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16 本條 和生の告白 2
しおりを挟む付き合って貰える事になったのは、最後は俺の力技だ。
殆どゴリ押し。
思えば出足が悪かったって今ならわかるんだけど、でもヤスみたいなタイプって普通に接してても気づいてくれないんだろうなとも思う。
意識の無い相手を合意無く犯したんだから、まあ俺は加害者だ。自覚はある。
でも俺は、昔から欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れないと気が済まない性分。
思い通りにする為には、人脈も金も、自分の体だって使うのを厭わない。
卑怯?知ってる。
だけどさ。偽善者ぶって欲しいものが人手に渡るのを見て後悔するよりよっぽど良くないかな?
他人がどう思うかもどうするかも興味が無いし自由だけど、俺はそういう考え方ってだけの話。
それが、物でも人でも。
ヤスは恋人になって暫くは、よそよそしかった。
まぁそりゃ…気持ちから始まった訳じゃなく、ある日突然出会って体から始まってしまった関係だったから、不本意だったんだろうと思う。
それでも2ヶ月もすると打ち解けてくれて、親密になって、週に何度もウチに来てくれるようになった。
デートにもよく行ったし、一緒に行きつけにした店も何軒もある。
ヤスはバイトもしてるし、時間的にも体力的にも無理させてるってわかってたから、ヤスのバイト代くらい俺が援助するし辞めたら?って言った事があった。
そしたら数日、口を聞いてくれなかったから、アレは言っちゃいけない事だったんだと理解した。
そういう真面目なとこも良いよね。
俺は只、ヤスの体がラクになればと思っただけなんだけど、ヤスにとってはバカにされたように感じたのかもしれない。
ヤスのプライドを傷付けるような考え無しな発言だったって反省した。
ヤスはバイトの日は会ってくれない。
単に時間が無いってだけの理由だったんだろうけど、そんな日はたまに自分のアパートの部屋に例の親友とやらを泊めたりもしていたようだ。
ヤスの交友関係に迄口を出すと嫌われるから黙ってたし、俺に会うまで性体験が無かったのも知ってるから、ソイツとの関係を疑ったりはしなかったけど嫉妬はしていた。
それで、その親友とやらが学内でよく一緒に歩いてる奴で、あの日居酒屋に入れ違いで入ってった男だと知った時はほんと笑った。
ソイツ、俺に遭遇する度に睨み付けてくるから、多分あの夜何があったのかわかってるんだろうな。
そりゃ、男にお持ち帰りされた友人が、その直後からその男と付き合い出したら流石にわかるか。
俺に対する視線に込められた殺意に、俺だって気づいてた。
だから嗤って、声を出さずに言ってやった。
『ご愁傷さま。』
ソイツ、絶対ヤスの事を好きだから。
俺はソイツを心の中で犬と呼ぶようになった。
ヤスに付きまとっているのに、関係を壊す勇気が無くてひたすら尻尾を振り続ける犬。
一生オアズケされてろ。
それに正直、ヤスの気持ちを100%手に入れられない原因は他にあったから犬は眼中に無かった。
一緒に過ごして、セックスして、くっついたまま寝て、なのにヤスは時々、違う男の名前を口にする。
まあ 寝言なんだけど、名前を呟いて微笑んでいる時もあれば、涙を流している事もある。
只の友人?兄弟?
それにしては、出てくるのがソイツ一人だけだなんてピンポイントすぎるだろ。
犬や他の友人達の名前どころか、現在進行形で付き合っている彼氏の俺の名前すら出てこないのに。
最初にその名を聞いた時にヤスに聞いてみたら良かったんだろうか。
でも出来なかった。情けなくも、この俺が。
理由?簡単な事だ。
その頃には俺は既にどっぷりとヤスに嵌っていて、ヤスの答えを聞くのが柄にも無く怖かった。
ノンケだと思ってたけど、実は違ったら?
実は好きだった相手だと言われたら?
考えてみてほしい。
同じシチュエーションでこれが女の名前だったら、明らかに元カノか好きだった相手だと思わないか?
今は俺のものなんだ、俺の恋人だ、ヤスの初めてを奪ったのは俺だ、って自信を持ちたくて、ヤスを執拗く抱いた事もある。
大好き、愛してる、可愛い、離さない。そう言いながら何度もヤスの中に射精して。
たくさんの愛の言葉で呪いをかけて雁字搦めにしてしまうつもりだった。
だってヤスは俺を好きじゃないんだ。逃げられないように俺が縛らなきゃ。
俺の愛の言葉に、ヤスが答えてくれた事は一度も無かったんだから。
自覚して名前を呟いている訳では無いヤスに、それ以上酷いセックスで当たり続ける事も出来ず、俺のフラストレーションは最高潮に達した。
只でさえ、ヤスは毎日頑張ってる。体力を奪い過ぎて体を壊されるのも嫌だ。
俺はヤスに会えない日に、適度に発散をするようになった。
有り体に言えば、浮気だ。
ヤスに出来ないような事を、気兼ね無く出来る相手達。大事に気遣う必要の無い、ヤスとは違う人間達。
人を何だと思ってる、と言われそうだけど、相手だってそれで納得してるんだから外野がとやかく言う事でも無いだろ。
遊びは遊び。
誰だって自分の恋人は特別枠じゃないか。
それにさ、単に発散目的の体だけの関係と、心を他に奪われてるのと、どっちが酷いんだろう。
寝言で、
『ヒロト…すきだ…』
って聞いた日、気づいちゃったんだよ。
俺、一度も 好きだ って言って貰えそうにないな、って。
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