鉢合わせたくなかった。
2人は俺に気づく事無く、商品を精算して店を出て行った。その後ろ姿を見送っていて、気づいてしまったんだ。
あいつを見るあの連れの男の視線に、あいつが俺を見るのと同じ熱がこもっているのを。
鈍い俺はその時、初めて気がついた。あいつ、モテるんだよ。俺だってそれなりだし女に不自由する事は無かったけど、それとは何か違う。
改めて観察してみると、オメガならではの中性感を纏ったあいつは男女の別無く好意を寄せられているようだった。
そんな事を知っちゃうと、現金なもので俺の中には言い知れぬ焦りが生まれてきた。今まで価値の無い石ころだと思っていたものが、実は希少な宝石だった、みたいな気分というか。誰かにやるのが惜しくなった。
俺の事が好きなあいつの所有権は俺にあるんだから、さっさと手中に収めてしまえと頭の中で何かが囁いたんだ。
そうして、俺はあいつの告白を受け入れた。
恋人としてつき合い出して、初めてあいつを抱いた時、俺は本当に驚いた。
その肌の絶妙な質感にも、それが仄かに香る事にも。俺はベータだから、あの香りがオメガフェロモンなのかはわからないけど、とにかく良い匂いだった。もしやボディソープかコロンなんかの香料かもと思ったんだが、セックスで汗だくになった後もその香りは消えなかった。
そして、肝心のセックスは…。
俺の少しの愛撫で跳ねる敏感さも、突き上げる度にうねる腰も、紅潮して切なげに眉を寄せる綺麗な顔も、なにもかもが女とは違った。違って、この上無くそそられた。俺のペニスを締め付けるあいつの肉は、狭くてうねうねと蠢いて、何処までも深く深く俺を受け入れてくれた。
正直、最高のセックスだった。
だけど、同時に危険だとも感じたよ。
こいつにどっぷりハマったら、もう他の人間を抱けなくなるって予感がした。
怖かった。
認めてしまえば、俺はあいつ無しでは生きて行けなくなる気がして。
でもあいつは、ベータである俺とは違う。いつかアルファに攫われちまうかもしれない、オメガだ。
ハマって愛してから横から奪われた時、俺はどうなる?そんなの恐ろし過ぎる。
そして、プライドだけは人一倍高かった俺がそれを回避する為にやった事は、それ以上あいつに気持ちを入れないようにわざとぞんざいな態度を取る事だった。子供かよと言われても、その時はそうするのが最良だと思ってたんだ。
でも、それがいけなかったのか…。
なにをしても黙って泣くだけだったあいつの、毅然として冷めた表情。その細腕からあんな強烈な一撃が繰り出されるなんて初めて知った。
いつも熱を込めて俺を見つめていたその目が、そんなにも冷たくなるのも、初めて見た。
俺の方が捨てられる事になるとは想定外だったから、去られて暫くは呆然とした。
見た事もないあいつを見たあとでは、どうせ謝ってくるだろなんて悠長な事は思えなかった。
今縋らなきゃ本当に捨てられる、そんな危機感がひしひしと襲ってきた。
だからプライドをすてて縋った、なのに――。
あの日から毎日祈ってるのに、あいつの姿は見えなくなった。
それでも俺は贈り物を続けた、
毎日、毎日。
ある日、あいつの父親が家の前に立っていて、俺に言った。
『アレはもうだいぶ前からここにはいないよ。だから君も、そろそろ無駄な事はやめなさい』
少しだけ面差しがあいつに似た父親を問い詰めても、それ以上は何も教えてくれなかった。
あいつを失くして一年後、廃人のように過ごしていた俺の目に映った、あるニュース。
一年少し前に帝位を継いだ、若き皇帝陛下にお子様ができたという。さも興奮を隠し切れないと言わんばかりのレポーターの声が耳障りで、消そうかとリモコンを手にした時、画面が切り替わった。そこには、皇宮らしき建物の2階のバルコニーから皇帝陛下と並んで手を振る、笑顔のあいつの姿が。
『この度陛下のお子をご懐妊されたユウリン様は、一年ほど前に後宮にお入りになられたオメガ男性であり、数居るご側室の中で唯一ご寵愛を賜っておられた…』
『ユウリン様は既に陛下の番となられており、今回のご功績により妃から皇后へと――』
「…ユウリン…?」
久々に見る画面の中のユウリンは、俺のモノでいた頃よりもずっと眩しく輝いて見える。
ああ、本当に…俺なんかではもう手が届かないところに行ってしまった…。
神様、神様
二度と会えないなら、せめてあいつの人生がずっと幸せなものになりますように。
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とっても楽しく読まさせていただきました😆
ユウリンの男前且つちゃっかりさんな所可愛かったです!
続編楽しみにしてますね✋
ご感想ありがとうございます
続編もどうぞお楽しみになれますように😊
ホントですか、ありがとうございます!(嬉)
続編もゆっくり更新になりますが、上がっておりますので是非ご覧下さい下され〜😊
ご感想ありがとうございます。
捕まえられる内に捕まえとかなきゃ、そりゃ逃しますよね〜(笑)
溺愛陛下の話も是非ご覧下さいませ😊