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17 本條 和生の告白 3
しおりを挟む『お前は泰に相応しくない。別れろ。』
犬が直接、接触を図ってくるようになった。
最初はせせら笑っていたのが、何度も何度も執拗くそんな事を言われて、終いには呼び出されるようになったから鬱陶しい。
それを無視していたら、今度は俺のLIMEにメッセージや画像を送り付けてくるようになった。
俺のID、どっから入手?って思ったけど、考えてみたら犬はヤスの家に泊まったりもしてるんだから、ヤスのスマホを盗み見る事なんか簡単に出来るんだよな、と気づいた。
犬が送り付けてくるのは俺が浮気相手とホテルに入っていくところや浮気相手の名前やいくつかの個人情報。
正直、ゾッとした。
コイツ、俺なんかより断然危ない奴なんじゃないかと思った。
相手迄調べるか?俺を脅す材料にする為に?
それでもヤスの横では人畜無害な顔をして居座ってるんだから大した猫っ被りだ。犬のくせにな。
俺がヤスと別れる気配が無いのに焦れたのか、その内犬は俺がヤスといる時を狙ってメッセージを寄越すようになった。
最初はブロックして対処してたけど、何度もID変えて送って来るからイタチごっこだなと結局放置するようになってたのが仇となった感じだ。
ヤスは潔癖なところがある。
万が一にもあんな画像見られたら俺は直ぐに別れを切り出される事になるだろうが、犬だってそれをどうやって調べて、どんな手段で俺のIDを知ったのかを知られるのは嫌な筈だ。
犬はヤスの前では汚い部分は見せたくないのがひしひし伝わってくるし、そういう点では犬と俺は似ていた。
誰だって自分の負の部分を好きな人に見られたくはない。
ヤスの知らない水面下での、俺と犬の戦いは続き、
とうとう業を煮やした犬はヤスに直接画像を見せる事をにしたと言い出した。
俺を排除する為に、自分の汚い部分をヤスの目に晒す事になっても仕方ない、と思ったようだった。
本当はクリスマス・イブのあの夜だって、ヤスと2人っきりで過ごすつもりでワインもケーキも、料理だって準備していたんだ。
なのに、『今直ぐに泰を帰せ。さもなくば泰のスマホを鳴らしてそこに乗り込む』と言い出した。
オートロックは設定を調整してしまえば切れてモニターに犬が映る事は無い。でも、そうしてシカトしたらヤスのスマホに直接画像を送り付けると言い出すんだから本当に厄介だ。
犬がそんな捨て身に出るとは思わなかった。それをされると流石の俺もフォローのしようが無くなる。
よりによってこんな日に、と舌打ちしたが、逆にこんな日だからこそ、なんだろうな、犬にしてみれば、と思い直した。完全に奴の思う壷にハマってる気がする。
普通に考えて、恋人同士で過ごすのが当然って認識されているような日に、急に帰されたら本人はどう思うか、って話だ。
突然、両親が明日来ると言い出した、って苦しい言い訳をヤスが何処迄信じてくれるかとは思ったけれど、ヤスはすんなり了承してくれて、それにも何故かモヤってしまう。
恋人の聞き分けが良いのは助かる筈なのに、少しくらいは疑念を持ったりしないのか、と複雑な気持ちになってしまう。
やっぱりヤスは俺を好きじゃない、と再認識してしまうからだ。
そして、ヤスが帰って行った後、犬は来た。
「こんな日の夜に帰されるなんて、きっと今頃変に思ってるんだろうなあ。」
犬は面白そうにそう言って、苦虫を噛み潰したような顔をしているであろう俺を見た。
「ざまぁ見ろ。」
そう言って、俺の襟元を掴んで引き寄せた。
「僕を抱けよ。レイパー。じゃなきゃ殴るんでも良いぞ。見えやすいところをな。
そうしたら今回は画像の事は黙っておいてやる。」
ニヤニヤしながらそう言い出した。
魂胆はわかっている。
おおかた、俺にレイプされたとか言ってヤスの幻滅を誘う気なんだろう。
俺が言うのも何だが、犬の目は正気じゃなかった。
俺は勿論拒否した。
もし、ヤスが浮気を知ったとして、その相手が面識の無い他人であるのと、一番身近にいる人間だったのとでは、受けるショックの質と度合いが違う。
それにこの犬は、それを只の浮気にはせず、自分は被害者として立ち回る気だ。
俺とヤスの間に決定的な亀裂を入れた上で、自分はやすの隣にのうのうと居座るつもりなのが見て取れた。
「バラすならバラせ。
俺はお前だけは御免だ。
気色悪い。」
「下半身の抑制の利かないケダモノの癖に、今更常識人ぶるなよ下衆野郎。
僕の泰を穢した癖に。」
口元に嘲り嗤いを乗せて、犬は掴んでいた俺の襟元を引っ張った。
「さっさと僕もレイプしてみろよ、屑が。」
そう言って、乱暴に俺の唇に噛み付いた。
ドアの開く音がして、視界の端にヤスの姿を認めたのはそのほんの2、3秒後の事だった。
まさかのアクシデントに、俺も犬も固まった。
ヤスは何故だか靴を脱ぐ素振りも見せず、俺達の横をすり抜けて、ベッドルームに入って行き、右手にスマホを持ってまた出て行った。
どうやらスマホを忘れていたらしい。
突然の思いがけないヤスの登場と退場に、俺と犬はその後も直ぐには動き出せず、やっと状況を飲み込めて、先に動いたのは犬の方だった。
奴が俺を引き寄せた癖に、何故が俺が殴られた。
ふざけるな、と殴り返そうとしたが、犬はみっともない程に泣いていた。
泣きたいのはこっちの方だ。
「これで、お前は終わりだ。」
そう言って犬はさっさと出ていき、俺は一人部屋に残された。
ヤスに、見られた。
よりによって、あの犬とのあんな場面を。
俺らしくもなく、震えた。
捨てられる、と直感した。
電話を、と思ったが、いくらコールしても、ヤスが電話を取る事は無かった。
犬め。
アイツこそ、俺以上に手段を選ばないとんでもない野郎じゃないか。
お人好しのヤスはきっとアイツを信じる。
だってアイツは尻尾を振る従順な姿しかヤスに見せてないんだから。
それに俺に不利な証拠は幾つもアイツに握られている。
そして後悔した。
愛されてないと拗ねて、ヤス以外と肌を合わせた俺自身が愚かだったと。
自業自得って、まさにこういう事なんだな。
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