男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

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9 執着の理由とは

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真田 雄大
 
さなだ たけひろ…

雄大…。そうだったな。そんな名前だった。


連絡先に入れられた電話番号の数字の並びには確かに懐かしさがある。
そうだな。余程のトラブルとか不都合が無い限り、番号を変更なんかしないもんな。

スマホの液晶に表示された名前と数字を見ていると、嫌でもあの頃に引き戻されてしまう感覚があった。
それはあの夜の忌まわしい記憶とも紐付けされている。

あの夜、直前迄一緒にいたのが真田だからだ。

だから、思い出したくなかった。


再会した真田に、俺が感じた違和感と恐怖。
気づいてはならないような、気づかなければならないような、もどかしい気持ちが胸の中でせめぎ合っている。


でも、これだけははっきりわかる。

今日、真田は俺に 欲情していた。








「おはようございます、良い天気ですね!」

「おはようございます。
土曜日はありがとうございました。」

週明けの月曜日の朝、相変わらず爽やかな夏空のような笑顔で千道は俺を待っていた。

莉乃を保育士に託して、踵を返すと そこにニコニコと立っている綺羅綺羅しい男。
相変わらず人の目を潰しにかかっている。

自然、しょうがないなと笑みが漏れて、それを見た千道は少し驚いたような顔をして、直ぐに嬉しそうに笑った。
けれど、今度は心配そうに、

「大丈夫ですか?昨日は1日、ゆっくりされてました?」

と俺の顔色チェックを始める千道。
至近距離に寄られると、本当に綺麗な顔立ちだと思う。
男らしいのに柔和さを感じるし、何より瞳の色が綺麗だ。

陽の光を反射して金に光る琥珀色の瞳。

そんな澄んだ綺麗なものに、俺みたいなのを映さないで欲しい。
汚れた自分が恥ずかしくなる。

俺の肩に手を掛けかけて、戸惑うように引っ込める千道。
気にしてるなあ。まあ俺がさせたんだけど。

「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」

俺は礼を言いながら、肩からかけていたエコバッグからある物を出して、千道に差し出した。

「これ、お礼にもなりませんけど…昨日、莉乃と作ったんで、良かったら後で嵐くんと。」

梨乃が百均で選んだ、キャラクター柄の空色の袋に赤いリボンでラッピングされた小さな包み。
中は猫ランのメインキャラクターの1匹、マニャンちゃんの形をしたクッキーである。

セレブな成人男性である千道が喜ぶかは微妙だけど、少なくとも嵐くんは喜ぶ筈だし、何よりこういうのは気持ちだからさ…。

千道は、へ?とその袋を見ていたが、見る間に破顔した。

「ありがとうございます!
良いんですか?!
咲太さんの手作り…っ、」

恐る恐るといった感じで両手で恭しく受け取り、少し開けて中を見て、ふわっと笑った。

「嬉しいです、嵐もすっごく喜びます!」

そんな、大切なものをそっと胸に抱くように持たれると此方が照れる。
あの…それ、只のクッキーなんでね…?それも、俺は料理がそこ迄上手い訳じゃないし、莉乃は3歳児だし、仕上がりは知れてる。
なるたけ綺麗な形のものを選んでよけておいて、歪なのは俺と莉乃が、ブッサイクだねぇと笑いながら食べた…、
そんな感じのクッキーです。

社交辞令でも、そこ迄喜んでもらうと気が引けるな~…。

「千道さん達みたいな人達のお口に合うかは保証できないですけど…。」

と、過剰な期待のハードルを下げる為に言ったが、千道はもう聞いちゃいなかった。

「美味しいに決まってますんで、毎日1/4枚ずつ大切にいただきますね!」

「よ、4分の1…?」


俺はどうやら、千道の俺への本気度を舐めていたのかもしれん…。



今日は午前中、通院の日なので、そこ迄急がない。
それを告げると、病院迄送ると言われて車へ誘われた。
恐縮する俺に千道は、少しお話もありまして、と言う。

断る理由も無かったので、後部座席に乗り込むと、今日は千道も後部座席に乗ってくる。
話の内容が、何となくわかった。



「あの時会った後輩の方…、」

車が走り出して少し経ってから、千道が、言い難そうにしながらそう口にした。

真田の事だ。


「俺がこんな事言って、気を悪くなさらないでほしいんですけど、」

「はい。」

「少し、気をつけられた方が良いかもしれません。」

「……はい。」

千道はα。真田も、αだと言っていた。
同じバース性同士、何か感じるものでもあったのだろうか。

「何故、そう思われました?」

口調と声から俺が気を悪くして言っている訳ではないとわかったらしい千道は、ホッとしたような表情で、それでも慎重に言葉を選びながら答えた。

「…咲太さんを好きな俺がこう言うのも何なんですが、
彼には凄く…咲太さんへの執着を感じます。」

「執着、ですか?」

一緒にいた間、そんなものを感じた事は無かったんだが…。
俺は首を捻った。

でも、千道の言う事も、安易に否定できないなと思うのは、昨日の真田の言葉の数々に引っかかっているからだ。

千道は言う。

「俺達は…αは、この人だと決めたΩには酷く執着します。勿論、俺も。」

「…そのようですね。」

そう相槌を打つと、バツが悪そうに苦笑する千道。
心当たりありまくりだろうしな。

「個人によりますが、独占欲が通常より強いのは確かです。
Ωを見ると、庇護欲を掻き立てられ、愛しいと思ったり。それだけなら問題は無いんですが、性欲の方を優先しがちな連中もいます。」

「千道さんみたいに紳士的な人ばかりではないって事ですね。」

紳士的と言うと、千道はまた苦笑した。

「俺も、一皮剥けば同じですよ。αですから。」

「でも、俺の嫌がる事はしないでいてくれます。」

「…嫌われたくないだけです。貴方が好きなので。」

「…そうなんですか。」

日頃から好意はだだ漏れだったけど、これだけハッキリ何度も言われると、流石に少し照れてくるな…。

「でも、彼は…」

千道はあの時見た真田を思い返すようにしながら言う。


「あれは、番一歩手前の執着心のような気がします。

…彼と、何かありましたか?

αがあんな執着のしかたをするのは、ある程度自分のものにしたと確信している時だと思います。」

「…そんな…事は…。」

「咲太さんは気づかなかったと思いますが、彼は俺にずっと殺気を向けていました。
視線が俺に向いてない時でも。

何か咲太さんに固執している理由が、必ずあると思います。」

「……理由?」


ある程度、自分のものにした…確信…。



朧気に胸の中にある疑惑が、形を成していくように感じた。
 




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