10 / 13
10 とある、夜
しおりを挟む某有名女子大生達との合コンという名のお食事会は、それなりに盛り上がった。
結局あの後他のメンバーが一人適当に暇そうな奴を捕まえてきて、会は恙無く行われた。
落ち着いた清楚系メイクの娘ばかりでお嬢様ぶっているのに、男の査定をする目は爛々としていて滑稽だった。
正直、橙空はこういう場が好きな訳では無い。
橙空は単なる客寄せパンダだ。何かする訳でもなくそこに居て人を誘き寄せる役割り。勿論、時には適当に楽しみもするが、遊んだら大抵は寄ってきた女の子達を取り巻きの男たちに振り分ける。
女の子達だって、本気で橙空と付き合えるなんて考えてる娘はいない。
A大の橙空と遊んだ娘、橙空と接点を持った娘、というステイタスを自分の付加価値に付け加えたいだけだから、橙空もそれなりに接した。
だから、自分の中には踏み込ませないし、誘われても相手の部屋には行かない。
軽いのにガードは硬い。
特定の相手は作らない。
仲間内で、橙空はそういうタイプなのだと定着した。
今夜は二次会のカラオケ迄で帰るつもりだったのに、執拗く連絡先を聞き出そうとする娘が着いてきてしまい、橙空はその娘を駅まで送るつもりで一緒に歩いていた。
一度聞かれた連絡先を教えないという事は、自分に興味も脈も無いというのを察するのが暗黙の了解なのだが、今日の敵は手強かった。
自己評価が高いのか、大学デビューで遊び慣れていないだけなのか。
何方にせよ橙空の頗る嫌いなタイプの地雷系だ。
下手に遊んだりしたら面倒な事になりそうだ。
機嫌なんか取らない。駅迄送るだけでも大温情だ。今夜の主催が取り巻きの中の男で、何かと使い勝手の良い奴だからソイツの顔を立ててやっているだけ。
腕に纏わりついてくる女への不機嫌顔を隠さずに、駅への道を急いでいると、視界の端に何かが引っかかった気がした。
(?)
思わず立ち止まって気になった方に首を向けると、そこは大きなビルの一階に入った、遅く迄開いているという大型書店の出入り口で、橙空のセンサーはそこから出てきた客に反応したらしかった。
(…湯巻?)
書店から左手に袋を提げて出てきたのは昼間一緒に昼食を食べた湯巻だった。
「ゆ…」
思わず女の腕を振りほどいて声をかけそうになり、湯巻の後からゆっくり出てきた連れの存在に気づく。
そう言えば幼馴染みとの予定があると聞いたのだった。
しかしその連れの姿は、橙空が想像していた姿とは全く違っていた。
湯巻よりも上背があり、肩幅も広く、長い手足。
夜の照明でも際立つその精悍な美しい顔立ち。
以前よりも更に大人びて憂いすら感じさせる程の…。
「…周…。」
視線が釘付けになる。何故、湯巻が周と。
「何?…わ、超イケ…知り合い?」
「…。」
横の女が色めき立つが、何も答えられない。
「橙空君が相手にしてくれないなら、あの人に声かけちゃおっかなぁ。
…え、でもなんか微妙な友達も一緒?」
そう言って笑う女に、橙空はその瞬間初めてしっかりと視線を落とした。
冷たい侮蔑を含む目だ。
「何勘違いしてんのか知んねえけど、あの2人はアンタ如きが声なんかかけて良いレベルの人間じゃねえから。」
低く冷たい声で橙空が言い放つと、女の表情が固まった。
「早く帰りなよ。もう駅見えてんだろ。」
散々触られて香水の匂いを移された袖を手で払うようにすると、女は顔を怒りで赤く染め、鼻を鳴らして駅に向かった。
周は勿論、湯巻を貶め、揶揄するような言葉が許せなかった。湯巻はあんなのには勿体無い素晴らしいスペックの持ち主だ。内面だって人格者だし、顔立ちだって微妙ではない、あくまで普通だ。
只、周と並べば誰だって微妙に見えるだけで。
そう、思いながら2人のいた場所に再度目をやると、既に姿は無かった。
慌てて周りを見回すが、それらしい姿は見えない。あれだけ背が高くて目立つ周が一緒なのだ、見つけられない訳が無いのに、360℃見回しても、何処にもいない。
駅に向かったなら、あの女が向かっていくのを見ていた時に気づいた筈だ。
じゃあ、反対側?と走ってみたが、やはり見つけられなかった。
「…何で、湯巻が周と…。」
心の声がとうとう口から漏れた。
生温くなってきた夜風が頬を撫でていく。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
322
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる