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ユーリが新たに追加してきたきっついストレッチやスパルタ食事管理のお陰なのか、4日後の第4回目の連載迄に、俺の体重は1キロ減った。

1キロ。

たかが1キロ。されど1キロ。
誤差の範囲じゃね?という人もいるかもしれないが、輪郭は確かに少し変わるんだよ。気の所為とか言うな。



「よしよし、浮腫み取れてきたね。」

「えっ、俺って浮腫んでたの?」

「自覚無かったんだね…。流石、7キロものリバウンドに気づかなかっただけある。」

「ぐっ…。」

「この調子でがんばろうね!」

楽屋で、ヘルスメーターに乗った俺の腹回りをメジャーで計りながら言うユーリ。
俯いた顔、神がかって美人。
少し長めの黒い前髪がサラッと目や頬にかかって色っぽい。猫の目みたいに目尻が上がった、気の強そうな大きな黒い瞳。でもそれが伏せられて長い睫毛が被さると、途端にそれ迄の険が消えて、息を飲んじゃうくらいの儚げ美人になる。
気の強さを助長してる、形は良いけど目と同じで吊り上がり気味の眉をどうにかしたら、途端に優しい顔になりそうなんだけど、本人にそれを言ったら、

「前にメイクさんにそれされた後、危うくNTRものの主役にされそうになったから嫌だ。」

と言われた。なるほど。寝盗られは…話によるよな。浮気攻めから略奪してくれる抱擁攻めとかが相手役ならめっちゃハピエンになりそうだけど…。

「話がどうとかの問題じゃなくて、責任背負うのが嫌なの。」

「ブレねえ~。」

俺は自分の頑張り次第で結果が違って来るって、やり甲斐あるよなあって思うタイプだから、できれば主役取っていきたいけど…こればかりはキャラの性格とか考え方だからなぁ。

「それなら尚の事、今回で結果残さないとね。一旦ケチがついたら来るもんも来なくなるよ。」

「…がんばる。」

ユーリはたまに厳しいけど、言ってる事は正解だ。それに、他人に言うだけじゃなくて、自己管理もきっちりしてる。マジ尊敬。

そんな感じで話してたら、コンコンとドアを叩く音がした。

「はーい。ドーゾ。」

「あっ、ちょ、」

反射で答えてしまった俺に慌てるユーリ。あ、そうだった。体重計る為にパンイチになってたんだった…。

「失…ああ、…フッ。」

ドアを開けたのは藍咲さんだった。今日から本格的に接触する描写が出てくるから挨拶に来てくれたのか。開始前に俺から行こうかと思ってたのに悪い事しちゃったな、と思ったんだけど、…なんか今、鼻で笑われなかった?

「失礼。取り込み中でしたか?」

取り込み中って思った割りにはそのまま入ってくる長身美男子。何時見ても足、なっが。
藍咲さんは俺の横でメジャーを片付けながら会釈するユーリに会釈を返して、それから俺に視線を向けた。切れ長の冷たそうな目に見られて一瞬身が竦む。は、迫力…。

藍咲さんには、これが王道攻めだと言わんばかりの帝王感がある。これだけの人なら男女恋愛ジャンルでも相当のポジション確立してそうなのに、何でBLになんて来たんだろ。もの好きだな~。

俺は、近づいて来る藍咲さんを見ながら、やっぱり前と同じ事を思った。

「繭原さん。」

ボケッと見蕩れている内に目の前迄来ていた藍咲さんの低い声で名前を呼ばれて、ビクッと肩が跳ねてしまった。

「は、はいっ?!」

「本日はよろしくお願いします。これ、ウチの近所の店のなんですけど、美味いって評判なので…よろしかったら。」

極上ボイスでそう言いながら持っていた紙袋の持ち手を俺に手渡してくる超絶イケメン。イケメンって言葉が軽過ぎる気がするくらい、美形…。それに、すんごく良い匂い。センシュアルな香りってこういう事?
でも何で、袋の紐を受け取った俺の手を両手で包み込んでるの?

「…ありがとう、ございます??」

「どういたしまして。」

礼を言うと、にこっ、と微笑んだ藍咲さんに思わず赤面してしまう。ちら、と意味ありげに横のユーリを見る藍咲さん。

「…あ、っと~…僕も着替えがあるんだった。
じゃ、また後でね~、マユ。」

藍咲さんの事が何故か苦手らしいユーリが、そそくさと逃げるように部屋を出ていく。

え、ちょっと? 何で?この状況で出てくの?嘘だろ?
パンイチの俺を置いて?
めちゃくちゃ気不味いんですけど?

ユーリが出て行くのを呆然と見送って、藍咲さんに視線を戻す。なんと、彼は俺から目を離していなかった。ヒェ…何?

「あの、藍咲さん、手を…。」

「ああ、失礼。」

やっと手を解放されてホッとする俺。

「こ、これ何かな~?その前にちょっと服を着ちゃいますね。」

俺は袋をテーブルに置いて、ソファの背に掛けていた服をいそいそ着始める。
と、取り敢えずズボン…。

藍咲さんに背を向けて、ズボンに足を通してウエストのホックを留めた。何か背面が視線でチクチクする気がする。まさかずっと見てるんじゃないだろうな…?

急いで着ちゃおう、とシャツを手に取った時、いきなり後ろから腰を掴まれた。

「ひゃっ!?」

藍咲さんだ。

「ちょっと細過ぎませんか?」

とか言いながら、俺のウエスト周りを確認するように触り出す。

「え、ちょ…」

突然の出来事に頭が回らない俺、腹迄触ってくる藍咲さん。え、これってセクハラ?何らかの計測?痩せ過ぎって何?太ったからダイエットしてるんですけど…。

「…いや、でも、」

「でも良い体付きです。
…もう少し、肉感的だと尚良いですけど。」

「は、はぁ…に?」

困惑していると背中から藍咲さんが離れたので、急いで振り向いた。
藍咲さんは悪びれる様子もない。ん?俺の考え過ぎ?

「あんまり急激なダイエットは体に悪いですよ。
ソレ、召し上がって下さいね。」

袋を指して、じゃあまた後ほど、と部屋を出て行こうとする藍咲さん。が、出口手前でまた戻ってきて、頬を掠めるようにして耳元に唇を寄せられた。

「これから末永く、よろしくお願いしますね。」

腰が蕩かされてしまいそうな、艶めかしい低音。

「よ、よろしく…お願いします…。」


藍咲さんが去って、俺はへなへなと床にへたり込んだ。

な、何だあの人…。末永くって、話数は予定通りでも20話ですけど?



因みにいただいた差し入れは、サクサク軽い食感で何時の間にか思ってた以上に食べてしまう、超美味いダックワーズだった。
つい、ユーリに黙って2個食べちゃって叱られた。







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