お姫様に、目隠しをして

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19 僕は王子様に目隠しをされて

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僕と崇くんは恋人同士。

そう認識してから、僕は色んな事に気をつけるようになった。
何故なら、崇くんは死ぬほど優しいけれど、同じくらい嫉妬深いのがわかったからだ。色んな部分が卓越し過ぎて犬かと思うくらい鼻が良いし、変わった匂いや気にくわない匂いをつけてると、溜まり場じゃなくて崇くんちに直行で浴槽にそっと入れられて丁寧に洗われる例の儀式が行われる。

崇くんにお世話されるのには慣れてきたけれど、そうされると条件反射で平日でも泊まりたくなってしまうので、僕は学校にいる間、めちゃくちゃ気をつけるようにした。

それでも何故だか最近やたらと親しくしてくれるようになった花臣くんの罪の無いスキンシップのお陰で、それが失敗する日も多いので僕はとても困っていた。

お風呂に入れてもらうと、お世話されモードからの流れで、とてもえっちな気分になってしまう事が判明したからである。(僕調べ。)
多分、洗われる過程で お尻の中も綺麗にするからな、と崇くんが指を突っ込むからだ。

突っ込むと言うと乱暴に聞こえそうだけど、何せ相手はあの崇くんなので、魔法のように気持ち良く洗浄される。
その後は崇くんの口と舌でお世話されて解されてしまうので、嫌でも挿入れて欲しくなるパターン…。

多分、僕は悪くない。


そんな感じで崇くんと過ごしている内に、崇くんは高校を卒業し、僕は3年に進級した。

高校を卒業すると同時にチームのトップの座をお迎え担当の一人に譲った崇くんの顔は、何となく晴れ晴れしていた。
そして、その夜崇くんは真面目な顔をして言った。

「いぶ。実は俺は大学に行く事になった。」

「うん?うん、わかった。」

実はも何も、こないだ出しっぱなしになってた受験票見たけど。

「ジジイの会社を継ぐ代わりにいぶを嫁にして良いって約束させたんだ。 でも高卒だとカッコつかねえから大学行けってよ。」

「……嫁…。その話、まだ生きてたんだね…。」

崇くんは不良高に行ってる割にはかなり頭が良い筈なのに、僕をお嫁にするって話を全然諦めてなかったらしかった。

「だから近々いぶのお母さんにご挨拶に行こうと思うんだが。」

「夜勤明けじゃなきゃ大丈夫だと思うよ。」

母さんは看護師なので、夜勤明けだとほぼゾンビなのだ。
ものすごく機嫌が悪い。

因みに既に崇くんには何度も会ってるし、初対面でイケメン推せるとか言ってたし、嫁発言も毎回聞かされてるからか、最近は 時代は多様性だよね、とかよくわからない事を言い出した。

嫁発言はともかく、崇くん自身の事を結構早く受け入れてくれたのは、母さんも中高時代はレディースだったかららしい。
バイクの話なんかで崇くんと母さんが意外と気が合うのは良かったけど、一人息子が婿にならずに嫁になる事に対しての危機感とかはないの?と聞いたら、崇くんと結婚したら玉の輿に乗って母さんの左手に団扇を握らせてほしいと言われた。

……どういう事?

とにかくそうなったら、母さんは看護師辞めてツーリングの旅に出るからねと言われた。それ、ちゃんと帰ってくるんだよね?

取り敢えず、チンコ付いてるけど、嫁で良いらしい。

そんな訳で崇くんが入学した日の夜に指輪を左指に通されて、僕は崇くんの婚約者に昇格していたようだった。

因みに、高3の1年間も、学校の送迎は崇くんの部下だった現トップの人達によって継続した。

そして、高校卒業の翌日、僕は蝶野 伊吹になった。







「僕さ、思うんだけど。」

大学から帰ってきた崇くんを玄関でお出迎えして、僕は言った。

「何をだ?」

「卵料理って奥が深いんだよ。」

「……そうか。よく気づいたな。偉いぞ。」

本当に物理的にも法的にも力技でお嫁にされた新妻の僕は、あまりに暇な昼間、料理を習う事にした。
近所の料理教室にでも通おうかと思ったんだけど、崇くんは事前調査を入れたらしくて、昼間の、生徒が全員女性、講師も女性という初心者クラスをピンポイントで指定してきた。
徹底している。
今では結構馴染んだ送迎の人達は崇くんに絶対服従らしいので、崇くんの中では男性には該当しないらしいけど、それ以外の男性は悉く排除、というのが僕に関する崇くんのスタンダードスタイルらしい。
僕が女性とは浮気できないと思っているのか。
舐めている。

憤慨しながら通いだした料理教室は、遺憾ながらとても楽しかった。
歳上のお姉様やおば様ばっかりなのでやっぱり男扱いはされなかったけど、皆で料理やお菓子を作って一緒に食べながらおしゃべりするのは結構悪くない。
高校時代は途中から花臣くんしか話し相手がいなかったから、こういうの嬉しい。

料理の腕もぼちぼちと上達…してきたような気がする。

僕は度々、教室での成果を崇くんに持ち帰ってはドヤ顔で差し出して味見してもらうんだけど、崇くんは毎回、世界一うめえわ、しか言わないのでその評価はアテにはならない。
 
そんな激甘評価の旦那様の手を引いて、ダイニングテーブルに連れて行く。

「という訳で、今夜のご飯は重田さん監修、制作僕です。」

「だから黄色ばっかなのか。」

テーブルに並んだ料理はオムライス、関西風だし巻き玉子、キッシュ、タマゴサラダ、茶碗蒸しというなかなかカオスなラインナップ。


「召し上がれ。」

「いただきます。美味い。」

食べる前からフライングで感想を言う崇くんの意見は、やっぱりアテにならない。


「今度の崇くんの誕生日には、僕がケーキを作るね。
明後日は教室でケーキ習うんだ。」

崇くんの膝の上で、オムライスを美味しそうに口に運ぶ崇くんにそう予告すると、崇くんはクールな美顔を跡形も無いくらい綻ばせて、満面の笑みで僕の左手を取り、薬指にキスをした。




この左手の指輪は、君にかけられた綺麗な目隠し。
僕は君にかけられた魔法を解かずに、君の懐の中で生きていく。


きっとそれで僕は幸せ。












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