男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

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7 再会、真田。

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振り返る俺の目に映ったのは、予想通り以前の会社で結構仲良くしていた後輩、真田だった。
その横には若い女性。
腕を組んでいるから、彼女か奥さんどちらかではあるんだろうに、真田はそれを振りほどいて俺に駆け寄ってきた。

ぞわ、と例の鳥肌が来てヤバいと思った時、俺の前に千道がすっと立ちはだかった。
真田はあからさまにムッとしながら千道に向かい、

「何なんだ、アンタ?」

と言う。
上背のあるイケメン2人が睨み合う図は、周囲に畏怖を与えてしまいそうで俺は慌てた。

千道は俺の事情を知ってガードしてくれているだけだが、真田としては面白くないだろう。
だって真田からすれば、只 俺という知り合いを見つけて駆け寄ろうとしただけなのだ。俺が会社を辞める少し前から真田は本社勤務になって、最後は顔を合わせる機会もなかった。
スマホに連絡が入っていたのも知っていたが、誰とも話せる精神状態ではなかった俺は、元カノで友人になった真由以外の人間関係全てを捨ててしまっていたのだ。
Ωとして生きる踏ん切りをつける為には、そうするしかなかった。
悪いとは思いつつも、以前の俺を知る人、特に男性達とは、普通に接する事が出来なくなったし、失望させるだけだろうから。


以前、真田とは何となくウマが合い、同僚達との付き合い以上に仲良くしていた。
一緒に飯を食ったり、飲みに行ったり。
あの日、飲みに行ってたのもコイツと一緒だった。
きっと心配してくれていたんだろうと思う。
けれど、近寄ってくる彼に俺はやはり拒否反応が出てしまうのを感じたし、正直千道の行動には 助かったと感じた。
だが、千道を真田に悪く思わせたままではいられない。どう説明したものか。

梨乃と嵐くんは手を繋いできょとんと俺達を見上げているし、長引かせて2人の楽しみを奪う訳にもいかない。

「千道さん。」

俺は千道の肩を少しつついてみた。
うん、大丈夫。今の所、不思議と嫌悪感は出ない。
そんな自分に少し驚く。

「会社勤めしてた時の後輩なんです。」

そう言えば、千道は俺と真田を交互に見ながら小声で俺に問う。

「お知り合いだと言うのはわかりましたが、その…大丈夫ですか?」

壁になった自分が外れて大丈夫か、と言う事だろう。
いや待って。それはちょっと待って。

「真田、ごめん。
今からこの人には退いてもらうけど、訳あって俺に触れないで欲しい。理由はちゃんと話すから。」

千道の腕越しにそう言うと、真田は腑に落ちないという感じではいたが、わかりましたと頷いた。

千道がゆっくりと退いて、数年振りに正面から真田を見た時、何故か誰かの面差しを感じた。
真田と会っていない間に出会った誰かだろうか。思い出せない。
それにしても、相変わらず男前だ。

「千道さん、少し子供達をお願いします。」

「…わかりました。近くにいますから。」

千道は莉乃と嵐くんの手を引いて、少し離れたベンチに座った。
でも長く待たせる事は出来ない。
真田は一緒に来ていた女性に何か言いに行き、彼女は不貞腐れたように何処かへ行った。
後で落ち合うのかな。
俺のせいでは無い筈なのに、何だか悪い事をした気になるのは何故だ。


「先輩、何故急に居なくなったんですか。連絡が取れなくなったから部屋にも行ったんですよ。
引っ越したって聞いて、本当にびっくりしたんですからね。」

只でさえ鋭い目を眇めて、俺を責めるように見るから、知らずびくりと身が縮こまってしまう。
知らない人じゃない。
あんなに仲が良かった相手に対してすら、こんな情けない反応しか出来ない自分にうんざりする。
もうほんとにいい加減にしたい。

「…先輩?」

俺の様子に何かしらを感じたのか、真田が言葉を止めて気遣わしげに目元を緩めた。
息をちゃんとしろ、と俺は呼吸を整えて平静を保つ為に小さく深呼吸をした。

「…悪かった。
ちょっと…事故みたいなもんに巻き込まれて、会社勤めは出来なくなったんだ。」

やはり、本当の事は言えなかった。
身内でもない、親しかっただけの後輩に俺の事情を聞かせるのは重過ぎる。
聞かされた側も、コメントに困るだろうし。

「事故、ですか。」

釈然としない表情の真田。
そりゃそうだろうな。わかんねーよな。

「…まあ、体を壊したと思ってくれたら良い。」

実際、当たらずとも遠からずってとこだし。

真田は少し離れた所に座っている千道と莉乃、嵐くんの3人に目をやり、

「あの人達は…?」

と聞いてきて、流石に莉乃の事を誤魔化すのは莉乃の存在を冒涜するようで気が引けた。
真田を信じて、正直に言うしかないか。

「女の子は…俺の子だ。」

そう言うと、形の良い切れ長の目が見開かれた。

「…ご結婚、されたんです、か?」

「…いや、してない。」

答えると、真田が息を吐いた。

「そうですか。良かった。」

「良かった??」

「いえ、深い意味は無いです。」

真田はそう言って少し微笑んだが、今度は不思議そうな顔で聞いてきた。


「じゃあ、あの子は…?別れたカノジョさんが産んだのを引き取ったとか、そういう事ですか?」


来た~。そうだよな。普通そう来るよな。
…どうしよう。やっぱ言わなきゃならないだろうか。
俺は迷った。

「……いや、違う。」


「…先輩が産んだんですか?」

突然、思ってもみなかった言葉が来て 俺はぎくりとした。
真田を見ると、彼はもう笑ってはいなかった。

その黒い瞳に見据えられると、えも言われぬ何かしらが足から這い上がってくる感覚に見舞われた。
喉が、カラカラに乾く。
何処からか独特の鼻をつく匂いがして、鼻を押さえた。

何処か覚えがあるような…これは、何だ。


「やっぱりそうなんですね。」


真田の唇が、吊り上がる。




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