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今年のイブは一味違う

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「ちょっとシャワーだけしてくるわ。」

「りょー。」


バイトだったんだもんね。お疲れ様。ゆっくり汗を流しておいでよー。

翔ちゃんがシャワーに行ってる間にテレビをつける。
でも内心はテレビどころじゃないんだよね。
だってこの部屋、翔ちゃんの匂いでいっぱい…幸せ…。

僕と翔ちゃんのコートをハンガーに掛けて、お泊まり用に置いてるスウェットに着替えてから翔ちゃんのベッドにダイブ。
布団!枕!ラッキー、今日はカバー替えてない日!!アタリだ~!!

くんくん嗅いで翔ちゃんの匂いを吸い込む。はぁ…いい匂い…。

暫くラリってたら、ガチャ とドアが開いて翔ちゃんが髪をタオルで拭きながら戻って来てて、僕の行為を見てドン引きしていた。

「……早かったね…。もっとゆっくりしてきたら良かったのに…。」

「…早かったら悪いのかよ…。」

いや、嬉しいです。

「お前は、ほんと…さあ。
本体より抜け殻みたいなモンの方が好きみたいだな。」

呆れたような、不憫がられているような目で見られる。

ぎゃふん。(古)

でもそれは聞き捨てならない誤解だ。

「違うよ!!本体を嗅げないからこっちで満たしてんの!!」

理由を述べると翔ちゃんが、怪訝そうな顔をする。

「何で嗅げないんだよ?」

「だって!!」

「俺、嫌がった事、あった?」


…嫌がった事…?

…そう言われてみたら、そんなにないね…。
呆れられはするけどね。


「はぁ…。」

翔ちゃんは壁に掛けてあった自分のコートのポケットから片手サイズの箱を取り出して、ベッドに転がってる僕の横にどかっと腰を下ろした。

「マナ、お手。」

「え…ワン。」

条件反射で右手を出してしまう。
しかし首を捻る翔ちゃん。かわい。

「…うーん…どっちだろ。
おかわり。」

「…ワン。」

よくわからないまま左手を出す。

翔ちゃんは箱を開けて何かを取り出すと、僕の左手首に通した。


「えっ」

「こないだ見てたじゃん。一緒に映画行った時に。」


それは、確かに見覚えのあるバングルだった。
綺麗な透かし模様と青い石の埋め込まれたシルバーのバングル。
好みにドンピシャで買おうかな、と迷ったけど、映画の予約した時間がそろそろだからもう少し考えてから来よう、って それきり行く機会がなくて。


「えー…翔ちゃーん…」

毎年、クリスマスプレゼントはお互いそんなに高価なものは交換しないってのが暗黙の了解だったのに、こんなの不意打ちじゃん。
嬉しくて涙出てきた。

じいっと見てると今度は翔ちゃんが同じデザインの黒っぽいのを自分の左手首にはめて、

「見てたら俺も欲しくなってさ。」

と、ニヤッと笑った。

ずっきゅーん!!!

お、男前すぎィ!!!
惚れ直してまうやろー!!!


「お、お揃い…!!」

「…まあ、そうなっちまうな。」

「あ、ありがとう…ありがとう翔ちゃん…っ」

嬉し過ぎて涙と鼻水が一緒に…。

「うわ汚ねっ」

ティッシュを投げて寄越す翔ちゃん。…優しい。

「…え、まさか、それでバイトしてたの?」

「…まあ。」

「し、翔ちゃ~~ん!!!」

抱きついて良いよね!!!

はっ、そうだ…

グズグズに泣きながら僕はベッドを降りる。
コートコート…。あった。

翔ちゃんのより小さい箱を持ち、翔ちゃんの横に戻る。

「し”ょ”う”ち”ゃ”ん”…」

「…まずは涙と鼻水を拭け。」

言われて、いそいそとティッシュで鼻をかむ。

翔ちゃんがドン引きしながらそれを見ている。何この状況。

仕切り直しだ。

「翔ちゃん、僕と結婚して下さい。」

箱の中は指輪。

学生の間はバイト禁止の我が家だが、翔ちゃんへのプロポーズの為に、お小遣いを貰えるようになった小一からその一部とお年玉をコツコツ貯めていたのだ。
だからと言って、バカ高いものは、学生の内は受け取って貰えないと思ったから、それなりのお値段の指輪だけど。
だからこれは、結婚指輪じゃなくて、言わば婚約指輪だな。

見て僕の誠意。


ところが箱の中の、めっちゃシンプルな指輪を見て、翔ちゃんは微妙な表情で言い放った。


「…つか、その前に俺、お前に告白さえされてねんだけど。」



……………ハッ!!




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