身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。

Q.➽

文字の大きさ
上 下
10 / 30

10 九重 裕斗は殺意を抱く。(裕斗)

しおりを挟む



幼馴染みの泰の乗った高速バスを見送って、俺は乗り場を後にした。
駅に隣接してるから、そのまま改札を入り電車に乗って、来る時は2人で見た車窓からの景色を今度は1人で見ている。
さっき抱きしめた感触が、未だ腕に残っているようで心が温もる。
殴られた頭はジンジンしてるけど、この痛みもさっき迄 泰がいた証拠だと思うと目尻が脂下がる。



俺は出会って15年、ずっと泰に惚れている。





幼馴染みの田中 泰との出会いは、幼い頃に俺達一家が泰の家の2軒隣に引っ越して来た時だった。

俺は5歳、泰も5歳。

その時は、同じ歳の子供が近所にいるのか、ってだけだった。
でも子供の頃って、馴染み出すと本当に急速に仲良くなる。
俺も、近所だからと一緒に幼稚園に行ったり、遊んだりしてる内にすっかり泰と仲良くなった。
俺は小さい頃はなかなかの内弁慶で、新しい環境にも知らない大人達にも慣れにくかった。
それをフォローして、他の子供達との間を取り持ってくれたり、構ってくれたのは泰だ。
小さい頃の泰は、すごく大人びていて、優しくて、体の成長も早くて、同年代よりやや背が高かった。
顔も普通にスッキリ整ってたから、男女問わず人気もあった。
俺はそんな泰を大好きになって、俺だけのそばにいてほしくて、ずっとじゃれついていた。泰も、それを拒まなかった。

小学校高学年頃には、俺は自分が泰に対して持っている感情が恋だと気づいていた。
夢の中で泰とキスをすると、起きた時には夢精していたし、そばにいるだけでドキドキして幸せな気持ちになったからだ。
泰に対する独占欲の深さは自覚してたから、別に驚かなかった。
あ~、やっぱりな、ってだけ。
なのにその頃くらいから何故か俺には急激に女子が纏わりつき出して、学校にいる間はなかなか泰と一緒にいられないのが不満だった。

中学に上がると俺と泰の成長の度合いは目に見えて変わって、中二の時には泰の背丈を抜かした。
ウチは両親共に身長高めだから単純に遺伝子の関係だろうけど、これで泰を自分の腕の中に囲い込めると嬉しかった。

ところが、だ。

泰は、敏い割りには自分に対して向けられる好意にはものすごく鈍感だった。
確かに泰の見た目は普通と言えば普通だけれど、俺から見れば可愛い(欲目?)しカッコ良いと思うのに、何故あんなに自信が無いのか。
泰本人は、『自信が無いんじゃない、己を知ってるだけだ。』とか言うけど、必要以上に自分を過小評価し過ぎだと思う。
頭だって良いんだし、人受けだって悪くないのに。
その証拠に、泰を好きって奴は何人かいた。
全部摘んだけどな。(笑)

中でも厄介だったのは、俺が高校で付き合う事になったカノジョの里穂。

同じクラスだった里穂は最初、隣のクラスの泰を見て、『田中君ってなんか良いよね…安心感あるってゆーかぁ~。』とかふざけた事を抜かしていたのだ。
里穂はギャルだが、小さい頃から実家がゴタついていたらしい影響からか、高校生の癖にやけに安定志向の女だった。
それならまず、お前のファッションから落ち着かせろって話だけど、押しの強いところがあったので放置してたらマジで泰に凸りそう…。そう考えた俺は、里穂に気のある素振りを見せて、2ヶ月かかって心変わりさせる事に成功した。
今迄の奴に比べると時間もかかったし、フリーにすると泰に行きそうだったので高校卒業迄別れられなかった。大学に上がっても付き合いが続いてたのは単なる惰性だ。

泰も他府県に進学したし、里穂は専門学校に進んだので接触の機会は絶たれた。俺とも殆ど会う事もなくなってたから、その内自然消滅を狙ってた感じで、別れるのは時間の問題だった。

本当は俺も、泰と同じ大学に行きたかったんだけど、それには母さんが反対した。
俺が異常に泰に執着してるのを、母さんは勘づいていたようなのだ。

まあ俺んちであれだけ、付き合ってる筈のカノジョ達以上にベタベタしてたら、嫌でもわかるわな。
だけど、泰は鈍いから俺の気持ちに気づいてなかったし、それに、何処から見てもノンケ…つまり、俺(男)には興味が無いようで、じゃれ合いは何処まで行ってもじゃれ合い以上にはならなかった。
俺はセクシャルな意味で触れているのに、泰は笑って受け流す。
まさに、暖簾に腕押し状態。

俺はじりじりと自分の欲を持て余し、もういっそ襲ってしまいたい気持ちと、嫌われて泰の笑顔を失いたくない気持ちの狭間で葛藤。
それでも実際に泰と会うと、こうして一緒にいられたらそんな事はどうでも良いかと思ったり。

そんな状態に気づいてる母さんは、泰が進学先を他府県にしたと聞いた時、俺が同じ大学を志望するのに強く反対した。
母さんは、泰が俺から距離を取りたがっているのかも知れないと思ったらしい。
『迷惑だと思われてたらどうするの?嫌われても良いの?
一度離れてあげなさい。』
と諭されて、俺は泰と同じ大学を諦める事にした。

でも、心配だった。
泰を1人にする事が。
しっかりしているようで、結構隙だらけのアイツをそばで守ってきたのは俺なのに。
3ヶ月や半年に一度程度の逢瀬では全然足りない。
理由を付けて押しかけたりもした。
やけに仲の良い友達はいるようだったけど、恋愛めいた話は泰の口からは出てこなくて安心していた。

しかも、前回泊まりに行った時にはずっと好きだったのにと告られて、俺は一気に天にものぼる気持ちになって、浮かれた。

それなのに一昨日、実は告った事すら忘れられてて、その上少し目を離してた隙にでっかい虫がついてた事を知った時の、俺のショック…。
お分かりいただけるだろうか。泣きそうになったぜ。
俺の…俺が貰う筈だった、泰のバックバージンが…。(号泣)

しかも短期間の内に、どんだけ泰を傷つけてくれてんだ、っつー野郎みたいなんだが。
いや実際のところは未だ連絡待ちだけど、ソイツとの件が片付かないと俺との関係が進められない。

よりにもよって、何でそんな厄介そうな相手に。
話を聞いた限り、泰は絶対嵌められたんだ。

悔しい。悔しい、殺してやりたい。



俺は顔も知らない本條に殺意を漲らせながら、泰にLIMEのメッセージを打つ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

処理中です...