9 / 30
9 ブロック解除してみた
しおりを挟むだが、本当の衝撃は、寧ろそこから始まった。
風祭は更に続ける。
「その証拠を突きつけて、泰と別れろって言ったら、あの晩、あの時間に来るように指定された。」
「…本條が指定したのか。」
「うん。だから泰が帰ってくの見計らって入ったんだ、アイツのマンションに。」
「……。」
「そしたら、アイツ、僕にあんな事…。
多分、無理矢理ヤッてそれで脅して黙らせるつもりだったんじゃないかな。
籠絡するのが得意技みたいだし。
で、丁度その時に泰が戻って来たから…。」
「ああ…じゃあ、あれは…。」
「不意打ちに泰の姿を見て、僕もアイツも固まっちゃったけど、泰が出てった後アイツの力が弱まったから取り敢えず殴り付けて逃げたんだ。」
「あの後?直ぐ?」
「うん。でももう、泰に連絡つかなくて。
全部シャットアウトされてるのかって気づいたら、泰に会わなきゃいけないのに、会うのも怖くなって。
でもやっぱちゃんと弁解しなきゃと思って翌日此処にきたんだけど、…泰、いなくて…。」
また瞳を潤ませる風祭。
膝の上に置いた両の拳を固く握り締めている。
風祭の言葉を信じるなら、風祭は本條の浮気相手ではなく、直談判に行って襲われかけてたって事になるんだろうか。
本條が?
口を噤ませて、証拠を握り潰す為に、風祭を?
何でそこ迄しなきゃなんないんだろうか。
俺に知られて別れる事になっても、本條には特にダメージは無い。
「……あ、そうか…!」
俺は1つの可能性に閃いた。
「本條、実はカザ狙いだったんじゃね?」
「はぁ?」
「だって、普通、そういう話するのにあんな日に呼ばなくね?」
「いや、そんな訳ないだろ…。
飛躍し過ぎだよ、泰…。」
再びガクリと項垂れる風祭。
そうかなぁ…。
だってさ。
風祭経由で次々伝わってくる本條のイメージだと、すごく節操無しな感じするじゃん。しかも男女問わないんだろ?
俺と別れろって話するのに接触を図られてる内に、美形の風祭に目をつけても不思議じゃないような気がするんだよなあ。
風祭を見て考え込む俺。
風祭は、
「いややめてよ…有り得ないから。」
と、表情を失くしたので、どうやら本当に嫌なようである。
その様子を見る限り、本当に本條とのそういう関係は無いんだろう。
浮気ってのも、たまたまあの場面を見た俺の思い込みだったんだな。
風祭は風祭なりに、俺の為を思って動いてくれていたのだ。…まあ、嫉妬という私情は入っているんだろうが、それでも俺を裏切ってた訳ではなかったと知れただけ、気が楽になった。
直ぐに卑屈に疑ってしまったのは、俺が自分に自信が無いからなのかもしれない。
俺は、本條と付き合いだしてからずっと、本條に釣り合わない平凡という陰口を聞いてきた。
本條に見合って、尚且つ付き合いたいと思ってる奴らから。
釣り合わない。自分でもそれは認識してる。
してるけど、わかってても、それを更に他人から言われるのってなかなかしんどいものがある。
本條は俺に優しかったけど、好きにさせられてしまうくらい優しかったけど、きっと本條には俺では役者不足だってのはわかってた。
好きだけど、俺は別れ時を探っていたのかもしれない。
だって俺には、優しさでコーティングされた本條の本質が、全然見えなかった。
本條からは耳触りの良い言葉だけを与えられて、周囲からは悪意をぶつけられて、何となく自分には向かない恋愛をしてるなって思ってたとこ、ある。
そして、きっと本條も俺と本気で恋愛なんかしていなかった。
「…きちんと、別れないとな…。」
風祭の告げた全てを一方的に信じる訳じゃない。
本條が、浮気していながらも一応は俺とオツキアイをしていた気でいたのなら、きちんと向こうの言い分も聞いた上で、フェアに別れよう。
俺はそう考えを纏めて、本條に連絡を取る為にスマホを上着のポケットから出した。
「あ、やべ…。」
裕斗からLIMEがやたら入っている。
開いてみたら無事着いたかの確認で、緊張してた気持ちがホワッとする。
取り敢えず、着いたという事とスタンプだけ送っとくか…。
それから本條のブロックを解く。
すると数秒置かず、メッセージが入り出した。
『ねえ、会いたい』
『本当に出来心だったんだ、そろそろ許して』
『ほんとにブロックしてるの?』
『俺の事好きじゃないの?なんで許してくれないの?』
『どこにいる?』
『もう絶対しないから』
『限界だよ、顔が見たい。どこに行っちゃったの?』
『好き、好き好き好き。』
『もうヤス以外見ないからお願い』
『ちゃんとヤスだけにしたんだよ。スマホだって見てくれて良い。』
『抱きたい抱きたい抱きたい』
『なんで許してくれないの?』
『好きなのはヤスだけなのになんで』
「…………。」
「…………。」
風祭と一緒にそれを眺めながら顔を見合わせる。
LIMEはブロック中のメッセージは受信しない。
つまりこれは、リアルタイムで本條がずっと送り続けているという事。
「………アイツって、こんな感じなの?」
風祭が我に返ったように俺に聞いてきた。
「…いや、何時もはもっと普通だ…。」
「…そっか…。」
どうしよう。
これ、会っても大丈夫なやつだろうか。
「泰、どうするの?」
風祭が少し不安そうに俺の顔を覗き込む。
「そうだなぁ……まあ、話はしなきゃな。」
まさかとは思うが、本條はこの10日、ずっとこの調子でメッセージを送り続けていたんだろうか。
(…まさかな。)
まさかと思いながら、少し背筋が寒くなった。
文章からすると、やはり浮気していたんだな、とはわかった。出来心、だの、もうしない、だの、ヤスだけ見るから、だの。
本條は意外と俺の事が好きなんだろうか?
「…………いや、無いな。無い。」
俺はかぶりを振った。
思い上がるな、俺。
本條は 只、こういう対応をされ慣れていないだけなんだろう。
本條みたいな人間は、何時だって相手を切り捨てる側なんだろうし。
「…こんな奴と話なんて、大丈夫?俺、ついてくよ。」
風祭は気持ち悪いものを見るかのようにスマホの画面を見て、次には俺を気遣うようにそう言った。
でも、本條にこれ以上風祭を関わらせたら更にややこしい事になる予感しかしない。
「大丈夫。」
俺はそう言って、本條に返信を打った。
74
お気に入りに追加
3,379
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる