身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。

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23 魔王の城は2501号室、角部屋。 (裕斗)

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(なんだこりゃ。)


およそ学生が住むようなマンションじゃないようなエントランス。

フロントでコンシェルジュに止められたりしないかとビビってたけどそんな心配はなかった。

「住人自身が開けてくれたらこんな感じですんなり入れるんだけどね。
泰から聞いた話では、誰かに付いて入ろうとすると絶対に止められるらしい。
住人の顔を全部覚えてるとは思えないんだけどなぁ…。」

「…。」

じゃあ、本條の気分次第では俺達は為す術なく追い返されたって事か。

「君の脅しが効いたなんて思えないけど…。ロクな抵抗も無しにすんなり迎え入れる気になるなんて、本條は何を考えてるのかな。」

「本当にやすがいないからだったりとか?」

「……いや、それは無いと思う。」


何処もピッカピカの柱に高い天井。
エレベーターの回数表示は32階迄ある。

…人はそんな高み目指してどうすんのかね。災害時とか逃げ遅れそうじゃん。大丈夫?
今って富裕層はもう低層階に移行してるって聞くぞ?
そんな俺の気持ちが聞こえたかのように風祭の言葉が。

「そんなに住み良いもんでもなさそうだけどね。景観なんか、毎日同じだと飽きるだろうし。」

「だよな。」

風祭は何の気無しに言ってるけど、俺の返事には若干の負け惜しみも滲んでるかも。

25の数字のボタンを押すと、扉は数秒かけて閉まり、少しの浮遊感を感じさせてエレベーターは速やかに上昇した。
ガラス越しに見える街の景色、ビル群、遠くの山々と海。
やすは何度もこの景色を見ていたのか。
俺の知らない所でお前は、俺以外の手で体を開かれて、勝手に大人にされて……。

嫉妬で心臓が焦げそうに痛んだ。
握り締めた拳と噛み締めた唇が熱い。脳味噌が沸騰しそうだ。

しかもまた、まんまとこんな場所に囚われて。

そこでふと、疑問。

いくらチョロいやすでも、同じ手に引っかかるとは思えないし、 別れ話をするつもりの相手に来いと言われて大人しく行くとも思えない。俺が再三言ったから、結局外で話をするって言ってたし、多分それなりの店かカフェにでも行くつもりだったんじゃないかと思う。

予定の前日の昨日、本條がフライングして泰に会いに来たんだろうな。
そこ迄は想像つくけど、そっからどうやって…。
幾ら付き合ったからって 前科のある相手だからやすも警戒してた筈なのに。


そうこうする内にエレベーターは25階に到着し、扉は静かに開いた。
絨毯敷きの通路に足を踏み出すと、風祭が右側を指して言った。

「2501。端だから。」

「……ふーん。」

通路ですら高級感があるのがまた腹立たしいな。
ゴミひとつ落ちてない臙脂色の絨毯の上を歩きながら俺の気持ちは逸った。
泰の状況が気がかりだ。



「ここだ。」

何時の間にか着いていた、黒光りする扉にプラチナに光る2501のナンバー。
ちょっと気後れするような重厚さ。

「…鳴らすぞ。」

「うん。」

俺が部屋のインターホンに指を伸ばした時、ガチャッと音がして、扉が開いた。

「いらっしゃい。」

中から長身の男がドアを開けていた。
ウェーブのかかった、乱れた黒髪さえ色香にしかならないような男。
切れ長の目は眦に朱を刷いたように染まっていて、今の今迄色事に耽っていたように艶めいている。
何だか怪しげな魅力があって、確かにこれで迫られたら男女の別なく落ちるかも、と思わなくもない。

こんな男に、やすは…。


ええい、気後れしてる場合か、と俺はずいっと玄関に入った。続けて風祭も。

スニーカーを脱いで泰を捜す為に上がり込んだ。
脱衣所、トイレ、クロゼット、そして、…寝室。

開けるとむわっと濃い性のにおい。
間接照明だけの薄暗い部屋のベッドの上に、横たわっている泰がいた。
白い四肢はぐったりとして、手指だけでシーツを掴んで、泰は俺達を見ていた。諦めたような、そんな目で。
ベッドに駆け寄ると、泰は俺を見て、力無く笑った。

「あーぁ…見られ…ちゃったか…。」

「言ってる場合か、馬鹿。」

体中、あちこちに赤い痕。手首の痣。
髪に、胸に、腹に、足の付け根にへばりついて所々乾いている、よく知っている、白濁した何か。そしてそれは、それが付着して乾いた跡に、更に垂れている。

ひどい匂いだった。


「ごめんな。こんなとこまで、きてくれたのに。」

泰の声は嗄れて、何時もの耳を心地良く撫でる声じゃなかった。
俺は膝をついて泰の髪を撫で、馬鹿、と言うと 泰は眉を下げて悲しそうに ごめん。と言った。

違う。馬鹿は俺だ。
一緒に着いて帰ってきてやらなかった俺。
だけど、今、泰をこんな目に遭わせたのは。

「本條、てめぇ…よくもこんな事が出来たもんだな。」

ドアに振り向いてそう言うと、本條はしれっと言った。

「俺が自分の部屋で自分の恋人を抱いただけだろ。何が悪いんだ。」

怒りを抑えられなかった。
殺してやろうか。
俺を見てニヤついている本條を睨みつけて立ち上がろうとすると、泰が手首を掴んだ。

「もう、いい。
アイツは…ほっとけ。」

何を言ってるんだ。
ここ迄されておきながら。
拉致だぞ。レイプだぞ。

「どうせ、これで最後だ。」

泰が嗄れた声で、でもはっきりとそう口にすると、本條の様子が変わった。

「俺は絶対に別れない!」

さっき迄の余裕はどうしたんだよ…。

そして、本條はベッドの横迄歩いて来て、俺に向かって言う。


「泰には俺の手垢とザーメンだらけだ。
表面だけじゃない、口の中だって体の中だって。奥深く迄俺のを染み込ませてる。」

「やめろ、本條!」

本條を追うように部屋に入ってきた風祭が、前に回り込んで本條の頬を殴った。
本條は少しよろけたけれど、何食わぬ顔で立っていた。でも俺は少し驚いた。
風祭って、如何にも育ちが良さげでそんな事、しそうになかったから。
泰もびっくりしてるし。

それだけ、本條の泰に対する所業が腹に据えかねたんだろうな。
俺だって殴りたいわ、こんな奴。

こんな、好きな筈の相手を傷つけるような奴。

俺は手首を掴んでいた泰の手を外して、今度こそ立ち上がった。








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