他人の番を欲しがるな

Q.➽

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その後 ① 佐田 慶一 (※微R18描写あり)

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やっと会えた俺のミューズ!!

…と思ったな。
それくらい輝いてた。

バイトしてたカフェ。
午後の気怠い空気に誘われるようにして入ってきた男。

一人客なんて珍しくない。

だけど、食器を洗浄していて横目に見ただけのその姿に目が釘付けになるなんて事は珍しい。

オーダーの為にカウンターに来たその男を間近で見る為に、近場にいたスタッフより先に、手袋を外しレジに立った。
メニュー表を見上げて悩みながら結局、オリジナルブレンドと言われた時は少し面白かったが、決済の為に俯いてスマホをタップする伏し目の美しさに、もう何年も感動を忘れていた心臓が突然脈打ち始めた。

待ち合わせなのか、通りに面した窓辺の席に座った彼は、緩い陽射しに髪を透かせて、白皙の美青年ってこういう奴の事を言うのか、と思った。
古今東西、色んな絵画や宗教画に描かれた人間達や人ならざるものを見てきたけれど、生身のこれだけ美しい人間を、今でも俺は見た事がない。
 
そのきめ細かい陶器のような肌には化粧っ気は全く無く、眉は自然な毛流れの整った形。
全体の色素が薄いのか、白地に柔らかい色合いをのせたその様子は繊細さを感じさせて心が震えた。

彼を描きたい。
天使のようなと言うにはあまりに人の心の奥を揺さぶり過ぎる、この美しさを。

席に掛けた彼を思わず追って、自分の連絡先を書いた紙を渡した。
連絡先を教えて、ではなく連絡を欲しいと言ったのは、今となっては何故だったのかわからない。少しでも怪しまれたくなかった心理だったのかも。
不思議そうな顔をして、でも彼は断らなかったし、何なら少し笑って その場で俺の番号を押してくれた。

俺と彼の縁はそこから。


バースがどうのじゃなく、純粋に綺麗な人間だったよ、彼…埜田 暁って男は。







「…ぉねが…も、むり、む……ぁあ…」

「…く、」

中に注いでやった。
舌足らずになってきていた抵抗は、射精される瞬間には諦めに変わった。
諦め、より、やっと終わったかもという安堵か。

昨晩から半日は抱いてるから、流石に休憩が必要なのかも知れない。


「よしよし、よく頑張ったな、偉いぞ。」
 
深く挿入る為に後ろから突いていたから、ぐったりと力の抜けた背中に汗が伝うさまがよく見える。
流れ落ちそうなその雫を舐め上げると暁の背がびくりと反った。

「ぁあ…ッ」

全身のあらゆる場所が性感帯になっているだろうから、今のはかなりキたんだろう。
暁は肩越しに力無く俺を睨みつけてきた。

「お前な…いい加減にしてくれよ…。俺の体力の方が先に尽きるわ…。」

その声に何時もの通りの良さは無く、嗄れている。

「仕方ないだろ。暁が俺を絞ってくるんだから。」

「んな訳あるか…。

頼むから休ませて。
腹ん中がパンパンなんだよ、お前ので。」

ゴクリ、と喉が鳴る。
コイツはずっと抱く側だった癖に、どういう仕草や言葉に俺達(α)が煽られるのか、忘れてしまったんだろうか。

挿入りっぱなしだったペニスが、また力を取り戻してくるのがわかる。それは勿論、挿入されている暁にだって…。


「おま、何また硬くしてんの…もうヤだって…、ヤだ、抜き差ししないでってば…!」

最後は悲鳴に近かった。

それはそうだと思う。

プロポーズしたその晩から約1ヶ月、暁の部屋に送り狼になった俺は、毎晩 暁を抱いている。
翌日の仕事の予定にあわせて平日は抑え目にしているけれど、翌日も翌々日も休みになる金曜の夜は、拒否する間も与えない。

恋愛にも友情にも不信感を持ち慣れてしまった暁の心を懐柔するには、逃げる隙も無いくらいに愛を注ぐしかないだろう。信じると言わせる迄、いくらでも。


体を傷つけたい訳じゃないから、潤滑剤は大量に買い込んで臨んで、何時も最初は入念に解す。
指で擦り、舌で舐めふやかし、柔らかくなったそこへ舌先を差し入れて味わって、吸って。びくびく震える白い双丘が愛おしい。
アナルを愛撫しながら指を伸ばして小さな胸の突起を弄ると、押し殺していた声を、耐えられないって風に洩らす。
それがまた、そそる。

強がりな俺の王子様。

お前のどこもかしこも、愛おしく、甘い。





暁はαだ。
そしてそれは俺も同じ。
α同士は体の関係は持てても、番にはなれない。
そう思っていた。

その概念が覆されたのは、歳の近い叔父の親友が、αを番にしたと聞いたからだ。
正しくは、元α。

やはり高校からのα同士のカップルだったらしいのだが、番にはなれないのが切なくて切なくて、けれど諦められず離れられず、周囲の反対を押し切って駆け落ちした。
何方も名のある家の惣領息子だったものだから、相当捜したらしいが見つからず、ところが最近になり2人が戻って来た時には片方の腹が膨れていた。

検査の結果、何とその片方はαからΩに変異して、妊娠していた。
稀に起こる事なのだという。
抱いているαの執念なのか、それとも、抱かれているαの切望か…。

『愛の奇跡ってあるんだなあ。』

叔父はそんなロマンチストじみた事を言っていたが、俺はその話に一縷の望みを見出した。
叔父に頼み込んで、現在では番になったそのカップルに会わせてもらい話を聞いた。

そして医師になった友人にも他言しないからと聞いてみたところ…。


あるらしい。

αやβがΩに変異すると、俗に Ω堕ち、とあまり良くないような言い方をされるらしいが、パートナーの為にそれを望む者も少なからずいるのだ。

俺は考えた。

俺と暁の関係性として、どうしたって俺の気持ちの方が圧倒的に強い。
だから、暁に俺をヤりまくってくれと言ったってドン引きされて疎遠にされて終わる気がする。
俺は暁の為ならΩになっても構わないが、暁にその気が無いんだから、やはり俺がやるしかない。
暁を愛している事を、時間をかけてその体に埋め込んで染み込ませて信じさせるしか。
そうすれば、俺の愛がお前だけに一途だと確信したら、きっと引き摺られてくれるだろ?

優しい暁は。


その為にいくらでもお前の奥の奥を叩いて突いてこじ開けてやる。




原則としてαという種は、そういう自分本位な生き物なのだ。




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