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21 僕は君を知っている 2 (風祭)
しおりを挟むこのヒロトという幼馴染みに、僕はずっと嫉妬している。
僕は泰を好きになってから、泰に対する独占欲がどんどん強くなっていった。
独占欲とは別の感情も育ってるのに気づいたのは、寝ている泰に劣情を催してから。
まだ残暑の時期だった。
ショーパンから伸びるすんなりした細い足が綺麗だった。触りたいな、と思ってつい触れてしまった。
泰の肌は滑らかで、なのに少し汗ばんでしっとりしていた。僕の手の感触に反応して声を漏らす半開きの唇は薄いピンク色で小さめで可愛い。
寝乱れた黒髪がさらりと流れて、つい見蕩れてしまう、という気持ちを初めて理解できた。
誰かを可愛いと思うのも、抱きたい、と思ったのも初めてだった僕は混乱した。
僕は泰を好きになってしまっていた。性的対象になる程に。
まさか自分の中にそんな感情が育つなんて。
初恋すらまだだった僕にはかなりの衝撃だった。
でも、今のこの居心地の良い友人関係が壊れるのも怖くて告白なんか出来る訳もなく。
臆病者の僕は友情以上に踏み出す事が出来なかった。
そうして2年以上。
ある日、鳶にかっ攫われた。
僕が実家の用でほんの1時間、遅れた飲み会。
泰が頼まれて出ると聞いて、僕も出る事にしたのに、何故か当日になって遅れる事になって。でも遅れてでも行けさえすれば連れて帰れるとは思ってたから、急いで到着したその場に泰がいなかった時には困惑した。
聞けば、酔い潰れたのを隣に座っていた男がタクシーで送って行ったという。
本條 和生。
経済学部のモテ男。
とにかく異様に顔が良いって話で、男も女も関係無く食い散らかしてるって話を聞いた事があった。
色男だけどシモは最悪。
そんな奴が下心無く善意だけで送ったりするか?
何でそんな奴が今更こんなちゃちい会に?
僕は血の気が引いた。
よりによって何で今日、この会なんだ。
何で泰なんだ。何で目をつけられたんだ。
慌てて店を出て泰に電話を入れたけど全く応答は無い。勿論、LIMEも既読にならない。
店に戻って本條の家を知ってる奴がいないか聞いてみたけれど、その日の参加者に本條とそこ迄の仲になった奴はいなくて、結局わからず仕舞いだった。
もしかしたら、本当に送っただけかも、と思い、泰のアパートへ急いだけれど、やっぱり帰っている気配は無かった。
そしてやっと連絡が取れたのは、翌日の夕方。
当然のように泰は本條のものにされていた後だった。
複雑そうな顔をしながら、『本條と付き合う事になった。』と 僕に告げてきた泰。
大体何があったか、わかるだろ?
目の前が真っ暗になるって、ああいう事なんだね。
その日から僕が本條を呪わなかった日は無い。
そして、僕が呪っている人間がもう1人。
僕は泰が本條と付き合いだしてから、泰のスマホを盗み見るようになった。
アパートに遊びに行ったり泊めてくれる頻度は本條と付き合う以前より下がったけど、泰は僕との友人関係だって大事にしてくれていた。
だから、泊めてもらった夜に、こっそりと。
勿論、泰の信頼を裏切ってる事に心が痛まなかった訳じゃない。最初は罪悪感もあった。でも、本條と何を遣り取りしてるのかを知りたい欲求と嫉妬が勝った感じ。
泰のスマホのパスワードは知ってた。時々見てたからね。番地は辞めた方が良いよ、って僕、何度も注意したのにな。
そういうとこ大雑把と言うか。
でもいざパスを打ち込んでLIMEに目を通したら、本條との遣り取りは案外素っ気ないものだった。
今日何時に、とか、少し早くつく、何か買ってく、だの。
何だ、やっぱ本條愛されてないなって唇の端が上がったよ。この分なら別れるのなんて直ぐだな、って。
それで、念の為本條のLIMEを泰と僕のトーク画面で共有して、すぐその遣り取りを削除した。
それから次に、気になってたヒロトのトーク画面を出してみたら、本條とのとは全く違う楽しそうな会話で。本條とヒロトを逆に間違えて見ちゃったのかと思った。それでも、本條と同じで色っぽい言葉は見受けられなかったから、そんな間柄では無いんだとはわかったけど。
でも、多分泰はヒロトの事が好きなのかもなって思った。何となく、ね。
それからフォトを開いてみたら、僕と一緒に行ったお祭りの時の写真や、連れてったカフェの写真、海の写真。食事に行った店で撮ったらしい泰と本條の写真も幾つかあったんだけど、、、カテゴリで動画を押しちゃったのは、好奇心だよ。
制服姿で棒付きキャンディを舐めてる泰が見えて、可愛くて、ついうっかり。
そしたら同じ制服姿の、キリリ顔のイケメンとスマホを取り合ってじゃれてた。背景は、多分学校帰りかな…地元なんだろうね、ちょっとした商店街みたいな場所を、歩きながら。
それでそれ以外も観てみたら、泰はそのイケメンの寝顔も、ほんの数秒だけど撮影してたり、普通の写真にもソイツと一緒に写ってる画像がやたらあって。
他の友人らしき奴らの写真もあったけど、圧倒的にそのイケメンが多いんだよ。
何だか、悔しかった。
泰はきっと本来はストレートで男性が好きな訳じゃない。
本條と付き合いだす前だって、男に興味のある素振りは全くなかった。
きっとこの画像の男とも、特別な関係ではなかったんだと思う。
けれど。
僕は現状、泰を独占している本條より、何故かその写真の男に嫉妬していた。
僕の知らない頃の泰を知る男。
多分これがヒロトなんだろうな、と思ったけど、確証は持てなかった。
この段階では、只の僕の推測に過ぎないし。
僕だって、もっと早く泰に会いたかった。
一緒に制服姿で写真撮りたかった。
学校帰りに一緒に寄り道してふざけたかった。
僕は自分の中にこんなにも他人を独占したいという、醜くて切なくて獰猛な感情が眠っていた事を知らなかった。
呼び起こしたんだ、泰。
お前が。
僕の友情も愛も嫉妬も、恋をする喜びも悲しさも辛さも、手に入らない哀しみも。
僕の全部を、お前が。
そしておそらく、そんな泰の全てを持ってってるヒロトという男。
多分、あの数多くの動画や写真の人物と同一人物だと思われる、その男。
嫉妬しない訳が無いだろう、なあ。ヒロト。
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