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諦める気が更々無い篠井
しおりを挟む油断した。
篠井の俺への執着を甘く見ていた。
篠井に別れを告げて3日。
会社から帰って部屋のドアに鍵を差し込んだ瞬間、後ろから口を押さえられ部屋に押し込まれた。
俺の住んでるマンションは二階建てだが、マンションとは名ばかりのまあ…アパートだ。
オートロックなんて洒落たシステムなんぞ付いてない。
従って、廊下や部屋の前なんか、その気になれば侵入し放題。それもあってか住人は男以外見た事が無い。
けれど、別に周辺環境や治安が悪い訳でもないし、中学迄は空手もやっててなよっちい訳でもないから、普通に住んでた。
だって安いし会社にも片道30分圏内で近いし。
それにまさか、俺みたいな若い男を狙って強盗を働くとも思えないよなあ、なんて。
舐めていた。
真っ暗な部屋に押し込まれて電気もつけられない。
口を押さえる大きな手のひらの匂いに覚えがあった。
つい最近迄、この手に抱かれてたんだから嫌でもわかる。
だから手のひらを舐めてやったら、びっくりして離れる手。
その隙に手探りで電気のスイッチを入れる。
「やっぱお前かよ…。」
そこにいたのは目を真っ赤にした篠井だった。
「別れたよな。」
「俺は嫌だ。」
「お前に拒否権、無いよな?」
「……。」
俺は呆れて溜息を吐いた。
「お前は変われねえだろ。」
高校の頃も、今回も、篠井は同じ事をした。
「好きに遊びたいならフリーでいろよ。めんどくせぇな。」
篠井を部屋から出そうと肩を掴んで押すが、全く動かない。
チッ、と舌打ちが出た。
これだからデカい奴は…。
血走った目で俺を見つめ続けるだけの篠井にもいい加減気味が悪い。
「出てけってば…」
「凛くんはさ、」
急に篠井が口を開いた。
しかも結構デカい声で、焦る。
ここ壁薄いんだからそんなデカい声出すなよ、って、俺だってセックスの時にも気をつけてたのにお前。
「声落とせ。」
俺の注意が聞こえないかのように、篠井は続ける。
「凛くんは、俺を好きになってくれなかったよね。
昔も今も。何度セックスしても。」
「声落とせってば!!」
両隣に聞こえるだろ、馬鹿。
流石に焦って篠井の口を押さえにかかろうとして、手首を掴まれる。
下腹に篠井の股間が押し付けられてギクッとする。
篠井は勃起していた。
腰に篠井の腕が回り、逃げられないように固定される。
「凛くんは、酷い。」
「な、何が…」
「確かに俺が頼み込んで付き合ってもらった。
けど、だからって1ミリも好きになってくれないなんて。
女の子との浮気は責めるくせに、好きな気持ちはくれないなんて。」
「…自分のやった事を正当化するつもりか?俺が愛さないせいだって?
馬鹿らしい。」
吐き捨てるように言うと、篠井は俺の顎を掴み、自分の方を向かせて言った。
「そうじゃないよ。
なんで伝わらないのかなあ…。
凛くんが全部くれたら、俺は余所見する余裕なんて無くなるのに、凛くんはずっとずっと高いとこにいて、俺を見下ろしてばっかりで降りて来てくんない。」
「…何だよ、それ。」
篠井の目は真っ暗だ。
何時もわかり過ぎる程に感情が読み取れるその瞳に、今は何一つ浮かぶものが無い。
深淵だ。
「だから、俺、考えたんだ。
そしたらわかったんだよ。
俺が凛くんを引き摺り下ろせば良いんだよね。」
「篠…」
「俺んとこ迄、来てよ…俺のそばに、来て…。」
不味い、と思った。
思ったけど、間に合わなかつた。
俺は何かで猿轡を噛まされ、目隠しをされて鳩尾に強烈なのを食らって…。
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