男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

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22 天然のあざとさもある

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連休に入る前迄に何とか成果を上げ、俺は晴れやかな気持ちで莉乃と旅行用のキャリーに荷物を詰めていた。

温泉…温泉かあ…。何年振りだろう。
大学の頃に仲間数人と泊まりに行った以来か。
社会人になってからは、社畜気味だったせいか遠出する事もあまりなくなって、カノジョがいても近場デートで茶を濁していた。
莉乃が産まれてからは、赤ん坊を抱えて出掛けるなんて苦行は考えられなくて この間の猫ランに行ったのが久々のテーマパークだったのだ。


とはいえ荷物と言っても、俺のは服や下着を数枚くらい。
莉乃の方がお気に入りの服を、着ていくものと着替えに持って行くもので悩んでいて、髪飾りもポーチにどれを入れて持って行くか迷っているようだ。
幼くても女の子だなあと思う。
こんな俺の腹からあんなおませな可愛らしい女の子が出てきたという事がもう不思議だ。親の欲目ではなく、客観的に見ても莉乃の顔立ちは優れていると思う。


(…半分は真田の遺伝子だから、可愛くて当たり前か。)


真っ直ぐな黒髪に、気の強そうな大きな黒い瞳。

見る者に少しキツい印象を与える、整った容姿は俺というより父親似なのだ。
こうして莉乃をまじまじと見ていると、本当に真田の特徴だらけなのに何故気づかなかったんだろう。
最初から有り得ない、と除外して、心に目隠しをしていたんだろうか。

あの頃の俺は、それだけ真田を信じていた。疑うなんて考えもしなかった…。

真田に再会しなければ、きっと莉乃の父親が誰かなんて、ずっと気づく事はなかっただろう。

知ってしまった以上、将来的に莉乃が知りたいと言った時には真田の存在を知らさなければならないだろうとは思う。

でも、それは未だ先の話だ。

その時、莉乃は真田に会う選択をするのだろうか。
それは本人の意思に任せるしかないだろう。



「パパ、きめた。いれてー。」

何時の間にか莉乃は、持っていく服も選んだらしい。

「はいよー。え、ピンクじゃなくて良いの?」

莉乃が着て行くのも持って行くのも、オレンジのパーカーに黒のスカートパンツ、白のトップスに淡いブルーのサロペット、後はうさぎのパジャマ。

「……これ、普通に公園行く時のじゃない?
お姫様ワンピじゃなくて良いの?」

と聞くと、

「そんなのきていったらあそべないでしょ~。」

と、呆れたように言われた。

…そりゃそうかもしれないが…。

「どうぶつえんにいくんでしょ~。」

「あ、そっか。温泉ばっかり覚えてたわ。」

うっかりだ。
子供達を動物園に連れて行こうという話が、最後に温泉を出されたからそっちばっか記憶にあった。
そりゃドレスみたいなワンピは適さないよな。
子供の方がよくわかってる。

恋人と温泉、とか浮かれ過ぎだろう…。
別に一緒に入ろうなんて約束した訳でもなし。

…恋人…。

いきなり恥ずかしくなる。


「あ、明日早いから今夜は早めにお風呂入って寝ような!!」

「そだね。」

訝しむ莉乃の目が痛い。

俺は荷物を詰めたキャリーを2つ、玄関に移動させて、湯を貯めに風呂場へ向かった。





翌朝、迎えに来たのはお馴染みの千道の車だったが、後部座席に乗り込むと嵐くんは乗っていなかった。
由人さんの専用車で一足先に向かったのだという。
何となく寂しげな千道。


「莉乃ちゃんには向こうで会えるからと。
すっかり義兄に甘えっ放しで。」

「無理も無いですね。
あの歳でずっとパパママと離れて暮らしてたんだし。」

「あんなに俺にべったりだったのにな。
やっぱ親には敵わないんですかね。」

「千道は頑張ってたよ。」

そんな話をしていて、千道がふと、俺を見た。

「咲太さん、お願いがあるんですけど。」

えらく真面目な顔をしている。どうしたんだ。
俺、何かしたっけ。


「何かな。」

「名城って呼んで欲しいです。あと、…時々残ってる敬語も、よそよそしいからもう辞めて欲しい。」

それは俺も引っかかっていた事だった。
千道千道と呼んでいたけれど、千道家は嵐くんも由人さんもお兄さんも叔父さんも全員千道だしややこしい。

「…わかった。名城。」


俺が名前を呼ぶと、千道…、名城は嬉しそうに笑った。


運転手をしてくれている千道の叔父さんとバックミラー越しに目が合い、微笑ましいとでもいうようににっこりされて、俺は赤面した。




高速を2時間程走って着いた高原に、千道家の別荘はあった。
別荘?いや別荘というより既にちょっとした城かホテルでは。
想像していた規模と違った。
年一で、来るかこないかの所にこれだけの建物。
千道家って何人家族?という感じだ。保養所かな?

建物の外観だけでも圧倒されるのに、中を案内してくれながら名城が説明してくれた事に、セレブとの価値観の開きに呆然とする。


「父も最初はプライベートホテルとして運営しようかと思ったらしいんですけど、祖母が気に入っちゃったので、関係者以外は入れない事にしたらしいんです。」

「やっぱりそうなんだ。だろうなあ、デカすぎるもん。」

「部屋だけは広いのでお好きなように寛いで下さいね。
食事は部屋に運ばせますから。」

「ありがとう。」


通された部屋はやはり広くてちょっと気が遠くなった。

「嵐達の部屋とシッターさんの部屋は上なので、温泉行く時は莉乃ちゃんを見ててくれますから。」

そう言って、ではこれで、と出て行こうとする名城の袖を引いて呼び止める。


「いや、あの…名城の部屋、は?
一緒に温泉、入らない…のか?」

あまりに名城が何も言わないから焦って聞いたのに、名城は俺の言葉に目を見開いて 口をパクパクした後、

「…隣、なんで…着替えてから…後で、来ますね…。」

と言い、耳を赤くしてフラフラしながら出て行った。

何だ、隣か。良かった。

それにしても…今頃車酔いだろうか。
大丈夫かな。





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