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6 それぞれの進学先
しおりを挟む"男なんか恋愛対象じゃない。
付き合うのはコイツを落として自分の立場を優位にする為。"
そう思っていたのに、何時の間にこんなに嵌っていたんだろうと橙空は溜息を吐く。
その視線の先には、何時も周がいる。
最終的に周は、国内最難関の大学を受験し、そして合格した。
橙空は別の大学に合格したが、これで完全に道は別れた事になる。
大学は区も違うし、活動範囲も変わる。友人ですらない学生同士が会う機会などほぼ無くなるだろう。
橙空は絶望感に苛まれたが、周は卒業式でも 物言いたげな周囲の熱い視線を気に留める事も無く、さっさと帰って行った。
在学中、あれだけの人心を掌握しておきながら、全く気づく事すらなく、ボタンひとつ、写真ひとつ誰とも撮らないまま。3年間過ごした学校に何の思い入れも未練もなく、自分を地味な陰キャだと思い込んだまま、周は卒業したのだ。
周にとっては、只 苦い記憶だけが残った高校生活だった。
これから新たに迎える大学生活にも、特段夢も希望も抱いてはいない。
周は、勉強して学歴さえつければ希望の職種に就き易くなるだろうし、高給取りになれば趣味に投じる金にも困らないだろう、との動機だけでその大学に入った。
どんな人間と出会い、どんな関係が構築されていく事になるのかなんて興味もなかった。
只、気を引き締めた。
自分のような人間に好意的に近付いてくる人間には、絶対に裏がある、と。
周はもう、親しい人間を作る気も懐に入れる気も、更々なかった。
只、たまに懐かしく思い出すのは、自分を裏切った橙空の唇の感触と、その時至近距離で見た潤んだ綺麗な瞳だった。
もう、二度と他人にそんな感情を持つ事も無いだろう。
元々リアルの対人関係に臆病だった周は、人を恋う心を完全に封印してしまっていた。
橙空が進学したのは、都内屈指の繁華街近くにある有名私大だった。
友人達には、雰囲気が橙空に合っていると言われていた所にそのまま来た感じだ。
自分でも合っていると思うし、周の行った大学だと、おそらく無理する事にはなっただろう。
これで良かったんだ、と橙空は自分に言い聞かせた。
忘れよう。どうせ周だって、もう橙空の事は眼中に無い。諦めよう。
そう割り切って、学生生活を楽しもうと思った。
元々社交的な性格で、容姿も良く垢抜けている橙空は大学でも直ぐに囲みができた。
高校の時と違うのは、取り巻きの女子のレベルが格段に上がった事。
裕福な家の子女が多いのか、ファッションも容姿も適度に洗練された学生が多い。
適当に遊ぶにも連れ歩くにもちょうど良いような女や男達。
けれど、それでも周程の人間は、いない。
入学早々から幾つものサークルから勧誘がかかっていた橙空は、その内の一つに入った。
適度に緩くて、適度に楽しめそうなスポーツサークルだ。
新しい交友関係も出来て、高校時代よりも更にチヤホヤされた。面白い事に、取り巻きの中には堂々と橙空狙い、と公言する男もいる。
大学生活ともなると随分セクシュアリティに開けっぴろげになるものだと思ったが、遊びだからこそそうなれるのだろうとも思った。
しかしそう考えると、高校時代の自分の周に対する所業も同じ類の事だと感じ、橙空はまた自己嫌悪に陥った。
周には卒業以来、会っていない。忘れようと決めたのに、不意に思い出してしまって無意識にスマホの画像フォルダを開いてしまう。
友人として付き合っていた半年の間、一緒に撮った写真は2枚程度しかなく、周を勝手に撮ったものばかりが何十枚もある。
理不尽に別れた後のものも。
だから殆どが距離のある画像ばかりだ。
そして、忘れようと決心した未だにそれらを消せない。
未練がましいと自覚していても、どうしても消せない。
忘れるには好きになり過ぎた。
今、周はどんな学生生活を送っているんのだろうかと思いを馳せる。
あれだけ目立つのだ。
高校の時のように遠巻きにされるとは限らない。
大学生ともなると、精神的に大人な学生もきっと多く、それにあの大学には周と同じようなレベルの頭脳を持つ学生も多いだろうから、遠巻きになどされず囲まれているのかもしれない。
周に相応しい者達がきっとゴロゴロいるのだ。
そう思うと嫉妬心が湧いてくる。
(やっぱり同じ大学に行きたかった…。)
行ったところで話すらして貰えないだろうに、という気持ちには、蓋をした。
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