14 / 18
14 白状
しおりを挟む話しておかなければならない事…。
最初に誰かに抱かれた後に、犯人探しのような真似が出来ず、かといってあの快感が忘れられず、それを与えてくれる男を求めて男漁りを繰り返していた事。
あの場にいた友人の誰かが介抱してくれてからの流れだったんだろうとは思っていた。
けれど、特定してしまえばその人間との友人関係が終わる。そう考えると、突き詰める勇気が出なかった。知るのが怖かったというのもある。
けれどその度に、『やっと抱けた。』と呟いた、朧気なあの声を思い出した。
やっと、という言い方なら、嫌われているよりは好かれているという事だろうか、とも思ったりもした。
あんな快感を体に植え付けておいて知らんぷりしている誰かが憎らしくなった事もある。行きずりの相手がド下手くそだった時などは、特に。
とまあ、そんな事を包み隠さず話してしまうと、伊坂は頭痛に襲われたようなポーズで頭を押さえていた。
時永は何だか申し訳なく思ったが、そもそもの原因は伊坂にある。
時永はその夜迄、男とのセックスなんか知らなかったのだから。
「…そんなに…知らない奴と?」
「うん、毎週末。」
「……。」
流石の伊坂も呆れたか。
そんなビッチは手に負えないか。
まあお前がさっさと名乗り出てくれてたら俺もそんな事してあの快楽よもう一度、なんてハッテン場通いをせずに済んだんだけどな?と、非難混じりの視線を送る時永。
「俺、汚れちゃってるけど良いかしら?」
と、クソ真面目な顔でおどけて言ってみたのは、伊坂の反応が不安だったからだ。
他の男達のお手つきになった時永を見る目が変わってしまうのではないかと。
時永だって、もしも元カノが知らない所で男をとっかえひっかえしてるなんて聞いたら、ドン引いていた。
知った後にも付き合えるか、なんて聞かれたら、多分NOだ。時永にそれを許せる器の広さは無い。
「…すまない。」
やっと発せられた伊坂の言葉に、やっぱりなと時永は苦笑した。そりゃそうだ、と思う。いくら伊坂でも…
「そんな風にさせてしまっていたなんて…。
これからは責任持って、一生俺がお前をイカせる。」
「……ん?なんて?」
「怖がらずに朝迄居たら良かった。それで告白してしまえば、こんな遠回りせずに済んだよな。ごめん。俺の落ち度だ。」
伊坂は悲痛な表情でそう言って唇を噛み締めた。
思っていたのとは違う方向に話が進んで時永は困惑を隠せない。しかし、言っている事は尤もだ。
時永だって、さっさと言っといて欲しかったと考えていた訳で…。
いやそれにしても責任持って一生イカせるってどういう流れだ。
最初の『すまない』が紛らわしい。…いや、じゃない、そんなビッチになってたなんて幻滅!やっぱ付き合うのナシで!という所じゃないのか。
「え、未だ俺と付き合うつもりがあんの?」
「当たり前だろ。…まさか、今更ナシにするのか?」
伊坂の顔色がサッと変わる。
「いや、じゃなくて…。お前はそんなんで良いの?」
「いや、まあ…正直、時永に触れた連中には腹立たしいけど…。だけど、お前を抱いても快感ひとつ与えられなかったようなテク無しが何本集まっても俺一人には敵わなかったって事だろ?そんなのノーカンで良くないか。」
「…お前ってそんな感じだったっけ?」
伊坂の理論が思っていたよりもものすごく大雑把だった事に、時永は何とも言えない気持ちになる。いや、良いのだが。変に貞操に拘る、処女信仰者に近いような奴よりは全然、良いのだが。
「…あと、」
「未だ何かあるのか。」
口を開きかけた時永に、もうちょっとやそっとの事では驚かないぞと余裕を見せる伊坂だったが、続いた言葉には流石に少し考え込んでしまった。
「九重にも、告白されちゃって…。」
「九重か…。」
伊坂は九重の、屈託ない笑顔を思い出した。
確かに九重は学生時代から時永に一際懐いていて、もしかしてと警戒した事はある。けれど九重も結婚したから、気の回し過ぎだったかと思っていたのだ。
だが、そう言えば九重も離婚するしないで揉めていたのだった、と思い出す。
「…俺を好きだって気づいたから離婚するって言われちゃって…セックスされた…つか、襲われた。」
「…あいつめ。」
襲った事に関しては自分も人の事は言えないが、気がついて直ぐ手を出したと聞いて、伊坂は九重を殴りたくなった。自覚してから10年以上悶々としていたのは単に伊坂自身の問題だが、単純に面白くない。
「んで、付き合ってくれって言われてるのを、ずっと放置してる…。」
「…話し合いが必要だな。」
「…。」
「あの脳筋め…。」
伊坂は九重の連絡先を探す為にスマホを手に取った。
22
お気に入りに追加
693
あなたにおすすめの小説

偽りの僕を愛したのは
ぽんた
BL
自分にはもったいないと思えるほどの人と恋人のレイ。
彼はこの国の騎士団長、しかも侯爵家の三男で。
対して自分は親がいない平民。そしてある事情があって彼に隠し事をしていた。
それがバレたら彼のそばには居られなくなってしまう。
隠し事をする自分が卑しくて憎くて仕方ないけれど、彼を愛したからそれを突き通さなければ。
騎士団長✕訳あり平民

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる