知りたくないから

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話しておかなければならない事…。

最初に誰かに抱かれた後に、犯人探しのような真似が出来ず、かといってあの快感が忘れられず、それを与えてくれる男を求めて男漁りを繰り返していた事。
あの場にいた友人の誰かが介抱してくれてからの流れだったんだろうとは思っていた。
けれど、特定してしまえばその人間との友人関係が終わる。そう考えると、突き詰める勇気が出なかった。知るのが怖かったというのもある。
けれどその度に、『やっと抱けた。』と呟いた、朧気なあの声を思い出した。
やっと、という言い方なら、嫌われているよりは好かれているという事だろうか、とも思ったりもした。
あんな快感を体に植え付けておいて知らんぷりしている誰かが憎らしくなった事もある。行きずりの相手がド下手くそだった時などは、特に。

とまあ、そんな事を包み隠さず話してしまうと、伊坂は頭痛に襲われたようなポーズで頭を押さえていた。

時永は何だか申し訳なく思ったが、そもそもの原因は伊坂にある。
時永はその夜迄、男とのセックスなんか知らなかったのだから。


「…そんなに…知らない奴と?」

「うん、毎週末。」

「……。」

流石の伊坂も呆れたか。
そんなビッチは手に負えないか。
まあお前がさっさと名乗り出てくれてたら俺もそんな事してあの快楽よもう一度、なんてハッテン場通いをせずに済んだんだけどな?と、非難混じりの視線を送る時永。

「俺、汚れちゃってるけど良いかしら?」

と、クソ真面目な顔でおどけて言ってみたのは、伊坂の反応が不安だったからだ。
他の男達のお手つきになった時永を見る目が変わってしまうのではないかと。
時永だって、もしも元カノが知らない所で男をとっかえひっかえしてるなんて聞いたら、ドン引いていた。
知った後にも付き合えるか、なんて聞かれたら、多分NOだ。時永にそれを許せる器の広さは無い。

「…すまない。」

やっと発せられた伊坂の言葉に、やっぱりなと時永は苦笑した。そりゃそうだ、と思う。いくら伊坂でも…

「そんな風にさせてしまっていたなんて…。
これからは責任持って、一生俺がお前をイカせる。」

「……ん?なんて?」

「怖がらずに朝迄居たら良かった。それで告白してしまえば、こんな遠回りせずに済んだよな。ごめん。俺の落ち度だ。」

伊坂は悲痛な表情でそう言って唇を噛み締めた。
思っていたのとは違う方向に話が進んで時永は困惑を隠せない。しかし、言っている事は尤もだ。 
時永だって、さっさと言っといて欲しかったと考えていた訳で…。
いやそれにしても責任持って一生イカせるってどういう流れだ。
最初の『すまない』が紛らわしい。…いや、じゃない、そんなビッチになってたなんて幻滅!やっぱ付き合うのナシで!という所じゃないのか。

「え、未だ俺と付き合うつもりがあんの?」

「当たり前だろ。…まさか、今更ナシにするのか?」

伊坂の顔色がサッと変わる。

「いや、じゃなくて…。お前はそんなんで良いの?」

「いや、まあ…正直、時永に触れた連中には腹立たしいけど…。だけど、お前を抱いても快感ひとつ与えられなかったようなテク無しが何本集まっても俺一人には敵わなかったって事だろ?そんなのノーカンで良くないか。」

「…お前ってそんな感じだったっけ?」

伊坂の理論が思っていたよりもものすごく大雑把だった事に、時永は何とも言えない気持ちになる。いや、良いのだが。変に貞操に拘る、処女信仰者に近いような奴よりは全然、良いのだが。


「…あと、」

「未だ何かあるのか。」

口を開きかけた時永に、もうちょっとやそっとの事では驚かないぞと余裕を見せる伊坂だったが、続いた言葉には流石に少し考え込んでしまった。

「九重にも、告白されちゃって…。」

「九重か…。」

伊坂は九重の、屈託ない笑顔を思い出した。
確かに九重は学生時代から時永に一際懐いていて、もしかしてと警戒した事はある。けれど九重も結婚したから、気の回し過ぎだったかと思っていたのだ。
だが、そう言えば九重も離婚するしないで揉めていたのだった、と思い出す。

「…俺を好きだって気づいたから離婚するって言われちゃって…セックスされた…つか、襲われた。」

「…あいつめ。」

襲った事に関しては自分も人の事は言えないが、気がついて直ぐ手を出したと聞いて、伊坂は九重を殴りたくなった。自覚してから10年以上悶々としていたのは単に伊坂自身の問題だが、単純に面白くない。

「んで、付き合ってくれって言われてるのを、ずっと放置してる…。」

「…話し合いが必要だな。」

「…。」

「あの脳筋め…。」


伊坂は九重の連絡先を探す為にスマホを手に取った。



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