27 / 30
27 俺、その後。(裕斗ルート)
しおりを挟む本條宅から救出されてから、俺は3日程寝っぱなしで無事回復した。
まあ、若いし。
別に殴る蹴るの暴行を受けた訳でも無いし。
言わば不眠不休耐久セックスに付き合わされていただけだからな…。
裕斗は1週間近く一緒にいてくれて、満足に動けない間の身の回りの世話や食事の介助もしてくれた。
本当に親身に。
けれど、その間裕斗とは本條とのあれこれを話したりはしたけれど、俺達のこれからの事には一切触れなかった。
多分、俺に心の整理をする時間が必要だと思ってくれたんだと思う。
実際、この後暫く俺には 恋愛から遠のきたい期が到来して、裕斗との関係を進展させるどころじゃなかった。
恋情でも愛情でも友情でも、過剰摂取はしんどい。
そう思ってしまう俺は、薄情な人間なのかもしれないな。
俺は本條とは別れたが、本條のした事自体は許した。
最初も今回も、合意無きセックスをされた時点で本條は完全にレイパーだし犯罪者っちゃ犯罪者なんだが、それを何故俺が許したかと言えば…それはもう、何と言うか…情としか。
浮気をされていた、裏切られていた、と思い込んでいた時でさえ、好きではないけど嫌いにもなり切れていた訳ではなかったから。
只もう、その件に関してはシャットアウトで、みたいに感情が凍りついてはいたが。
好きという感情が消えていたって、半年も一緒に過ごして、その間の本條は優しくてとても良い彼氏だったのだ。
あの、イブの日に風祭とのキスシーンを見る迄は。
その後、数々の浮気の証拠写真をリークされる迄は。
本條の部屋に囲われていた間も、体は悲鳴をあげる程に何度も抱かれたけれど、本條の必死さも伝わって来て、無碍に出来なかった。
こんなつまらない凡百の徒でしかない俺なんかに、こんなに色んな感情をくれるなんてなあ、と申し訳無いくらいの気持ちにもなり。
でも、一度失ったものを取り戻すのは難しかった。
そこに裕斗との事は関係無い。
自分で決断した事とはいえ、本條と別れて暫くはやっぱり引き摺ったし、罪悪感も無くはなかった。
こうなったのは本條だけが悪い訳じゃない。
例え始まりが歪でも、全てが違っても、寄り添う事は出来た筈だった。
育ってきた恋を、素直に言葉にしたらよかった。
本條の気持ちをストレートに受け止められていたら。
本條のくれた百分の一でも、好きだという言葉と態度で返せていたら。
俺と本條には、きっともっと違った未来があった。
とはいえ、終わった事は終わった事。
数ヶ月後には気持ちを切り替えて、季節が春を迎える頃には教育実習も始まったりして俄に忙しくなり、地元の大学の理系学部に進んでいた裕斗は俺なんかより更に多忙を極めた。
そんなこんなで結局、付き合う事になったのは、就活も卒業も終えて新社会人になろうかという時期。
俺は教職と迷って結局此方で一般企業に何とか就職を決め、裕斗も此方で大手建設会社に内定を取れたから、この春からは同せ…ルームシェアを始める事にした。
元のアパートは2人だと手狭なので、市内に物件を探して引越して。
そしてまあ、今夜が引っ越してきた当日な訳なんだが。
数日後には入社式を控えてるから、今日明日で出来るだけ荷物を片付けなきゃな、と思っていたんだけど、思いの外、2人共荷物が少ない。
日中に新しい家電の搬入も終わったし、夕方迄には結構落ち着いてしまった感じ…。
冬服なんかの段ボールは、おいおいで良いだろ。
新居の広くなったバスタブの湯に浸かりながら、俺はこの後数日の残りの荷物の片付けをどうするか考えていた。
食器ももう少し揃えたいな。明日裕斗と買い物行くか。
そう思ってたら、浴室の扉が開いてマッパの裕斗が入ってきた。勿論、フルチンである。
幼馴染みで小学校迄は一緒に風呂にも入ってたとはいえ、成長した裕斗のヒロトくんを見るのは初めてなので、俺、おおいにテンパる。タオル…タオルとかは?
「ちょちょちょ、何で入ってくんの?!」
「別に良いだろ。風呂広いんだし。」
そう。前のアパートの風呂は狭かったから、このマンションは浴室重視で選んだ。
ここならまあ、2人でもそれなりに余裕で入れる。
でも俺は風呂はひとりでゆっくりしたいんだよ…。
そんな俺の胸中を察してくれる気の無い裕斗は、軽くシャワーを浴びてからバスタブに入って来た。
あ~…裕斗のヒロトくんが湯の中で俺にこんばんはしてるよオイ…こんばんは。
ちゃぷん、と水音のする中、湯気に包まれて、何となく無口になってしまう。
湯に濡れた裕斗の顔や体が
、まるで知らない人みたいだ。水気を含む短い黒髪を後ろに流してるからだろうか。
整った顔が大人びて見えて焦る。
見慣れた顔や上半身が、急に直視出来なくなるって何なんだ。
「なあ。」
裕斗が口を開いた。
「…なに?」
俺は湯に目を落としたまま答えた。断じてヒロトくんを見たかったからではない。顔を見るのが気恥しかったからだ。
「俺達、付き合ってるって事で良いんだよな?」
「うん。」
そりゃまあ、こないだ改めて付き合う事を決めたからな。
俺が神妙な顔で頷くと、裕斗は身を乗り出して来てちゅ、と軽く唇を押し付けてきた。
温かく濡れた、柔らかな弾力。
何気にこれ、初キスなんだが。今迄あの下唇噛まれる拷問接触しかされた事無い俺は一気に逆上せそうになった。
心の準備が出来てなくて動悸がしてきたから、落ち着く為に一旦離れようとしたら後頭部と腰を抱き寄せられて余計に密着してしまう。
侵入してきた裕斗の舌が咥内を這い回り、舌にねちねち絡まれて舌の感度がどんどん上がる。
裕斗が俺の口内にいるって事を初めてリアルに感じて、下腹部が疼き出して困った。やばい。
「やす…」
「あ、」
耳元で吐息混じりに艶っぽく囁かれて、俺のペニスが反応したのを見逃さなかった裕斗により、俺はそのまま風呂場で口淫されてしまった。
そのままベッドに運ばれて初セックスになった訳だが、その時俺は考えていた。
成人してからこんだけお姫様抱っこをされる男が、世の中にどれくらいいるんだろうかと。
78
お気に入りに追加
3,390
あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる