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君の運命にして下さい
しおりを挟む翔ちゃんはすごく嫌そうにティッシュを数枚掴んで、僕の鼻にあてて、
「チンしろ。」
って言ってくれる。
何やかや優しいんだよね。
疑って悪かったなあ。鼻かんでくれるとか、愛でしかなくない?
僕が鼻をかむと、今度はやっぱりティッシュで涙を拭いてくれる。天使…いや、神じゃん。神の慈愛じゃん。好き。
その手を両手で捕まえる。
「翔ちゃん。」
「…なんだよ。」
しっとりした、僕より体温の高い、器用そうな細い指をした手。
その手の甲に頬をすり寄せる。
肌の感触、気持ち良い。
「僕には翔ちゃんが運命だよ。」
翔ちゃんの指がぴくっと動く。
「…ンな事言ってもさ…。」
手を引っ込めようとする翔ちゃん。いやそれはまだ許さないから。
手を包み込んで、指を絡める。
「みくびんないで欲しいんだけど。僕が誰かに靡いたの、見た事ある?」
「…これからはわかんねーだろ。只でさえ、マナはモテんだから。」
翔ちゃんの声、震えてる。
見上げると、僕を見下ろす翔ちゃんと視線がかち合った。
そんな泣きそうな顔は保育園以来だね。
「なら翔ちゃんも僕を運命にしてよ。
最初から僕を諦めないで。αの部分だけを見ないで。僕を見て。」
翔ちゃんの表情が歪む。
「好きだよ。」
君の顔を見るたび、考えるたび、こんなに胸が熱くなるのに、いっぱいの気持ちが溢れて溢れてたまらなくなるのに、言葉にするとこんなに少ないんだね。
こんな短い言葉じゃ、君を安心なんかさせられないかな、翔ちゃん。
「…くそっ…バカマナ。」
翔ちゃんの目から涙が流れた。
「俺も好きだよ…バカヤロウ。」
「翔ちゃん…口悪っる…。」
「るせぇ…。」
翔ちゃんの左手を取って薬指に指輪を通す。ほらピッタリ。
翔ちゃんが寝てる間にちゃんと測っといたかんね。
その指輪をまじまじと見つめる翔ちゃん。可愛い。
抱き締める。良いんだよね、抱き締めても。
何時も何にも動じない翔ちゃんの肩が、少し震えてる。
泣くのは何時も僕の役目だったのに。いやまあ、つい今しがた迄泣いてたんだけどさ。
鼻先に直ぐに翔ちゃんの髪、耳、首筋。
まだシャンプーの匂い、ボディソープの匂い。でも体温高くて新陳代謝良いから、じき体臭が混ざってすごく良い匂いになる。
「あー…幸せだなあ…。
恋人になってね、翔ちゃん。」
「…うん。」
素直に小さく頷く翔ちゃん、子供の頃みたいになってる。
「お嫁さんになってね、翔ちゃん。」
「…俺も男なんだけど…。」
もぞ、と腕の中で顔を上げる翔ちゃん。不満そう…。
「だって僕、翔ちゃんを抱きたいし…。」
「…俺だって抱きたいんだけど…?」
「…えっ?」
「…えっ?」
思わず見つめあってしまう。
え、この流れと雰囲気でそれ言う?
どう見てても翔ちゃんが可愛がられる方じゃない?
長年の問題が解決して、新たな問題が発生した。
まじかあ~…
え、まじかあ~…。
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