身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。

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11 問われる俺の危機管理能力

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『明後日、時間あるか?』

送信すると、間髪入れず着信が入って来たが 俺は出なかった。


『通話はしない。明後日の都合が悪いなら来週で良い。』

と送ると、

『明後日何時でも大丈夫。』

と返事が来た。

『じゃあ明後日、夕方行く。』

『待ってる。』


その遣り取りをしただけで、LIMEは静かになった。


「やっぱり危ないんじゃない?」

風祭は不安そうに俺を見る。

「……ま、大丈夫だろ。」

「だってアイツ、僕以上になんか必死…。」

「……ま、何とかなるだろ。」

「心配だなあ…。」


俺も心配だ、俺の事が。

だけどこれは俺が決着をつけねばなるまいよ。


「何かあったら僕を呼ぶんだよ、絶対だよ。」

俺よりテンパってる風祭を見て、何だか微笑ましくなる。

「ごめんな、猿とか思って。」

「え?猿?なに?」

不思議そうに言いながら俺に聞き返す風祭。
いや、お前は知らなくて良いんだ。

にこっ、と俺なりの精一杯の謝罪を込めた笑顔に何故か顔を真っ赤にする風祭。

あ、俺、さっき風祭に告白されたんだったっけ。


「は、反則ゥ…狡いよ泰。
そんな風にしたらすぐ誤魔化せると思って…。」


直視しないようにしているのか顔を隠した指の間から俺を見ている風祭。
いやそれ普通に見えるやつじゃねーか。
それに俺なんかのモブスマイルで誤魔化されるのは風祭、お前だけだろうよ…。


その後、泊まっていくと聞かないので、インスタントラーメンを作ってやった。
2週間部屋を空けていたので冷蔵庫にはろくな食材も無く、買い物に行かないと何も無いから外に何か食いに行こうか、と提案したんだが、
『泰が作ってくれるなら何も入ってなくても良い。』
と言うので、文字通り湯を沸かして乾麺とスープぶっ込んだだけの素ラーメンを出してやった。

風祭はとても良い笑顔で食べていた。

ごめんな、セレブ様に素ラーメン食わせて。
せめてもの詫びに、今度は具ありおにぎり供えてやるから。

そして何時ものように風呂に乱入され、一組の布団で一緒に寝た。
横たわると今日の情報過多による疲れが一気に来たので、数秒で寝落ちる。


そして翌朝、何故か風祭に説教をされた。

あの後 風祭は俺の寝顔を眺めながら溜息を吐いていたと言われた。知らんがな。

「駄目だよ泰。
自分を好きって言ってる男を安易に泊めちゃ…。
僕は泰の学習能力の無さにびっくりしたよ。」


朝から近所のコンビニに朝食を買いに行ってきてくれたらしい風祭は、俺の前にサンドイッチを載せた皿を置きながら真剣な顔でそう言った。

なんつー理不尽な説教のされ方だ。
お前が、捨てられた子犬のようにしょぼくれながら泊まりたいと言うから俺は。

「今迄みたいに本條にいいようにされちゃ駄目だからね。」

「……。」


俺は学習能力が無いんじゃない。
昨夜泊めたのは、お前を信頼すると決めたからだぞ、風祭。
少なくともお前は本條のような事はしないと昨日信じたからだぞ風祭。

そんな思いを込めて、じっと見詰めたが、

「…そういうとこだよ、言ったそばから。そんな可愛い目で見られたらまた勃っちゃうだろ。」

と、少し耳を赤くしながら、温かいカフェラテを入れたマグカップをサンドイッチの皿のそばに置いた。

「…………いただきます。」

俺はサンドイッチを口に運んだ。
また、って何だろう、とか、そんな綺麗な顔して俺の知らない内に俺の部屋で勃起してたのか、とかそういう事は考えない事にした。
サンドイッチは俺が一番好きな玉子サンドだった。





翌日は年始のバイト初日で、バイト仲間にシフトの時間を変更してくれと頼まれた日だった。
俺は大手ファーストフード店のキッチンで週に3日、主にバーガーを作ったりポテトを揚げたりしている。
繁華街近くにある店舗なので普段から忙しいっちゃ忙しいんだけど、今日はお節飽きしてる勢も混ざってるのか更に目まぐるしい忙しさだった。
5時間が瞬く間に過ぎていって、年末年始でダラけた心身には少しキツい。

それでも無事に勤務時間が終了して、俺は退勤を切りロッカールームで着替えて、同僚達に挨拶をしてカウンター横から出た。
今日は夕方迄のシフトだったから、未だスーパーにも余裕で寄れる。
食材買い込まなければ。
幸い、正月明けなので親戚からのお年玉で懐は温かい。


店を出て駅迄の数分の道。少し歩いたところで、人波の向こうに見覚えのある人影が見えた。

進行方向なので徐々に近づくと、人影が俺に向かって口を開いた。

「バイトお疲れ様。」

「…明日って、言ったよな。」

「どうしても会いたくて。」

黒いカシミヤのロングコートの似合うすらりとした長身に、艶のある黒髪ウェーブヘア。
少し寂しげな、眉を寄せた微笑みも、計算なんだろうか。

コイツのわかり易いあざとさにしてやられて、この姿が見える度に心臓が高鳴った時期も確かにあった。
でも今は…。

「予定外の事をされても困る、本條。」

俺が抑揚を抑えた声でそう言うと、本條の左眉が少し動いた。

「…何時もみたいに名前で呼んでくれないんだ?」

「これからの話によっては話す事も無くなるだろうな。」

俺の声に感情が篭っていないのを感じ取ったのか、本條の顔から微笑みが消える。

「そんな意地悪、言わないでよ。悲しくなっちゃうな。
俺がヤスを大好きなの、知ってるでしょ。」

あまり見ない本條の真顔に、昨日の爆連LIMEが脳裏に蘇ってきて、少し寒気がした。


「疲れたでしょ。5時間、あんなにひっきりなしに動いてたもんね。
今日はあの邪魔な犬もいないみたいだし、何か食べに行こうよ。」


(この状況でも、そんな事言えるんだな。)


俺は本條の本当の顔を、やっと知り出したのかもしれない。





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