人生2度目に愛した人は奪われた番の息子でした

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29 村上 和志の母への気持ち

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「僕の恋人の義希さんの年齢は言った通り、38歳。少し歳上なんだけど…。」

「(少し?)…まあ…。やっとお前が選んだ人なんだから、反対はしないが…。」

「ありがとう。
まあ、父さん母さんと同じ年齢だからね。言いたい事はわかるよ。」

村上は湯呑みの玄米茶に口をつけた。
だが、今日の問題は年齢差なんて些末な事ではない。


「彼のフルネームは、南井 義希さんというんだ。」

それを聞いた祖父が、首を傾げて、そして直ぐに何かに気づき顔色を変えた。

「今日知った事なんだけどね。
南井さんは、父さんの元の番だったんだよ。」

祖母も気づいたらしく、信じられないと言う表情で村上を見る。

どうやら2人は南井の名に覚えがあるようだ。
それはそうだろうな、と思う。
よりによって、何故こんな巡り合わせに、と。
村上だって、そう思っている。

「…何故、そんな事に?
南井さんは、お前が陽司さんの息子だと知っていたのか?」

祖父の声は、狼狽する感情を押し殺しているようだったから、それに村上も答えた。

「いや、全く。今日、母さんのお墓でたまたま父さんが来てて。それで対面した途端、南井さんが倒れた。」

「なんて事だ…。」

祖父は眉間を指で押さえ、祖母は手で口を押さえた。

「相当ショックだったんだよ。南井さんはね、20年、一人だったんだ。番どころか恋人も作らなかった。
もう人を信じるのが怖かったからって聞いた。」

それを聞いた祖父は、更に難しい顔になった。

「20年…お一人で…。」

痛ましい、という表情で、祖母は目を伏せた。

「南井さんは僕がインターンで働かせてもらってる会社の入ってるビルに入ってる別の会社で働いてるんだ。
それで、最初は匂いだけがしてた…。」


村上は話した。

南井との馴れ初め、そして南井と自分は運命の番であるという事。
けれど、最初は受け入れて貰えなかった事。
南井は"運命"という言葉にも、運命の番そのものにも、拒否反応を示していた事。
それを何とか口説き落として、今がある事。

南井の辛い過去を話して貰えた時、何故か妙な感じがした事。

今日、霊園で南井と陽司が顔を合わせ、その遣り取りを見た時、その妙な違和感の正体がわかった気がした事。

そして、村上と陽司の親子関係を知ってしまった南井が、村上と離れる事を考えているような気がしてならない事も。


「知っていたら、絶対に父さんに会わせたりなんかしなかったのに。」

そう言った村上の顔には苦悩が色濃く現れている。
祖父母は顔を見合わせて、困ったように村上を見た。

「私達のせいだ。
私達が、お前にきちんと親である2人のしでかした事を話しておかなかったから。」

「南井さんがそうなってしまったのは、美波の責任でもあるものね。」

祖母は少し目を赤くしながら言う。
それを待っていたように村上は2人に言った。


「そう思うのなら、隠さず全てを話して欲しい。
脚色も感情も要らない。
起きた事実だけを、ありのまま聞かせて欲しい。

何も知らないままじゃあの人を説得できないし、二度と隣にも立てない。」

村上は2人に頭を下げ、祖父母は頷いた。


そして、全てを聞き終えた時、村上は泣いた。

"運命の番"によって幸せになっている人間が、一人もいないという事実に、打ちのめされたからだ。
南井もそうだが、母の番になる筈だった恋人も気の毒だ。死んでから後追いのような事をされたって、何の意味があるのか。

運命の番だから、を免罪符にして、傷つけた人達に向き合うのを避けて謝罪ひとつしなかったなんて、いくら何でも傲慢過ぎる。

そして、そんな両親の間に産まれた自分が、今度は父の番であった南井の運命の番であるというのはどういった皮肉なのだろうか。


母への気持ちは、もう真っ直ぐに慕うものではなくなってしまった。

父への感情は、言わずもがな。呆れ果てて、もう言葉も無い。
元々掴み所の無い人ではあると思ってはいたが…。

母の言っていた、『運命だったからよ。』は、村上の思っていたようなキラキラしたものではなく、運命だから仕方なく、だったのではと思い始めている。

母は、寂しげな笑い方しかしない人だった。
何故なのか。    


運命の番だったという父と母は、本当に幸せだったのだろうか。

その答えを知りたいと思った。




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